マッサ、ひらめく
『マッサ、マッサ!』
ブルーが、慌てて階段を駆けおりてくる。
ブルーは、壁に寄りかかってへたりこんでいるマッサに飛びつくと、涙で濡れた顔をぺろぺろとなめてくれた。
『マッサ、いたい、いたい! かわいそう! ぼくが、あいつ、やっつける!』
「いや……だめだよ、ブルー。」
かんかんに怒っているブルーを、ゆっくりと抱き上げて床におろし、マッサは、少しよろけながら立ち上がった。
あんなに強いやつに、ブルーが立ち向かっていったって、かなうわけがない。
相手は、つま先まで鎧でおおっているから、かみつく場所もない。
ブルーは《守り石》を持っていないんだから、もし、力任せに蹴飛ばされたりしたら、全身の骨が折れて、死んでしまうかも……
そんなの、絶対にだめだ。
ぼくが、戦うしかない。
その瞬間、
(ん?)
マッサは、ふと、何かを思いつきそうになった。
(何だ? ええと……ブルーじゃなくて、ぼくが、戦うしかない……だって、ブルーは、大けがを防いでくれる《守り石》を持ってないんだから……)
と、そこまで考えて、
(ああっ!)
と、ついに、マッサはひらめいた!
ガシャーン……ガシャーン……
重い足音を立てながら、将軍がおりてくる。
マッサは、再び剣をかまえた。
『マッサ、あぶない! また、ばーんって、なる!』
「いや。」
と、短く答えて、ぐっ、と剣を握る手に力をこめる。
「だいじょうぶ!」
叫んで、マッサは突進した!
剣をふりかざし、将軍に向かって一直線に駆け上がる。
黒い鎧の将軍が、巨大な剣を、ぶうん! と振りあげる。
振り下ろしてくるぞ!
その瞬間、マッサは、剣を構えていた腕を、だらんと下げた。
そのまま、敵の必殺の一撃を、まともに食らう姿勢で、体ごと突っ込む!
『なにっ!?』
黒い鎧の将軍が、初めて、動揺したようにうなった。
次の瞬間、
ピシャアアアァァン!
今度は赤じゃなく、緑の光が炸裂し、大魔王の将軍が、思いっきり吹き飛ばされる!
「よおしっ!」
マッサは、思わずガッツポーズをとった。
作戦成功だ!
マッサは、将軍の剣のつかにはめこまれた、赤い石に注目していた。
もしも、あの石が、マッサの《守り石》と同じように、相手の強い攻撃をはじく魔法がかけられているのだとしたら――
マッサが、剣を叩きつければ、赤い石は、それを跳ね飛ばす。
それなら、逆に、何も攻撃せず、ただ突っ込んでいったらどうだろう? と考えたわけだ。
もちろん、怖かったけど、マッサは《守り石》の力を信じた。
結果は、思ったとおり。
マッサが攻撃しなかったために、相手の赤い石は働かず、逆に、攻撃されたマッサを守るために《守り石》が働いて、将軍を吹っ飛ばしたというわけだ!
ガラガラ、ガラン……
巨大な剣が、階段を滑り落ちてくる。
将軍は、階段に背中から叩きつけられたひょうしに、剣を手放していた。
重い鎧のせいで、すぐには立ち上がれずにいる。
今がチャンスだ!
「うおおおおぉーっ!」
マッサは、今度こそ、剣を振りかざして走り、
「ハァッ!」
将軍の兜めがけて、思いきり、剣を振り下ろした!
キュイィィィィン!
ものすごく硬いものどうしがぶつかり合ったときの、高く澄んだ音が響いた。
マッサの剣の切っ先は、大魔王の将軍の兜の、額のところにはめ込まれた黒い宝石を、まともにとらえていた。
ピシッ、ピシ、ピキピキピキ……
パキイィィィン!
黒い宝石が、一瞬で、百もの小さな破片にくだけちる。
同時に、兜も真っ二つに割れて、階段を、ガランガランガラーンと転がり落ちていった。
その下から、あらわれたのは――
(えっ?)
マッサは、思わず、目を見開いた。
兜の下からあらわれたのは、けっこうかっこよくて、見た目は優しそうな、男の顔だった。
お兄さん、というよりは、もっと年上だけど、おじさん、というには、ちょっと若いくらいの年に見える。
角が生えているとか、牙が生えているとかいうことも、全然なくて、ふつうの人間の顔だ。
(大魔王の将軍って……こんな顔だったのか。)
兜の下には、もっと、とんでもなく恐ろしい顔が隠されているに違いないと想像していたマッサは、意外な展開にびっくりしてしまった。
でも、ここで、のんびり驚いているひまはない。
「お……おいっ! おまえ!」
マッサは、半分目を閉じて、がっくりとのびている将軍に、剣を突きつけた。
「おとなしくしろ! 大魔王は、どこにいるんだ!? この階段の上にいるのか? 正直に教えたら、命までは、とらないでおいてやる!」
マッサは、できるだけ怖い声を出して、そう言ったけど、実は、もともと命をとるつもりなんてなかった。
だから、さっき兜を割ったときも、わざと、力を調節していたんだ。
マッサの剣が、魔法の守りなしに、まともに命中したら、兜どころか、中身の頭も、体も、まるごと真っ二つになってしまう。
敵だけど、命をとらなかったのは、大魔王の情報を聞き出すためというのも、もちろんあるけど、それ以上に、倒れている相手の命をとるのが、すごく嫌だったからだ。
「おい! 起きろってば!」
マッサが、ぼんぼん! と足を蹴飛ばすと、大魔王の将軍の目が、うっすらと開いた。
『あれ!』
と、ブルーが言った。
『おんなじ!』
「……えっ?」
マッサは、将軍の動きに、全神経を集中していたので、一瞬、ブルーが何を言っているのか、よく分からなかった。
「何だって? ブルー、今、なんて言ったの?」
『おんなじ。』
ブルーは、前足をぴっぴっと振って、マッサと、大魔王の将軍の顔を、かわりばんこに指さした。
『マッサと、こいつ! めの、いろ、おんなじ! まゆげ、にてる! あご、そっくり!』




