マッサと将軍、気がつく
「何だって?」
ブルーの言葉に、マッサは、混乱した。
大魔王の将軍と、ぼくの目の色が、同じ?
眉毛が、にてる? あごが、そっくりだって?
(ちょっと、待てよ。)
何だか、これと同じような話を、つい最近、どこかで聞いたはず……と、マッサが思った、そのときだ。
「ううーん。」
マッサの体当たりで吹っ飛ばされ、半分気を失ったみたいになっていた将軍が、目を覚まして、小さく首を振ったので、マッサは、それ以上、思い出しているひまがなくなった。
「おい! おまえ! ぼくが勝ったんだぞ。それ以上、動いたら、おまえの頭をちょん切っちゃうぞ!」
また、できるだけ怖い声を出して、マッサが言うと、
「えっ? なに?」
と、将軍は言った。
「何だって? ……うわ! 何だ、きみは!」
「何だ、って……」
将軍が、目を丸くして叫んだので、マッサは、思いきり肩透かしを食らったような気持ちになった。
「何だ、じゃないだろ! さっき、言ったとおりだ。ぼくは、この国の王子だ! おまえと――いや、違った、大魔王と対決して、やっつけるために、仲間と一緒に、ここに来たんだ!」
「はあ!?」
将軍は、ますます、目を丸くした。
「ちょっと待て。王子だって? この国に、きみみたいな歳の王子はいないぞ。姫なら、一人だけいる。魔女たちのあとつぎ、アイナだ。」
「アイナ……?」
『にてる!』
となりで聞いていたブルーが言った。
『マッサの、おかあさんのなまえ。はじめが、おんなじ!』
今度は、マッサが目を丸くする番だった。
どうして、こいつが、お母さんの名前を知ってるんだ?
いや、いや、こいつは、敵の将軍なんだから、もちろん、こっちの強い魔法使いであるお母さんの名前を知っていても、不思議はない。
でも「アイナ」だなんて、まるで、仲がいい友だちがあだ名で呼ぶみたいに、お母さんのことを呼ぶなんて――
「おい!」
何だか、わけがわからなくなってきて、マッサは、ますます大きな声で叫んだ。
「ぼくのお母さんを、そんなふうに呼ぶなよ! おまえなんか、大魔王の手下のくせに!」
「はあっ!?」
大魔王の将軍は、なんてことを言うんだ、とばかりに、眉毛をぎゅうっと寄せて、叫び返してきた。
「俺が、大魔王の手下だって!? とんでもない。失礼なことを言わないでくれ!
きみは、人違いをしているぞ。俺は、王国を守るために戦う戦士だ。大魔王とは、敵同士だ!
……ん? いや、ちょっと、待て。」
将軍は、じっと、マッサの顔を見つめた。
「きみ……今、なんて言った?」
「えっ? なんて、って……だから……おまえなんか、大魔王の手下のくせに、って……」
「いや、違う違う! その、前!」
「その前? えっ……だから……ぼくのお母さんを、そんなふうに呼ぶな、って……」
「お母さん?」
将軍は、目をぱちぱちさせた。
「きみの? ……誰が?」
「誰が、って……アイナファール姫に決まってるだろ!」
さっきから、どうも話がはっきりしないので、マッサは、はっきりと言った。
「ぼくは、この国の王子! 魔女たちの女王の孫、アイナファール姫の息子、マッサファールだ!」
「マッサファール!?」
「うわ!」
将軍が、マッサの剣の切っ先が突き刺さりそうになるのも構わず、がばっと起き上がってきたので、マッサは思わずおどろいて、剣を引き、後ずさってしまった。
「なんだ、おい、やる気か! ぼくは――」
「アイナファールの息子……マッサファールだって?」
将軍は、信じられないというように言った。
「きみが? そんなわけがない。だって、俺たちの息子は、まだ赤ん坊で……」
「息子?」
ふたりのやりとりを横から見ているブルーが、
『かお、そっくり!』
と、つぶやいた。
マッサは、まさか、と思った。
まさか、そんなはずは……いや、でも、ひょっとして……
「あの。」
急に、ばっくんばっくんいいはじめた心臓を押さえながら、マッサは、おそるおそる尋ねた。
「おまえ……いや……あの……あなたの、名前は?」
「シュウ。」
将軍は、はっきりと言った。
「俺の名前はシュウだ。アイナファール姫は、俺の妻。マッサファールは、俺たちの息子の名前だ。」
「まっ……」
マッサは、頭の中が、ぐるんぐるんと大回転しているような気がした。
名前が、シュウだって? アイナファール姫が、妻? マッサファールが、息子?
それって、つまり――
「お、お、おっ、お……」
その言葉を口から出すのに、ものすごい勇気がいった。
「お父さん……?」
「えっ。」
大魔王の将軍――いや、シュウは、目をぱちぱちさせた。
「何だって? ……いや、いや、さっきから、きみは、何か、ものすごい勘違いをしているようだ。俺の息子は、まだ赤ん坊なんだ。五日前に、別れてきたばかりだ。」
「いや、違うよ!」
いったい何がどういうことなのか、ようやく、少しずつ飲みこめてきたマッサは、大きな声で言った。
「それは、十年前の話なんだ! ぼくが、その、マッサファールなんだ。ぼく、十年たって、大きくなったんだ!
お父さんは、十年のあいだ、大魔王に捕まって、魔法で操られていたんだよ!」
「何だって?」
『あれ、みて!』
ブルーが叫んだ。
マッサとシュウが、同時にそっちに目を向けると、さっきマッサが砕いた、兜の黒い宝石の欠片が、床の上で、シュウウウウッ……と黒い煙をあげて、消えていくところだった。
「ほら、見て、あの兜の石! きっと、あれに魔法がかけられていたんだ。お父さんは、今まで、自分のことを忘れちゃって、大魔王の将軍として、働かされていたんだよ!」
「まさか……」
シュウは、ばかばかしい、と笑おうとしたようだったけど、その笑いは、まるで太陽に照らされたわずかばかりの雪のように、口もとから消えてしまった。
「そんな……俺は、アイナファールと共に、大魔王の軍勢と戦っていたんだ。そして……」
シュウは、ふと気がついたように、自分の姿を見おろして、自分が恐ろしげな、真っ黒な鎧を身に着けていることに気がついて、真っ青になった。
「そんな……嘘だろう!? じゃあ、俺は、この十年のあいだ、この国の人たちを……」
そこまで呟いて、シュウは、ぶるぶるっと首を振った。
「いや、いや、そんなはずはない! おまえは、嘘をついている!
おまえが、俺の息子のマッサファールのはずがない。おまえは、にせものだ!」
「お父さん。」
にせものだと決めつけられて、じわっと悲しくなりながらも、マッサは、静かに言った。
「本当に、ぼくは、マッサだよ。その証拠に……ぼく、おじいちゃんの名前が言えるよ。」
「な、何だと?」
マッサは、おじいちゃんの――つまり、お父さんのお父さんの名前を、小さな声で、でも、はっきりと呟いた。
それを聞いたシュウは、しばらくのあいだ、何も言わずに、まっすぐに突っ立っていた。
やがて、その両目に、ゆっくりと、大粒の涙が浮かんできた。
「それは……確かに、父さんの名前……
それじゃあ、おまえは……きみは、本当に……」
「うん。お父さん、ぼく、マッサだよ。お父さんの子供の、マッサだよ!」
「マッサ!」
二人はがっちりと抱き合った。
マッサは、かたい鎧にぎゅーっと押し付けられて痛かったけど、お父さんの腕は、強くて、あったかかった。
「そうだ。お父さん、ぼくたち、急がなきゃならないんだ!」
はっと我に返ったマッサは、慌てて叫んだ。
「話せば、ものすごく長くなるんだけど……ここは、大魔王の城で、ぼくたち、仲間と一緒に、ここに乗り込んできたんだ。子供たちや、ボルドン、ガーベラ隊長、ディール、タータさん、フレイオ、それに、お母さんも!」
「アイナも!? アイナは、無事だったのか!」
「うん、無事だよ。これも、話せば長くなるけど、ぼくが、みんなと一緒に、魔法で閉じ込められていたお母さんを、助け出したんだ。」
『ぼくも、いる! ぼくも、ぼくも、ぼくも!』
マッサの足元で、ブルーが、ぐるんぐるん走り回りながら抗議した。
「ああ、ごめん、ごめん! この生き物は、ブルー。本当の名前は……」
「プルルプシュプルー。」
マッサが言う前に、お父さんが言った。
「あの、ネズミの赤ん坊みたいに小さかった、プルルプシュプルーだろう? アイナが可愛がっていた――」
『そう、ぼく、かわいい! でも、ネズミじゃない!』
「うん、うん。」
マッサは、なかなか話が前に進まないので、焦りすぎてぴょんぴょん飛び跳ねながら、言った。
「あのね、それでね、どうして急がなきゃならないかっていうと、今、他のみんなは、城の外で、大魔王の軍勢と戦ってるからなんだ! ぼくたちを先に行かせるために、みんなだけ残ったんだ。
だから、ぼくたちが、はやく大魔王をやっつけないと、外のみんなが、やられちゃうかもしれない!」
「何だって!?」
お父さんが、目を見開いて、
「大変だ。それなら、急ごう!」
と言った、次の瞬間だ。
城の外から、ウワアアァァーッと、ものすごい人数の叫び声が聞こえてきた。




