マッサ、うたがわれる
開いたドアの中から、顔を出したのは、何だか、きげんが悪そうな顔の、体が大きな、中学生くらいの男の子だった。
「よう、元気か。」
ディールが、そう言うと、
「ああ。」
と、男の子は、やっぱりきげんが悪そうな、うなるような声で答えた。
「なに?」
「新入りをつれてきたぜ。」
ディールは、そう言って、マッサを指さした。
「こいつは、西の森で、化け物鳥に食われそうになってたところを、ガーベラ隊長に助けられたんだ。今日から、ここで、めんどうをみてやってくれや。……じゃ、おれは、これで。」
「ええっ!?」
ディールが、くるりと背中を向けて、行ってしまいそうになったので、マッサは思わず叫んだ。
「ディールさん、もう、行っちゃうんですか?」
「はあ? これ以上、おれがここにいたって、することがねえだろうが。じゃあな。元気でやれよ。」
そう言い残すと、ディールは、マッサをおいて、すたすた、もと来た道を帰っていってしまった。
マッサは、びくびくしながら、目の前に立っている、きげんの悪そうな、年上の男の子を見た。
見れば見るほど、体がごつくて、腕の太さなんか、マッサの腕の三倍くらいありそうだ。
もし、なぐられたりしたら、どうしよう。
「おい!」
と、その男の子が、急にどなってきたので、
「はいっ!?」
と、マッサは、飛び上がりそうになりながら返事をした。
男の子は、マッサに一歩近づくと、何か、言いそうになった。
でも、
「……なに? だれ? おきゃくさん?」
「今、新しい子が来たんだって!」
「えっ、ほんと? 新しい子が来たの?」
「どんな子、どんな子? 男の子? 女の子?」
「ねえ、見えないよ、ぼくにも見せて。」
「男の子だ、男の子だ。」
「ほんとだ、見えた、見えた!」
「見えない、見えない! どいて! わたしも見る!」
開いたままだった扉の向こうから、すごい人数の子供たちが、どやどやどやっ、と出てこようとしたので、男の子は「おっとっとっとっ!」と、マッサのほうに押し出されてきて、もうちょっとで、転ぶところだった。
「うるせえーっ! おまえら、ごちゃごちゃ、出てくるな! 中に入ってろっ!」
男の子は、顔を真っ赤にして怒った。
この子の怒り方、何だか、ディールにそっくりだな、と、マッサは思った。
「はあーい。」
と、ぶつぶついいながら、子供たちは、中に入っていった。
男の子は、ふう、と深呼吸をしてから、
「おい!」
と、もう一回、マッサにどなってきた。
「おまえ、大魔王の、スパイじゃねえだろうなっ!」
「ええっ!?」
いきなり、ものすごい疑いをかけられて、マッサは、びっくりしてしまった。
「ちがいます! 大魔王って、誰ですか!? そんな人のこと、ぼく、全然、知りません!」
「はあ?」
男の子の、太いまゆげが、ぐぐっと寄った。
「大魔王のことを、知らないだって? この国は、十年前に、大魔王が攻撃してきたせいで、もうちょっとで、滅びるところだったんだぜ。そんなことは、みんな知ってることだ! それを、知らないなんて言って、とぼけるってことは、ますます、あやしい!」
「ええっ? でも、ぼく、本当に知らないんです!」
「それが、あやしいって言ってるんだよ。おい、正直に、はくじょうしろ! でねえと、ぶんなぐるぞ!?」
「ええーっ!?」
マッサは、おいつめられて、困り果ててしまった。
本当に、大魔王のことなんか知らないのに、知らないのはおかしいと言われるし、知りもしないことを、はくじょうしろと言われるし、はくじょうしないと、ぶんなぐるぞとおどかされるし、もう、むちゃくちゃだ!
「うう……」
どうしよう。
もう、泣きそうになってきたよ……
マッサが、そう思ったときだ。
ぴっぴっぴっぴっ!
「いたたたたた!」
急に、髪の毛を引っ張られて、マッサは、悲鳴をあげた。
犯人は、ブルーだ。
「痛いじゃないか、ブルー! 急に、髪の毛を引っ張るのはやめてって、言っただろ!? どうしたんだよ!」
リュックサックの上に乗ったブルーは、まじめな顔で、マッサに向かって、両手を突き出した。
『りんご!』
「……今っ!?」
マッサは、本当に、ずっこけそうになってしまった。
ブルーは、大魔王がどうとか、スパイがどうとかいう話なんて、まるっきり、聞いてなかったみたいだ。
「うわっ!」
こわい顔で、マッサにつめよっていた男の子が、ブルーを見て、目を丸くして叫んだ。
「もじゃもじゃが、喋った!」
『もじゃもじゃじゃない! ブルー!』
「うわ! また喋った!」
すると、
「えっ、なに? もじゃもじゃ?」
扉の内側に集まって、聞き耳を立てていた、大勢の子供たちが、また、どやどやどやーっと、外にあふれ出てきた。
「見せて! ぼくにも、もじゃもじゃ、見せて!」
「うわあ、かっわいーい! 白いもじゃもじゃがいる!」
「さわらせて、さわらせて!」
「だめだよ、噛むかもしれないよ!」
「見えない、見えない! わたしも見るー!」
「何を食べるの? お野菜?」
「ねえ、もじゃもじゃさん! お名前は、なんていうの?」
『もじゃもじゃじゃない! ブルー!』
さっきまでの緊張感が、どこかへ行ってしまって、その場は、すっかり、大混乱になってしまった。