旅の一行、戻る
アイナファール姫があやつる、空飛ぶ船に乗り、マッサたちは《惑いの海》をこえて、海辺の村まで戻ってきた。
「王子さまと、みなさんのおかげで、また、この村で、子供たちと暮らすことができます!」
「子供たちを守ってくださって、本当に、ありがとうございました。」
「海にも、平和が戻って、安心して漁師を続けることができます! まったく、なんとお礼を申し上げてよいやら。」
「いえ、いえ!」
砂浜で、そろって頭をさげる村の大人たちに、マッサは、あわてて言った。
「ぼくたちのほうこそ、この村の子供たちに、守ってもらったんです。子供たちが、危険なおとりの役をしてくれなかったら、ぼくたち、誰も、大魔王の城までたどり着けなかったかもしれません。」
「それに、我々のほうこそ、お詫びをしなければ。」
と、ガーベラ隊長が言った。
「実は、いかだを作る材料を集めるために、あなたがたの家の壁や、家具を使ってしまったのです。家が、とんでもないことになっているのは、そのせいです。後日、きちんと、弁償しますから。」
「納屋なんか、完全に、ぶっ潰しちまったやつもあるしな。ほんとに、すまねえ!」
「いえ、いえ。」
謝る隊長とディールに、村の人たちは、そろって片手を振った。
「家や納屋なんか、また、建て直せばいいんですから。家具だって、また作ればいい。」
「今は、何よりも、こうして家族が無事でそろったことが、一番うれしいですよ!」
そう言う大人たちの横で、タックが、うんうんとうなずいている。
「船だって、これから、みんなで作り直すんだ。おれ、お父ちゃんに習って、立派な漁師になる!」
と、そこへ、
「さあ、さあ、みなさん、どうぞ!」
大柄な女の人が、ものすごくでっかい鍋つかみを両手にはめて、ものすごくでっかいおなべを運んできた。
「この村のじまんの料理、新鮮な海の幸のスープですよ! 他に、おもてなしできるようなもんは何もないけど、せめて、これだけは食べていってくださいな。」
「あたしのおかあちゃんの、せかいいち、おいしいスープよ!」
チッチが、おかあちゃんにぴったりくっついて、おかあちゃんのスカートをしっかりにぎりながら言った。
みんなは、割れていないスープ皿やコップや、スプーンをかき集めて、お腹がぱんぱんになってはちきれそうになるまで、新鮮な海の幸のスープをいただいた。
『ぐぐぐぐ……おなか、ぽんぽこりん!』
「おいおい、もじゃもじゃの腹が、風船みたいになっちまってるぞ!」
『ぼく、もじゃもじゃじゃない! ……たべすぎ! くるしい!』
チッチやタック、海辺の村の人たちとお別れしたマッサたちは、飛ぶ船に乗り込み、どんどん進んでいった。
《死の谷》を、びゅーんとひとっ飛びで越え、次に目指したのは、《二つ頭のヘビ》山脈――じゃなかった、《いい熊と人間がすんでる、いい熊と人間の山》だ。
切り立った山々が近づいてくると、ボルドンは目を輝かせて船のへさきに陣取り、やがて、大きな声で吠え始めた。
『グオーン、グオーン、グオーン!』
すると、
『ウオオオオーン、ウオオオオオーン!』
と、遠くから、いくつもの吠え声が帰ってきた。
イワクイグマの一族、ボルドンの家族たちだ!
クマたちが集まる広場に、船が、すうーっと降りていくと、ボルドンは、さっそく、ばぁーん! と飛びおりて、家族のところへ走っていった。
『グオングオン、グオーン!』
『ウオンウオン、ウオオオーン!』
『ボルドンと、かぞくのみんな! ただいま! おかえり! って、いってる!』
ブルーが、嬉しそうに通訳する。
「……ああっ!? 王子さま! 王子さまじゃないですか!」
「お帰りなさい! よくぞ、御無事で!」
そう言いながら、マッサたちのまわりに集まってきたのは、今はすっかりクマたちと協力関係になっている《赤いオオカミ》隊の戦士たちだ。
「大魔王との戦いは、どうなりましたか!?」
「うん。ぼくたち、勝ったよ! 大魔王はいなくなった。平和が戻ったんだ!」
マッサがそう言うと、戦士たちは一瞬、信じられない、というように静まり返って、互いに顔を見合わせ、
「うおおおおおおーっ! やったぞおおおおーっ!!」
すぐに、みんな、歓声をあげながら、子供のように跳ね回りはじめた。
「これで、ようやく、山をおりることができるぞーっ!」
「やっと、うちに帰れるんだ!」
「まずは、とにかく、熱い風呂にゆっくり入りたい!」
「ばあちゃんの手作りシチューが食べたい!」
「親父やおふくろのところに戻って、畑の仕事を手伝わないと!」
「恋人のリーナちゃん、俺が帰ったら、びっくりするだろうな! ……いや、でも、もう俺が死んじゃったと思って、別の男と結婚してたりしたら、どうしよう……」
と、みんな、いろんな計画で頭がいっぱいだ。
「王子、本当に、ありがとうございます。」
《赤いオオカミ》隊の隊長が、みんなを代表して、マッサに言った。
「あなたがたの勇敢な戦いのおかげで、俺たちは、やっと元の暮らしに戻ることができます!」
「うん、でも、それも、《赤いオオカミ》隊のみなさんや、イワクイグマのみなさんが力を合わせてくれたから、できたことです。」
と、マッサは言った。
「だって、みなさんが仲直りして、力を合わせてくれなかったら、この山脈から、猿たちを追い払うことはできなかったんだから。そしたら、ぼくたち、この山脈を越えることも、できなかったはずです。」
「《赤いオオカミ》隊の戦士のみなさん!」
アイナファール姫が、船べりから顔を出して、みんなに手を振った。
「息子から聞きました。あなたがたのおかげで、マッサたちは、この山を越えることができたって。本当に、感謝しています!」
「ああっ!? アイナファール姫さま!」
「何だって!? うおおおーっ! 本当に、姫さまだ! 生きておられたのですね!」
と、戦士たちは、大騒ぎになった。
「ええ、魔法で囚われていた私を、息子が救い出してくれたのです。」
「うおおおおーっ! さすがです、フサフサマール王子!」
「いや、ぼくの名前は、フサフサマールじゃないですってば!」
と、そこへ、
「みんな、久しぶりだな!」
と、アイナファール姫のとなりから、マッサのお父さんが顔を出した。
「戦士たちよ、俺のことを覚えているか? また、こうしてみんなの顔を見られる日が来るとは、思ってもみなかった!」
「えっ? ……ああーっ!? あなたは、シュウさまではありませんか!?」
「何だって!? あの、めちゃくちゃ強い剣士の? ……うおおおーっ、本当だ! シュウさま、生きておられたのですねっ!」
「ああ、大魔王の魔法に囚われていた俺を、息子が解放してくれたんだ。」
「うおおおおおおーっ! すごすぎます、フサフサマール王子!」
「だから、ぼくは、フサフサマールじゃないんだってば!」
お祝いの宴会が開かれ、クマと人間たちとがみんなで盛り上がる大騒ぎのうちに夜がすぎ、次の日には、マッサたちは、ふたたび空飛ぶ船に乗り込んだ。
でも、家族のもとに戻ったボルドンとは、ここで、いったん、お別れすることになった。
マッサは、
「ボルドンも、このまま船に乗って《魔女たちの都》に来ればいいのに! みんな大喜びして、お祝いしてくれるよ、きっと。」
と誘ったんだけど、ボルドンは、どうしても家族と一緒にいて、今回の旅の話を、すぐにみんなに話してあげたい、と言ったんだ。
そういうことなら、しかたがない。
それに、ここで永遠のお別れ、ってわけじゃないんだ。
もう、平和になったんだから、来ようと思えば、また、いつでも、この山までボルドンをたずねてくることができる。
「ボルドン、ぼくたち、絶対、また遊びに来るからねーっ! ほんとにほんとに、ありがとーっ! またねーっ!」
『グオオオーン! ガオーン、グオオオオーン!』
『ぼくも、あそびにいくよーっ! またねーっ! て、いってる!』
「うん、またね! 約束だよーっ!」
こうして、マッサたちを乗せた空飛ぶ船は出発し、どんどん進んで、山脈を越え、ふもとの森にさしかかった。
「……あっ! ちょっと、待って! お母さん、ここで、船を止められる?」
「ええ、いいけれど、どうしたの?」
「おーい、おじさーんっ!」
マッサが、船べりから顔を出して両手をふると、森の木々のあいだから、おそるおそるこっちを見上げていた髭もじゃのおじさんが、目を丸くして出てきた。
「うわ! 船が飛んでるなんて、こりゃ、夢か幻かと思ったら、あんたたちか! あの、おっそろしい山脈を、無事に越えられたのかね?」
「うん、おじさんに教えてもらった情報のおかげで、何とかなりました。そのときは、お世話になりました!」
「ああ、いや、なに。……途中で、おっそろしい猿や、おっそろしい熊や、おっそろしい人間には、出くわさなかったかね?」
「うん、それが、実は……」
マッサは、はしごをつたって地面に降りると、おじさんに、この山脈で起きた出来事を、短くまとめて話した。
「だから、これからは、もう安全なんです。この山脈には、いい人間と、いい熊しかいなくなったから。それに、人間たちも、もう、山を下りるって言ってたし。」
「はあ、そうかい! へえ!」
おじさんは、髭もじゃの顔の中で、目をまんまるにして聞いていた。
「おれが、この森で静かにくらしてるうちに、世の中では、ずいぶん、いろんなことが起こってたらしいな。」
「うん。これからは、森の中や、山のほうを歩くときも、安心ですよ。」
「そりゃ、ありがたい。はあ、なんとまあ! おっそろしい熊と、おっそろしい人間が、実は、いいもんだったとはなあ。いや、ほんとに、こりゃ、すごい話だ、うん。」
おじさんは、何度も、うんうんとうなずきながら、自分の小屋に帰っていった。
さあ、次は、地図をくれたおじいさんやおばあさんたちの家に寄っていこう!




