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予言の謎、とける

「言われてみれば、確かに、そうだな。」


 ガーベラ隊長も、なるほど、という顔になって、大きくうなずいた。


「魔女たちの予言は、これまで、外れたことがない。――そのはずだ。確かに、数字が一人分ずれているというのは、気になる。今回に限って、予言が、外れていたということなのか?」


「そんなことは、ないと思うのだけれど……」


 と、アイナファール姫が、控えめに言った。


「でも、実際に、数字がずれているのいうのは、おかしいわね。」


「もしかしたら、俺が、付け足しで、余計だったということなんだろうか?」


 旅の一行に最後に加わった、マッサのお父さん、シュウが、ちょっと居心地悪そうに頭をかきながら言った。


「いや、お父さんが余計だったなんてことは、絶対、ないと思うけど。

 ねえ、おばあちゃん。その予言の言葉って、いったい、どうやって出てきたものなの?」


「うむ。魔女たちのあいだに、代々受け継がれてきた、『予言の書』という一冊の本があってな。」


 マッサの質問に、おばあちゃんは、重々しく答えた。


「強い力を持った魔女たちが、その本を囲んで集まり、心をひとつにして魔法をつかうと、白いページの上に、予言の言葉が浮かび上がるのじゃ。

 これまでのページを調べてみると、すべて、歴史上、本当に起こったことばかりが書かれておった。事実と違うことが書かれたページは、ひとつもなかったのじゃ。だからこそ、これまでに、予言が外れたことはない、と断言できるのじゃ。」


「そうなんだ。」


 と、マッサは言ったものの、やっぱり、実物を、この目で見ないことには、完全には納得がいかない。


「おばあちゃん。よかったら、その本を、ぼくたちにも見せてもらえない? ぼくたちのことを言った、予言の言葉っていうのを、この目で見てみたいんだ。」


「うむ、本当は、国に危険が迫った、極めて重要なときにしか、『予言の書』は開いてはならぬというしきたりじゃが……まあ、こんな場合なのじゃから、かまわぬじゃろう。さあ、来なさい。」


 おばあちゃんは、みんなを、厳重な魔法の鍵で何重にも守られた、分厚い石の壁の部屋に案内した。

 その部屋の中央には、背の高い、一本足の、美しい木のテーブルが置いてあって、その上に、とても分厚くて、とても古そうな、一冊の本がのっていた。

 あれが『予言の書』だ。


「この、いちばん新しいページに……」


 と、慎重にページをめくったおばあちゃんは、急に、目を見開いて、


「こ、こ、これは!?」


 と叫んだ。


「えっ、何、何!?」


「何だ、何だ!?」


「何があったのです!?」


『テーブル、たかい! ぼく、みえない!』


 と、みんなが大騒ぎをしながら、どやどやどやっ、と『予言の書』を取り囲み、次の瞬間、いっせいに、


「えええーっ!?」


 と叫んだ。

 そこには、きらきら光る魔法の文字で、こんな言葉が浮かび上がっていた。



  王 子 と

  八 人 の 仲 間 と

  海 辺 の 村 の 人 々 が

  大 魔 王 を 倒 し て

  世 界 を 救 う


「おい、おい、おいおいおい! 予言の言葉が、聞いてたのと、全然、違うじゃねえかよっ!?」


 と、ディールが叫び、


「『八人の仲間』って、ちゃんと、書いてありますねえ。」


 と、タータさんが、目を丸くして言った。


「海辺の村の人たちのことまで、ちゃんと書いてあるね……」


 と、マッサもつぶやく。


「そ、そんなはずは、ないのじゃが。」


 いつも堂々と落ち着いているおばあちゃんが、めずらしく、おろおろしながら言った。


「ああ、確かに、そんなはずはない。わしが、最後にこの本を開いたときには、確かに、こう書かれていたのじゃ。『王子と七人の仲間が、大魔王を倒し、世界を救う』と――」


「……あっ? 待てよ。これは……もしかして……?」


 ふと思いついて、マッサは、みんなの顔を見回した。


「ねえ! ひょっとしたら、この本には、絶対にこうなる、っていう決まった未来が書かれるんじゃなくて、そのときそのときで、いちばん起こりそうな未来が、浮かび上がるんじゃないかな?

 そして、出来事の流れが変われば、それに合わせて、言葉も、だんだん変わっていくのかもしれない。

 それで、最後の最後に、結果がはっきりしたときになってはじめて、『こうなりました!』って、文字が固まるんじゃない?」


「あ、なるほど、そういう……って、何だ、そりゃっ!?」


 ディールが、ずっこけそうになりながら言った。


「予言の中身が、状況にあわせて、『今は、こんなふうになりそうです。……いや、やっぱり、こうなりそうです』とかって、変わっていくっていうのかよっ!?

 そんなの、予言って言わねえぜ! それじゃ『予言の書』じゃなくて、単なる『予想の書』じゃねえかよっ!?」


「本当だな……」


 と、ちょっと呆れた顔になって、ガーベラ隊長。


「それで、これまでのページに書かれていた過去の出来事が、全部、当たっておったのか……!」


 と、おばあちゃんは、愕然としてつぶやき、


「起こった出来事にあわせて、言葉が変わるんだとしたら、そりゃ、最後には、絶対、当たるよね……」


 と、マッサも、呆れて言った。

 まるで、じゃんけんの「後出し」みたいな話だ。


「いったい、いつのまに、言葉が変わっておったのやら。ちっとも、気づかんかったわい。」


 おばあちゃんが、ぶつぶつ言った。


「わしが、最後にこの目で『予言の書』の中身をたしかめたのは……そう、あれは、そなたらが出発する、前日のことじゃった。そのときには、確かに、まだ『七人の仲間』と書いてあったのじゃが。」


「わかった。」


 と、急にマッサが言ったので、みんなはおどろいて、いっせいにマッサのほうを見た。


「王子、何が、わかったのです?」


「うん。予言の言葉が、いつ変わったのか……ぼく、わかったと思う。」


「えっ? いつです?」


 ガーベラ隊長の問いかけに、


「ぼくたちが、ゲブルトの塔のてっぺんにいたとき。」


 と、マッサは答えた。


「ディールが、ゲブルトの魔法に操られて、ぼくを、短剣で突き刺そうとしたときがあったでしょ。あのとき、ぼくは《守り石》を外してた。それで、ぼくが、もうちょっとでやられかけたとき、フレイオが、命をかけて、ぼくをかばってくれたんだ。」


「そうか!」


 ガーベラ隊長が、目を見開いた。


「フレイオは、あのとき、王子を見捨てることもできた。いや、大魔王の命令に従うなら、当然、そうしたはずだった。ディールに、王子を殺させ、そのあとで《守り石》を奪い取ればよかったんだ。

 だが、フレイオは、そうしなかった……」


「うん。」


 マッサは、力強くうなずいて、フレイオを見た。


「フレイオは、完全に、自分だけの気持ちで、自分自身の命をかけて、ぼくを助けてくれたんだよ。

 ぼくは、あのとき、予言の言葉が――未来が、完全に変わったんだと思う。」


 何となく、みんな、静かになって、フレイオを見つめた。

 ここまで、フレイオは、ほとんど一言も喋っていなかった。

 でも、今、マッサにじっと見つめられて、


「私も、そう思います。」


 フレイオは、はっきりとそう言った。

 そして、


「まあ……ね。……友達、ですからね。まあ……ええ。当然のことですよ。」


 と、ぼそぼそ言って、ほんの少しだけ笑った。

 そんなフレイオに、


「さすがだなっ!」


 いきなり、どーん! と体当たりをするようにして、横から肩を組んだのは、ディールだ。


「決まりかけてた未来を、命がけで変えちまうとは、すげえ男だぜ、フレイオ! さっすが、俺の親友だけのことはあるなっ!」


「あ、ちょっと、痛い、痛い、痛い! そう、ばんばん、背中を叩かないでください! 本当に乱暴なんですから……うわっ、酒くさい! まったくもう、今すぐに、私から離れなさい!」


 フレイオが、叫びながらぐいぐい押しても、ディールは、ぜんぜん離れない。

 そのうち、フレイオも、ディールも笑いだして、マッサたちも笑って、全員が、大笑いになった。


 ああ、本当に、『終わりよければ、すべてよし』だ!


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