表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
234/245

マッサ、対決する

「逃げた、ですって!?」


「ありがとう、おじいさん!」


 おじいさんを、その場に残し、お父さんとマッサ、ブルーは、大急ぎで玉座への階段を駆けあがった。

 大魔王の玉座は、とげや、渦巻きや、恐ろしい怪物の姿を彫刻した、真っ黒な木でできていた。

 マッサとお父さんは、玉座の後ろにある石の壁に両手をつき、目を近づけて、石の継ぎ目のすきまをよくよく調べはじめた。

 この壁のどこかに、秘密の通路の入口の、隠し扉があるはずだ!


『がんばれ、マッサ! がんばれ、マッサのおとうさん!』


 ブルーは、しばらくのあいだ、ちっちゃな手をパチパチと叩いて応援していたけど、そのうち、自分も、床のすぐ近くの、壁の低いところを、フンフンとかいで調べはじめた。


(どこだ、どこだ、どこだ? 早くしないと……でも、慌てずに……)


 そう思いながら、マッサが、石の継ぎ目を、ひとつひとつ指先でなぞっているときだ。

 マッサのお父さん、シュウが、急に、ふっと手を止めた。


 その背筋が、不自然に、ぴんと伸びる。

 目から、光が消えた。


 まるで壊れかけの操り人形のように、シュウは、ふらふらと歩いて、壁を調べ続けているマッサの後ろに立った。

 そして、後ろから、ゆっくりと、マッサの首に手を伸ばしていった。

 その手の動きの先にあるのは、《守り石》をかけている鎖だ。


「うーん……」


 壁を見つめながら、そうマッサがうなった瞬間、シュウの手の動きが、ぴたりと止まった。

 そのまま、体全体が、ぶるぶると震えはじめる。

 まるで、マッサから《守り石》を奪おうとする力と、それを止めようとする力が、ひとつの体の中で争っているみたいだ。


 そのことに、マッサよりも先に気づいたのは、ブルーだった。

 ふと、なにげなく顔をあげたブルーは、マッサのお父さんが、恐ろしい顔をして、マッサの首に手を伸ばしているのを見た。


『マッサ!』


「え?」


 ブルーの鋭い叫び声に、マッサが振り向いた瞬間、


「ウオオオッ!」


 と叫びながら、いきなり、お父さんがつかみかかってみた。

 マッサは、びっくりしすぎて、声も出せなかった。

 とっさに、横っ飛びにとんで、ぎりぎりでお父さんの手をよける。

 でも、


「ウウウウウーッ!」


 とうなりながら、お父さんは、再びつかみかかってきた。


「お父さん!? どうしたの、やめてよ! お父さん!」


 叫んでも、シュウの動きは止まらない。

 大きな手が、痛いほどの力で、がっちりとマッサの腕をつかんだ。

 そして、もう片方の手が、首に向かって伸びてきた。

 お父さんの目が、まったく自分を見ていないことに、マッサは気づいた。

 魔法だ。

 お父さんは、また、魔法で操られている!


「お父さん!」


 悲鳴のような声でマッサが叫んだ、その瞬間だ。


『ええーいっ!』


 黒い鎧に足をかけ、風のようにシュウの体を駆けあがったブルーが、鎧に守られていない、シュウの耳に、がぶっ! と思いっきり噛みついた!


「ウオオオオッ!」


 シュウは、あまりの痛さに、マッサから手を放してのけぞった。

 激しく頭を振って、ブルーを振り払おうとするけど、ブルーは、がっちり爪をたて、耳に食らいついて、離れない。


「ウオ、ウオッ、オオオオオオッ!」


 ブルーごと頭を抱えて、大きくよろめいたひょうしに、シュウは足を滑らせ、玉座の前の階段を踏み外した。

 そして、ブルーもろとも、そのまま、階段を転がり落ちていった。


「お父さーん! ブルー!」


 マッサは、真っ青になって、自分も転げ落ちそうになりながら、二段飛ばしで階段を駆け下りた。

 玉座の前を階段を、上から下まで転がり落ちたシュウとブルーは、ぐったりと目を閉じて、完全に動かなくなっている。

 気を失っているだけか?

 それとも――


「やれ、やれ。あと一歩のところで、ねずみごときに、邪魔をされるとは。」


 急に、そんな声が聞こえた。

 マッサは、心臓が止まりそうになったけど、頭で考えるよりも先に、体が動いた。

 ばっと、声のほうに向かって、剣を構えた。


「あ、あなたは……いや、あんた……おまえは……」


「おう、おう、怖い顔じゃのう。」


 ひっひっひ、と笑ったのは、さっきまで、柱のところに座りこんでいたおじいさんだった。

 さっきまでの、よぼよぼした様子は、もうない。

 しわしわの、痩せた姿はそのままだけど、背筋はまっすぐに伸び、まるで自分が世界で一番偉いとでもいうような態度で、こっちを見ている。


「じゃが、そんな顔をしてみせたところで、だめじゃ。ほれ、足が、震えておるぞ。」


「おまえが、怖いから、震えてるんじゃない。」


 マッサは、ぎっ、と相手を睨みつけて言った。


「お父さんとブルーが、心配だからだ。

 おまえが、魔法で、お父さんを操ったんだな! そのせいで、お父さんとブルーが……

 絶対に許さないぞ! 大魔王め!」


「はーっはっはっは!」


 おじいさん――いや、いまや正体をあらわした大魔王は、大声で笑った。


「その通り、わしが、この城の主じゃ。おまえの父親を操った魔法も、わしのしわざよ。

 しかし、そんなふうに、許さない! と叫ぶだけでは、どうにもならんぞ。

 父親も、ネズミも、もはや助けにならん。いったい、どうするつもりじゃな?」


「どうするも、こうするも……こうだぁーっ!」


 マッサはいきなり床を蹴り、魔法で、ビューンとまっすぐに飛んで、剣をふりかざし、大魔王に突っ込んだ。


「うおおおおりゃあーっ!」


 バリバリバリバリーッ!


「うわあぁーっ!」


 マッサの剣が大魔王を真っ二つにしかけた、その瞬間、空中に稲妻の盾みたいなものがあらわれ、マッサの攻撃を防いで、大きく弾き飛ばした。

 あの、城のまわりを囲んでいた結界と、同じ魔法だ。


「このっ……うおおおおおーっ!」


 バリバリバリバリバリーッ!


「わあああぁっ!」


 怒りにまかせて、何度切りかかっても、結果は同じだ。


「やめよ、やめよ! 無駄なことじゃ。わしの魔法の結界は、剣ごときでは破れぬ。そもそも、おまえのようなひよっこが、一人でわしを倒そうなどとは、笑止千万よ。」


「うるさいっ!」


 大魔王にだまされていたことと、大魔王の魔法のせいでお父さんとブルーが階段から落ちてしまったことで、マッサは、激怒していた。

 剣を突きつけて、叫んだ。


「ぼくは、予言された王子だ! ぼくが、おまえを倒すってことに、もう、決まってるんだ!

 そっちこそ、あきらめろ。魔女たちの予言は、外れたことがないんだぞ!

 『王子と、七人の仲間が、魔王を倒して、世界を救う』――これは、絶対に決まっていることなんだ! だから、ぼくは、必ず、おまえを倒す!」


「ふっ。」


 マッサの、渾身の叫びを受けても、大魔王は、鼻で笑っただけだった。

 いや、


「ふっふっ……くっくくく……くはははははははぁ!」


 と、体を反らして、大笑いした。


「何だっ! 何が、おかしい!」


「その、仲間とやらいうのが、この有様でもか?」


 言って、大魔王が手を振ってみせたのは、階段から転落して、床に倒れたまま、ぴくりとも動かないシュウとブルーの姿だ。

 マッサは、何も言わず、じわっと出そうになった涙を、必死にまばたきをして追い払った。

 お父さんは、ブルーは……生きているのか?

 いや、大丈夫、きっと生きている。

 でも、本当に?

 ひょっとしたら、まさか、もう――


「仲間……仲間、か。のう、王子よ。」


 ぐっと涙をこらえているマッサに、大魔王は、何のつもりか、急に世間話でもするような調子で話しかけてきた。


「おまえの言うとおり、予言された仲間の数は、七人。そうじゃな?」


「は……? そうだ! さっきから、そう、言ってるだろう!」


「で、今、おまえの仲間は、何人おるのかな?」


「……はぁ?」


 大魔王が、急に何を言い出したのか分からず、マッサは、戸惑った。

 でも、同時に、お腹の底から、かすかな勇気が湧き上がってきた。

 今は戦えないけれど、ブルーと、お父さん。

 そして、お母さん、フレイオ、タータさん、ディール、ガーベラ隊長、ボルドン――


「八人だ!」


 マッサは、堂々と言った。


「七人をこえて、八人も、仲間が集まったんだ! それに、海辺の村の子供たちだっている!

 だから、ぼくは、おまえなんかには、絶対に負けないぞ!」


「ふっふっふ。」


 マッサの言葉を聞いても、大魔王は、慌てないどころか、不気味な含み笑いをもらしただけだった。


「八人の仲間か。……なぜだと思う?」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ