マッサと、幸せな日々
それから、マッサたちはふたたび空飛ぶ船に乗りこみ、タータさんのふるさと、《荒野を見張る目》の一族がすむ森までやってきた。
タータさんは、故郷を見て目を輝かせ、船べりから身を乗りだして、四本の腕をぶんぶん振りながら叫んだ。
「おーい、おーい、おーい! わたしです。帰って、きましたよーっ!」
「なに、なに、なに? 今、どこかから、お兄さんの声が、聞こえたみたいだけど。」
「あーっ! 見て、あそこ! 空から、なにか飛んでくる!」
「ほんとだ! しかも、お兄さんが、乗ってるわ! おーい、おーい、おーい!」
タータさんの妹たち、テート、ラート、ナートが気づいて、村じゅうの人に知らせてくれたから、マッサたちが着陸するころには、もう、村じゅうの人たちが集まっていた。
「ただいま、帰りました!」
と、タータさんが、元気よくあいさつした。
「わたしたち、大魔王を、やっつけてきましたよ。だから、もう、安心、安心!」
「やったー! お兄さん、すごい!」
「だから、最近、化け物鳥が、ちっとも飛んでこなかったのね。」
「お兄さんたちの、おかげだったのね! すごーい!」
「これで、わしらの村に、また、昔のように、多くの旅人たちが訪れてくれるじゃろう。おもてなしの、準備をしておかなくてはのう!」
タータさんの妹たちも、長老さんも、村のみんなも、大喜びだ。
そこへ、
「ああーっ! 王子! ガーベラ隊長、ディール!」
「ご無事のお帰り、お待ちしておりました!」
「大魔王を討ち果たし、戻られたとか! さすがです!」
すごい勢いで駆けつけてきたのは、《銀のタカ》隊の騎士たちだった。
そう、マッサたちが、はじめてこの村を訪れた夜に、化け物鳥にやられて、重いけがを負っていた人たちだ。
「おお、ルーク、ハイモン、リゲル! おまえたちこそ、元気そうで何よりだ!」
ガーベラ隊長が、笑顔で騎士たちの肩を叩いた。
「傷は、もう、すっかり治ったのか?」
「ええ、もちろん! この村の人たちの手当ての腕がよかったおかげです。」
「よかったぜ! これで、また、前みたいに飛べそうだな。」
ディールも、笑顔で言った。
「しかし、よく考えたら、俺も、お前らと同じくらい、長いあいだ飛んでねえからな。勘が戻るまで、しばらくかかりそうだぜ。砦に戻ったら、すぐに特訓しねえと。……そうだ、俺たちの『翼』はどこにある?」
「ここよ!」
「ちゃーんと、預かっておいたから、大丈夫!」
タータさんの妹たちが、にこにこしながら、ディールとガーベラ隊長の『翼』を運んできた。
「でも、みなさん、そんなに急いで、帰っちゃだめ! わたしたちの、おもてなしを受けてくれなくちゃ。」
「そうそう! 今、みんなで、大急ぎで、ごちそうの用意をしているの。今夜は、お祝いよ!」
「うっ。」
と、ディールが、ちょっと顔色を悪くした。
「その、ごちそうってのは……まさか……あの、でっけえ芋虫じゃねえだろうな?」
「ええ、もちろん! ヨロイムシの幼虫も、たーっくさん用意するわ!」
「げえっ! ……いや、あのよ。気持ちはありがてえが、俺たちは、あれはちょっと苦手……」
『むし、おいしい! ぼく、いっぱいたべる! ウフフフフーン……』
「いや、俺は、苦手なんだっつうの!」
おいしい思い出に浸って、喜んでいるブルーに、ディールが叫ぶ。
「大丈夫、大丈夫! みなさんが、好きな食べ物、ちゃーんと覚えてるから。ねーっ!」
「そう、そう! ちゃんと、果物も、いっぱい用意するわ。ねーっ!」
「よ、よかったぜ……また、あれが出てきたら、俺は、ぶっ倒れるぜ。」
ディールがぶつぶつ言っていると、村で手当てを受けていた騎士たち、ルークとハイモンとリゲルが、
「なんだ、ディール、おまえ、ヨロイムシを食わないのか? うまいぞ!」
「そう、そう! 祝いのときにしか食べられない、ごちそうだぜ。」
「とろっとしてて、ちょっと甘くて、うまいよなあ! 栄養もあるし。」
と口々に言った。
「何っ!? おまえら、あれが、気に入ってるのかよっ?」
「みんな、完全に、この村のくらしに慣れてますね!」
マッサも、これにはびっくりしたけど、それは、すごくいいことだという気がした。
「最初はびっくりするけど、慣れると、意外といけるのかも。……ぼくも、ちょっとだけ、チャレンジしてみようかなあ。もしかしたら、ちょっとかじって、残しちゃうかもしれないけど。」
『のこりは、ぼく、たべる! おいしい! ディールも、ちょうせん! ウフフフフーン……』
「いや、俺は、食わねえよ……」
《荒野を見張る目》の村で、楽しい時間を過ごした後、マッサたちは、タータさんといったんお別れして、空飛ぶ船に乗り込み、翼の騎士団のとりでがある街に帰ってきた。
マッサたちが戻ってくることは、ずいぶん遠くから、もう発見されていて、大勢の騎士たちが、空に舞い上がり、マッサたちを出迎えてくれた。
「みなさん、ただいまーっ! 大魔王を、やっつけて、ぼく、帰ってきました!」
「王子、お帰りなさい!」
「仲間の方々も、ご無事で何より!」
「うおおおお! アイナファール姫さま、生きておられたのですね!」
「となりに、シュウさまもいるぞ! すごい! この十年、こんな喜ばしいしらせはなかった!」
「ガーベラ隊長! ディール!」
と、飛びながら呼びかけてきたのは、懐かしい『三日月コウモリ』隊の隊長だ!
「みごとに任務を果たし、戻ったのだな。すばらしい! あなたがたに、こうしてまた会えて嬉しいぞ。部下たちも、無事に治ったようで、本当によかった!」
「ああ。」
ガーベラ隊長が、にやりと笑って、親指を立てた。
「私も、最高の気分だ!」
空飛ぶ船が着陸すると、とりでの人たちや、町の人たちが大喜びで出迎えてくれて、町は、いくつものお祭りが一気に始まったみたいな、ものすごい大騒ぎになった。
「おーい、おーい、マッサ! ……じゃなかった、王子さま!」
「ああーっ!? ガッツ!?」
ものすごい人ごみのなかを、何とかすり抜けてきた『青いゆりかごの家』のガッツが、マッサの前に立った。
「おまえ……じゃなかった、王子さま、すげえな! ほんとに、やりとげたんだな! ほんとに、すげえ! 尊敬するぜ!」
「ありがとう。でも、ぼくだけじゃなくて、みんなの力で、何とかなったんだ。それに、ぼくのことは、前みたいに、マッサって呼んでよ。ガッツから、王子さまなんて言われたら、なんか、おかしいよ。」
「そうか? じゃ、遠慮なく……マッサ! ほんとに、ほんとに、よく帰ってきたなぁ!」
マッサとガッツは、がっちりと抱き合って、再会を喜んだ。
「マッサおにいちゃん! おかえりー!」
「こわいやつ、やっつけた? もう、こわいやつ、こない?」
「あっ、みんな! うん、こわいやつは、ぼくたちがやっつけたから、もう、大丈夫だよ。」
「マッサ王子ーっ! お帰りなさーいっ!」
「あっ、コックさんたちだ!」
「今夜は、王子のお帰りを祝って、町のみんなに、腕によりをかけた料理をふるまいますよ!」
「りんごも、いっぱいあるからな! もじゃもじゃも、楽しみにしててくれ!」
「ぼく、もじゃもじゃじゃないっ! ブループルルプシュプルー! でも、りんご、おいしい! ウフフフフーン……」
たくさんの再会、たくさんのお祝い――
そして、ガーベラ隊長とディールといったんお別れしたあとで、マッサは、ブルー、お母さん、お父さん、フレイオといっしょに《魔女たちの都》に戻った。
マッサのお母さん、アイナファール姫が、マッサのおばあちゃんから、あらためて女王の位を受け継ぐことになっていたからだ。
位譲りの儀式は、盛大にとりおこなわれ、アイナファール姫が、この国の新しい女王になった。
マッサは、王子として、忙しい毎日をおくることになった。
いっしょに《魔女たちの城》に住むことになったフレイオに教えてもらって、魔法の修業を続け、空を飛ぶ魔法だけじゃなくて、いろんな魔法が使いこなせるようになった。
もちろん、今は女王になったお母さんも、女王を引退したおばあちゃんも、マッサに魔法を教えてくれたり、いろんなおはなしをしてくれたりする。
お父さんのシュウとは、いっしょに遊んだり、森のなかや、川のそばを、いろんな話をしながら歩いたりすることもあった。
それだけじゃない。
お父さんは、マッサに、自分が身につけている剣術のわざを、ぜんぶ教えてくれた。
マッサは、お父さんに習ったわざを、何度も練習して身につけて、だんだん、強い剣士に成長していった。
そして、おばあちゃんと、お母さんと、お父さんだけじゃない。
マッサには、さらに、家族がふえた。
お父さんとお母さんが、また一緒に暮らせるようになったから、マッサには、妹が一人、弟が二人のきょうだいが生まれたんだ。
マッサは、妹や弟たちのお世話をしてあげて、毎晩、寝る前には、《マッサと、八人の仲間》の冒険のおはなしを聞かせてあげた。
妹や弟たちは、おはなしが楽しいところに来ると、キャッキャッと笑って喜び、おはなしが怖いところへ来ると、ふとんの中に隠れて、そーっと目だけ出して、続きを聞いていた。
「おにいちゃん、ぼく、ゲブルトのとうの、おはなしがききたい! おにいちゃんが、わるいまほうつかいをやっつけて、おかあさんをたすけてあげるところ!」
「うん、今日は、そのおはなしも聞かせてあげるよ。」
「ぼくは、おにいちゃんが、じめんのしたを、あるいていくはなしがききたい! モグさんが、みちあんないをしてくれるんだよね。」
「うん、大きな竜の、岩神さまの尻尾にも乗ったんだよ。」
「わたしは、ブルーがすき! おにいちゃん、ブルーがりんごをたべたときのおかお、して!」
「いいよ。……りんご、おいしい! ウフフフフーン……」
『ちょっと、ちがう!』
こういうときはいつも、横で聞いていたブルーが、さっと立ち上がって、やってみせてくれる。
『りんご、おいしい! ウフフフフーン……』
ブルーの「おいしい顔」を見て、みんなが楽しい気持ちになって、大笑いする。
その様子を見て、お母さんとお父さんと、おばあちゃんが、にっこりと笑う。
本当に幸せな、すばらしい日々が続いた。




