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王子と、八人の仲間

「はっはっは、お前たちは、まったく、気づいていなかったようじゃのう。」


 大魔王ベルンデールは、勝ち誇って言った。


「我が弟子、フレイオが、わしに全てを報告しておったのじゃ。

 フレイオが、口から、ふーっと空に煙を吐いているのを見なかったかな? フレイオは、あの煙を風にのせて、わしに秘密の通信を送っていたのじゃ。お前たちがゲブルトの塔をこえ、この島に向かっていること、それぞれの使う技など、いろいろな情報をな……」


「ち、ち、ちくしょう! て、て、てめえ、フレイオ、お、お、俺たちに隠れて、そんなことをしてやがったのかーっ!」


 舌と口がひどく痺れているせいで、すらすらと言葉が出てこないまま、ディールが叫んだ。


「ええ、それも、あなたたちの目の前でね。やはり、魔法をまともに使いこなせない者はだめだ。私が目の前で裏切っていたって、ちっとも気づかないんですから。」


 フレイオは、冷たく笑って言った。

 その笑い方は、ベルンデールの笑い方とそっくりだった。


「しかし、最後に、魔女たちの姫が仲間としてあらわれたときには、少し驚きましたよ。まさか、封印の魔法が、あんなにも早く解かれるとは……」


「ふん、なるほど。それで、あれからは、ちっとも連絡がなかったのじゃな。さすがに、魔女たちの姫に見られていたならば、そなたの煙での暗号も、見破られてしまったじゃろうからのう。」


 マッサは、その言葉を聞いて、はっとした。

 そうだ、お母さん!

 お母さんは、魔法を使えるんだから、鎖で縛られていることなんて、何でもないはずだ。

 それなのに、あんなふうに、何もできずに、やられたふりをしているなんて……

 もしかしたら、お母さんには、すごい作戦があって、大魔王を油断させているだけなんじゃないのか?

 マッサは、思わず、ちらっとお母さんのほうを見た。

 でも、大魔王は、そんなマッサの目の動きを、見逃していなかった。


「王子よ、今も、母親の魔法に期待しておるのかな? 無駄じゃ、無駄じゃ。その鎖は、魔法封じの鎖よ。それで縛られた者は、魔法を使う力を封じられてしまうのじゃ。母親は、助けてはくれぬぞ。」


 マッサは、ぎくっとして、その気持ちを、思わず顔に出してしまった。

 大魔王は、大きくうなずいて、にやりと笑った。


「さあ、余計なお喋りはここまでじゃ。王子よ、わしに《守り石》を渡してもらおう。」


 マッサは、シャツの上から、ぎゅっと《守り石》を握りしめ、大魔王をにらみつけた。

 仲間たちはみんな動けず、フレイオは敵になってしまって、マッサは、たった一人だ。

 他に、何かないか?

 何か、できることは? 言うべき言葉は?

 ……何も、思いつかなかった。


「ま、ま、マッサ! わ、渡すんじゃ、ねえぞ!」


 ディールが言って、


「逃げなさい、マッサ! 《守り石》を持って!」


 お母さんが叫んだ。


「あなたは、生き延びてちょうだい! 私たちみんなの、希望をつなぐのです!」


「希望じゃと? お前たちに、希望など、もう残されておらぬわ。」


 大魔王がせせら笑って、片手を振り上げた。

 その手に、さっきの何倍も強力な電撃が光った。


「王子が《守り石》を渡さぬかぎり、仲間たちが一人ずつ死ぬことになる。まずは……アイナファール姫よ、そなたから、死んでもらおうか!」


「やめろぉーっ!」


 マッサは叫んで突進したけど、魔法の壁に、むなしく跳ね返された。

 強力な電撃が、倒れたままのアイナファール姫に襲いかかり――


「アイナ!」


 突然、誰かの叫び声がきこえた。


 バリバリバリバリーッ!


 マッサは、息をのんだ。

 玉座の階段を転がり落ちてから、ずっと気を失っていたお父さんが、立ち上がって飛び出し、お母さんをかばったんだ。

 お父さんは、大魔王の魔法の直撃を受けて、そのまま倒れた。

 ガシャーンと、鎧が床にぶつかる音がした。


「シュウ? 嘘……嘘でしょう!? シュウーッ!」


 お母さんが叫んで、わあっと泣き崩れた。

 今、この瞬間まで、お母さんは、そこで倒れている戦士がお父さんだなんて、気づいていなかったんだろう。

 いや、今は、そんなことを言ってる場合じゃない――


 マッサは、だっとお父さんに駆け寄った。

 そして、自分の首から《守り石》を外し、お父さんの首にかけた。


 これを外したら、自分を守るものが、何もなくなる。

 でも、今は、そんなことを言ってる場合じゃなかった。

 目の前で、お父さんが、お母さんを守って死んでしまう。

 助けられる可能性があるとしたら、ただひとつ、この方法しかない――


「おおお! わしの、勝ちじゃ!」


 マッサが《守り石》を外すのを見た大魔王は、飛び上がって叫び、マッサに両手を向けた。


「死ねい、王子よ!」


「少々、お待ちを!」


 魔法使いの杖が、大魔王とマッサとのあいだに、ずいっと突き出された。


「師匠。その役目は、どうか、私にお任せを。」


「なにい?」


 ぎろりとにらんだ大魔王に、フレイオは、背筋を伸ばして言った。


「私は、ずっと、この者たちと共に旅をしてまいりました。そのあいだじゅう、仲間だの、友達だの、親友だのとうるさく言われて、本当にうんざりだった。このままでは、私の気持ちがおさまりません。自分の手で、きっぱりと片をつけて、すべてを終わりにしたいのです。」


「ほほう? それは、なかなか、よい考えじゃ。」


 大魔王は、にんまりと笑った。


「さすがは我が弟子じゃな、フレイオよ。よし、お前の手でやるがよい。」


「はい。」


 フレイオの杖の先に、ゴウッと音を立てて、白い炎がともった。

 マッサは立ち上がり、震えながら、まっすぐにフレイオと向き合って立った。

 フレイオの赤い目が、まっすぐに、マッサの目を見返した。


「さあ、やれ、フレイオ! お前の手で、王子と七人の仲間の予言を、完全に終わらせるのじゃ!」


「はい、師匠。」


 フレイオの目がカッと燃えて、白い炎が、ゴウッ! と大きくなった。


「王子と七人の仲間の予言は、今、ここで終わる。

 ――『王子と、八人の仲間』だ!」


 そう叫ぶと、フレイオは魔法使いの杖を、大魔王に向けた!


「はあああああああーっ!」


 ゴゴゴゴゴゴゴゴーッ!!!


 まばゆいばかりの炎が噴き出し、一直線に、大魔王に襲いかかる!


「ぬううっ!?」


 大魔王は両手を突き出し、魔法の盾で、フレイオの炎を受け止めた。


「おのれ、フレイオ……! このわしを、裏切るのか! 愚か者め、それならば、お前も死ぬのじゃああああ!」


 バリバリバリバリーッ!


「ぐわああぁぁぁっ!」


 炎をこえて襲いかかった電撃が、フレイオを直撃する!

 でも、


「そのまま! 力を抜いてはだめ!」


 凛とした声が聞こえた。

 いつの間にか、フレイオの隣にアイナファール姫が立ち、大魔王に向けて片手を突き出していた。

 そこから、魔法の盾が生まれて、フレイオの身を守っている。


 魔法封じの鎖を切って、アイナファール姫を自由にしたのは、もちろんマッサだ。

 大魔王の注意が自分から逸れた瞬間、マッサは、全力で走って仲間たちのところへ行き、みんなの鎖を剣で断ち切っていたんだ!


「アイナファール姫……」


「話は、後です! さあ、私と、力を合わせて!」


 アイナファール姫は、もう片方の手も突き出した。

 そこから、真っ白な炎が噴き出し、フレイオの炎と合体する。

 ふたりの魔法が合わさって、大魔王の魔法の盾を、ぐぐぐーっ! と押し込んだ。


 だが、さすがは、大魔王と呼ばれる力の持ち主だ。

 フレイオとアイナファール姫の力を合わせても、簡単には倒せない。


「ぬうううううぅーっ!」


 大魔王は、青筋を立てて歯ぎしりをしながら、一歩、また一歩と、前に出てくる。

 二人が力を合わせた魔法が、押し返されているんだ!


「くうっ……」


「なんて力なの……二人でも、押されるなんてっ……」


「ふはははははぁ! ばか者どもめが! わしは大魔王ベルンデール、おまえたちごとき、ひよっこ二人の、かなう相手ではないのじゃあ! わしに逆らったことを、あの世で後悔するがよいわぁ!」


 大魔王が勝ち誇った、そのとき、


「二人じゃないぞ!」


 マッサが、アイナファール姫とフレイオの横に並んだ!


「ぼくもいる! お母さん、みたいに、ぼくに、魔法の使い方を教えて!」


「ああ!」


 激しい炎と電撃の光の中で、お母さんは、にこっと笑った。


のようにね。いいわ、さあ、手をつないで!」


 アイナファールとマッサ、そしてフレイオが、強く、お互いの手を握りあう。


「三人の魔法の力を、一つにするのよ! はあああああーっ!」


「おおおおおおおーっ!!」


「うおおおおおおおーっ!!!」


 ゴゴゴゴゴウッ!!! と、白い炎の勢いが一気に強くなる。

 大魔王を、雷の魔法ごと、ズザザザザザザーッと後ろへ押していく。


「こっ……こんな、ばかな!」


 白い光に照らされた大魔王の顔が、すさまじく引きつった。


「わ、わしの魔法が、押されて……!」


 その瞬間!


『えーいっ!』


 がじっ!


 何か小さな白いものが、大魔王の後ろから回り込み、その足に、思いっきり噛みついた!

 それはもちろん、ブルーだ!


「ぎゃーっ!?」


 噛まれた痛さで、大魔王の集中が途切れたとたん、その魔法の威力を、三人の魔法の威力が、一気に超える!


 ドッカァアァァァン!!!


 大爆発が起きて、城の壁が外側に吹き飛び、大魔王は、自分の魔法ごと、ヒュウウウウウーン! と空高く吹き飛ばされていった。

 それを見たアイナファール姫が、すばやく、別の呪文を唱えはじめる。


「お、おのれ! わしは、この程度のことではっ……!」


 空中で、しつこく魔法を繰り出そうとした大魔王だが、


「む……むむっ!? な、な、何じゃ、これは!?」


 その顔が、指が、足が、全身が、急に、きらきらと虹色に輝きはじめる。


「すべてのものを、あるべき姿に。」


 アイナファール姫の魔法が完成する。


「悪しきものよ、すべてを癒す、光となれ!」


 パアァァァーン……!!


 大魔王の体が、光の粒となってはじけ、花火のように広がって、あたりじゅうの地面に、きらきら、きらきらと降り注ぐ。


「なに、これ!? なんか、ふってきた!」


「これ、あめじゃないよ! これ、ひかりだよ!」


『グオオーン、グオオーン!?』


 城の外で捕まっていた子供たちや大人たち、そしてボルドンが驚いているあいだに、


『ギャーッ、ギャギャギャーッ!?』


『ウキャーッ、ウキャーッ!』


 鎧や武器をがちゃがちゃいわせて、騒いでいた猿たちは、たちまち、しゅうううーっと小さくなって、


『ウキッ? キキーッ?』


 と、可愛い子猿たちになった。

 あやつる力がなくなって、地面にひらひらと落ちた幽霊マントや、ガシャーンと倒れた動く鎧たちは、あっという間に、ぼろぼろとくずれて、土にもどっていく。

 堀や柵を作るために掘り返され、ぼろぼろになっていた島じゅうの地面には、たちまち、草木が生い茂り、いいにおいの花が咲いて、鳥たちが歌いはじめた。

 枯れはてていた泉から、清らかな水が湧き出て斜面をはしり、小川になり、そこに小さな魚たちが泳ぐ。

 牢屋は崩れて花畑になり、とげとげの落とし穴は、美しい池になり、恐ろしかった大魔王の城は、植物のつると、花におおわれた、美しい城に変わった。


 仲間たちはみんな、城の壁にあいた大きな穴のところに立ち、魔法のすばらしいはたらきを、感動のあまり言葉をなくして見つめていた。

 そこから、一人だけ、そっと離れていこうとした人がいる。


「フレイオ。」


 マッサに呼び止められて、彼は、ぎくっとして立ち止まった。


「どこに行くの? ぼくたち、一緒にいなくちゃ。」


 マッサは、フレイオのそばに行き、しっかりとその手を握った。


「いえ……でも、私は……」


「ぼくたちは、友達だ。」


 マッサは大きな声で言った。


「ねえ、そうでしょ、フレイオ?」


 フレイオは、真っ赤な目でマッサを見つめ、それから、みんなの顔を、順番に見た。

 隊長が、大きく。

 ディールが、眉毛をぎゅーっと寄せて、まじめな顔で。

 タータさんが、にこにこと。

 アイナファール姫が、優しく。

 そして、光の魔法の力ですっかりよくなったシュウが、きっぱりとうなずく。


『ともだち!』


 みんなのまわりを、嬉しすぎて、ぴょんぴょん跳びはねてまわりながら、ブルーが叫んだ。


『ともだち、ともだち! みーんな、ともだち!』


「……ええ。」


 びっくりするほど震える、小さな声で、フレイオはつぶやいた。


「そうです。……本当に、いいんですか。」


「もっちろん!」


 マッサは、フレイオの手を力強く握った。


「ぼくたちは、友達だ!」


『グオオオオーン! グオオオオーン!』


「やったー! やったー! やったぞおーっ!」


 ボルドンと、海辺の子供たち、大人たちの喜びの叫びが、何度もこだまして、島じゅうにひびきわたっている。



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