マッサたち、お祝いされる
ふもとの村のおじいさんとおばあさんたちは、空飛ぶ船が自分たちの家に近づいてくるのを見て、腰を抜かしそうになっていたけど、乗っているのがマッサたちで、しかも、大魔王を倒した帰りだということを知ると、驚くやら、喜ぶやら、もう、大変な騒ぎになった。
「ぼくたちが大魔王をやっつけたから、このあたりも、平和になりますよ。きっと、もうすぐ、たくさんの人たちが、また、このあたりを旅するようになりますよ。」
「まあ、まあ、まあ!」
おばあさんは、喜んで手を叩いた。
「これで、また昔のように、たくさんのお客さんが来てくれるわね。たくさんのティーカップにも、また、昔のように出番がくるわ。」
「ええ、ええ、そうですよ。本当に、よかったですねえ!」
おばあさんの喜びようを見たタータさんも、まるで自分のことのように喜んでいる。
「わしの描いた地図が、大魔王をやっつける旅の役に立ったとは、こりゃ、とんでもなく名誉なことじゃ! よかった、よかった!」
「ほんとじゃな! おまえ、あの地図は、このあと、魔王退治の記念に、立派な額にでも入れられて、お城の壁に飾られて、宝物になるかもしれんぞ!」
「ひゃあ、お城の宝物にか! いやあ、名誉じゃなあ。」
「すごいことじゃなあ!」
「いや、じいさん、あのとんでもねえ地図を、城の壁にってのは……」
ディールが、ぶつぶつ言いかけたけど、
「しいっ! ディール、余計なことを言うな。……ええ、きっと、そうなりますとも。」
と、ガーベラ隊長が言って、おじいさんたちは、ますます喜んだのだった。
おじいさんやおばあさんたちの家から《魔女たちの城》までは、空飛ぶ船を使えば、ほんのひとっ飛びだ。
地平線の向こうに、ようやく城の一番高い塔の屋根が見え始めたころから、もう、《魔女たちの都》の上空には、色とりどりの花火が、次々と打ち上げられはじめた。
『ひかりの、はな、さいてる! きれい! ホッホホホホーゥ!』
「お母さまが、私たちに気づいたんだわ。」
アイナファール姫が、嬉しそうに言った。
「私たちからも、あいさつしましょう!」
アイナファール姫がさっと手をふると、空飛ぶ船のあちこちから、ヒュンヒュンヒューンと光の玉が飛び出して、パーン! パパパーン! と、色鮮やかな大輪の花火がひらいた。
『ひかりの、はな、こっちにも、いっぱい! ホッホホホーゥ!』
「きれいだね、ブルー! すごい、夢みたいだ!」
すばらしい眺めに、マッサたちが感動していると、
「王子さま! おかえりなさーい!」
「ご無事のお帰り、何よりです!」
「お帰りなさい、姫さま!」
「お帰りなさい、予言された仲間の皆さまがた!」
待ち切れずに、空飛ぶ魔法で次々と飛び出してきた魔法使いたちが、船のまわりを飛び回りながら、口々に快哉を叫んだ。
「皆さん、ご無事のお帰り、心より、お喜び申しあげまーす!」
「大魔王は、倒された! この世に、平和が戻ってきた!」
「めでたい、めでたい、お祝いだーっ!」
色とりどりの花火と、きらきら光る魔法の紙ふぶきと、お祝いの声がみだれとぶ大騒ぎの中、マッサたちを乗せた空飛ぶ船は、堂々と都に入っていった。
「おお……マッサファールよ!」
「おばあちゃん!」
迎えに出てきたおばあちゃんと、マッサは、しっかりと抱き合った。
「あのね、あのね、おばあちゃん! おばあちゃんがくれた贈り物、本当に、役に立ったんだよ! ほら、お母さんが大切にしてたっていう、金色の木の葉っぱ! ぼく、『死の谷』に落っこちちゃって、もう駄目かもしれないと思ったときに、あの葉っぱが、道案内をしてくれて、それで、ぼく、助かったんだ! それでね……」
「マッサファールよ、話は、後で、ゆっくりと聞かせてもらおう。」
一気に話し始めたマッサを、優しく止めて、おばあちゃんは、マッサとブルー、ガーベラ隊長、ディール、タータさん、フレイオ、アイナファール姫、そしてシュウを、お城のバルコニーへ連れていった。
そして、城の前の広場、大通り、お城の屋根の上に集まった都の人々に向かって、厳かに宣言した。
「みなのものよ、ここに、大魔王を倒し、世界を救った勇者たちがおる。
この勇者たちを、わしから、みなに紹介したいところだが、この役目には、わしよりも、もっとふさわしい者がおる。
我が孫にして、この国の王子、マッサファールよ! 前へ!」
おばあちゃんに、急にあらたまって名前を呼ばれて、マッサは驚いたけれど、ぐっとおなかに力を入れて、一歩、前に進み出た。
「マッサファールよ、そなたから、皆に、紹介するがいい。
共に大魔王を倒し、世界を救った、仲間たちのことを!」
「はい!」
マッサは、堂々と胸を張り、高らかに声を張り上げて言った。
「イヌネコネズミウサギリスの、ブループルルプシュプルー!
翼の騎士団《銀のタカ》隊の隊長、ガーベラ!
翼の騎士団《銀のタカ》隊員、ディール!
《荒野を見張る目》の一族の若者、タータ!
《炎食い》の一族の魔法使い、フレイオ!
もう、故郷の山の家族のところにいて、今ここにはいないけど、イワクイグマの、ボルドン!
ぼくのお母さん、アイナファール!
そして、ぼくのお父さん、シュウ!
王子と、八人の仲間です! 大魔王を倒して、帰ってきました! みなさん、ただいまーっ!!」
マッサの言葉にこたえて、爆発のような歓声があがった。
「おかえりなさい、おかえりなさい! 王子と、八人の仲間たち!」
「マッサファールさまが、平和をもたらした!」
「アイナファール姫さまが、戻られた!」
「シュウさまが、生きておられた!」
「ああ、今日ほどうれしい、めでたい日はないぞ!」
それから、飲めや歌えや、踊れや歌えやのお祭り騒ぎがはじまった。
お祝いは、昼から夜、夜から昼と続きに続き、みんなが、ようやく仲間たちだけで集まって、落ち着いて話ができるようになったのは、都に帰った次の日の、夜遅くになってからのことだった。
「ううーっ、気持ちわりい。ちょっと、酒を飲みすぎたかな……」
「祝いの席だからといって、調子にのって、おかわりをしすぎるからだぞ、ディール。」
さすがにぐったりしているディールに、ガーベラ隊長が、びしっと言う。
みんなは今、マッサのおばあちゃんの部屋に集まって、お茶を飲みながら、これまでの出来事を、細かいところまで、ひとつひとつ報告していたところだった。
大魔王の正体が、賢者ベルンデールだったことを知ると、おばあちゃんは、
「そうじゃったか……昔は、そんな男ではなかったのに。死ぬのが怖い、怖いと思っているうちに、変わってしまったのじゃな。それに気づかなかった、わしも愚かじゃった。すまなかったのう。」
「ううん。全部が終わった今になってから思うと、結局、何もかも、これで一番よかったんだと思う。」
マッサがそう言うと、おばあちゃんは、
「そうか……」
とだけ、つぶやいて、下を向いているフレイオを、じっと見つめ、
「まあ、確かに、そうじゃな。すべては、過ぎたこと。終わりよければ、すべてよし、という言葉もあるからのう。」
と、大きな声で言った。
でも、そこへ、
「いーや!」
と、大きな声を出した者がいる。
ディールだ。
「みんな、聞いてくれよ! 俺には、まだ、ひとつだけ、どうにもこうにも、納得がいかねえことがあるんだよ。」
「こら、ディール! おまえ、まだ酔っぱらっているのか?」
ガーベラ隊長が叱ったけど、ディールは、大きく片手を振って、
「いや、いや、隊長。こりゃ、本気の、まじめな話なんですって。――例の、予言のことです。」
と言った。
「だってよ、みんな、おかしいと思わねえか? もともとは、『王子と七人の仲間が、魔王を倒して、世界を救う』って予言だったはずだろ? だけど、結局は、『王子と、八人の仲間』だったじゃねえか。
やっぱ、数字がずれてるってのは、なんか、おかしいだろ! 予言は、絶対に外れねえんじゃ、なかったのかよ? それなら、最初っから『王子と、八人の仲間』って、言われてたはずじゃねえか。」




