マッサたち、大魔王の城へ
アイナファール姫は、さらに両腕に力をこめ、結界の裂け目を押し広げようとした。
バリバリと音を立てて走る電撃の光と、アイナファール姫自身を守る輝きが一緒になって、じっと見ていられないくらいのまぶしさだ。
その光の中でも、お母さんの顔がすごく苦しそうなことは、はっきりと分かった。
マッサは、今すぐに手伝いたかったけど、お母さんと同じ魔法を使うことができない自分が手を出しても、また、弾き飛ばされるだけだ。
それだと、逆に邪魔になってしまうと思って、必死にがまんした。
「もう、あと、少しだよ、お母さん! がんばって!」
マッサが大声で応援した、そのときだ!
ギャギャーッ! ギャギャギャーッ!!
不吉な鳴き声と共に、バサバサバサァッ! と激しい翼の音がして、バッと黒い影がさした。
化け物鳥だ!
アイナファール姫は、間一髪で身を引き、急降下してきた化け物鳥の攻撃をかわした。
「あああっ!」
マッサは、思わず叫んだ。
よかった、という意味じゃない。
お母さんの両手が離れた瞬間に、結界の裂け目が、ぴしゃりと閉じ合わさってしまったからだ。
「お母さん! お母さん!」
マッサは、必死に叫んだ。
ブルーをぎゅうっと抱き、思い切って、結界に体当たりしてみたけど、バッシーン! と激しい衝撃があって、はね飛ばされただけだった。
アイナファール姫は風のように飛び回り、化け物鳥の攻撃をかわしながら、手からいくつもの光の粒を打ち出して、化け物鳥と戦っている。
でも、その動きは、少し重く、疲れているように見えた。
きっと、大魔王の結界を破るために、魔法の力を使いすぎたんだ。
「お母さん、お母さん、お母さん!」
マッサが必死に呼ぶと、お母さんの顔が一瞬だけ、こっちを向いた。
その腕が、行きなさい、というように大きく動いた。
「お母さん!」
目から涙があふれ出したけど、マッサは、お母さんに背中を向けた。
何度も何度も振り返りながら、大魔王の城へと向かった。
ここで、泣きながらお母さんを呼び続けていたって、なんにもならない。
ぼくが、ぐずぐずしていたら、そのあいだにも、子供たちや、仲間たちが、大けがをしてしまうかもしれない。
今、ぼくが、行くしかないんだ!
マッサは、高いところにあいていた窓から、大魔王の城の中に飛び込んだ。
そこは、石造りで、がらんとしていて、ほとんど何もない部屋だった。
よし、行くぞ!
でも、暗い部屋の、石の床に降り立った瞬間、涙がぼろぼろこぼれてきて、止まらなくなった。
こうしているあいだにも、お母さんが大けがをしたり、死んじゃったりしたら、どうしよう。
チッチやタックや、まだ名前も覚えきれてない子供たちは、大丈夫なのか。
ボルドンは、ガーベラ隊長は、ディールは、タータさんは、フレイオは、無事なのか?
そして、ぼくは、たった一人で、大魔王に勝つことなんて、できるのか?
すると、泣いているマッサの腕の中が、急にごそごそした。
『ムニャムニャムニャムニャ……からい!』
気絶していたブルーが、目を覚ましたんだ。
マッサの涙が口に入って、ペッペッ! ブルルルッ! と首を振ったブルーは、ぱっちりと目を開けた。
『あれ、マッサ、ないてる! いたい? おなかすいた?』
「ううん。……だいじょうぶだよ。」
『よかった! ……ハッ! ここ、どこ? こわいやつ、いない?』
「うん。ここには、化け物鳥はいないよ。」
『よかった! ……あれ? みんなは?』
「うん、みんなも、いないんだ。」
そう答えたとたん、また、ぼろぼろと涙が出てきた。
「みんなは、ぼくたちを、ここに来させるために、後ろに残って、戦ってくれてるんだ。
ここは、もう、大魔王の城の中だよ。ぼく、これから、とうとう、大魔王と対決しなくちゃいけないんだ。
でも、怖いよ。十年前、大魔王には、誰も勝てなかったんだ。だいじょうぶかな、そんなやつと、たった一人で戦うなんて……」
『ちがう!』
急に、ブルーが大きな声を出して、ブルルルルッと頭を振った。
「えっ? 何が?」
『ひとりじゃない。』
ブルーは、マッサの腕の中から飛び降りて、ふんっ! と胸をはり、シャーッ! とちっちゃな牙を出して、ちっちゃな力こぶをつくった。
『ぼくも、いる! ぼく、マッサのともだち! なかま!
それに、みんなもいる! ここには、いないけど、みんないる。ともだち! なかま!』
マッサは、はっとした。
そうだった。
ぼくが、ブルーを守ってあげなくちゃ! とばかり思っていたけど、そういえば、この旅が始まる前に、翼の騎士団の本部で、いちばん最初に、マッサの仲間になると言ってくれたのは、ブルーだった。
ぼくだけが、一人で、大魔王と戦うんじゃない。
ぼくは、ブルーといっしょに、戦うんだ。
そして、今、この場所にはいないけど、みんなも、今まさに、同じ目的のために戦っている。
ぼくは、一人じゃない!
そう思うと、今までの、押しつぶされそうな気持ちが、ちょっとだけ軽くなって、心の奥の方から、ほんの少し、勇気が湧いてきた。
「うん、そうだね。……そうだった。ありがとう、ブルー。行こう!」
『いこう!』
マッサは、部屋にひとつだけあった、閉じられた扉に近づいた。
外側から、鍵がかけられているみたいだ。
「ふんっ!」
シャキンシャキーン! と剣を振るって、マッサは扉を破り、ブルーといっしょに、外に飛び出した。
そこは、暗い廊下になっていた。
誰もいない廊下を、しばらく行くと、長い長い階段がある場所に出た。
ものすごく幅の広い、らせん階段だ。
巨大な筒がたの塔の内側を、ぐるぐると巡って、のぼるようになっている。
この上に、大魔王がいるのか?
「行こう!」
『いこう!』
マッサは、ブルーを抱きあげて、魔法でふわっと浮かび上がり、らせん階段にそって、ビュウーンと回りながら飛んでいった。
足で、走って登るよりも、魔法で飛んでのぼったほうが、疲れない。
これから、大魔王と対決しなくちゃいけないんだから、少しでも、体力を残しておかないと――
と、そのときだ!
『なに?』
と、ブルーが言った。
「えっ?」
と、マッサは言った。
ブルーは、マッサの腕の中で、体をぐっと起こして、耳をぴんと立てている。
何だか、嫌な予感がして、マッサは飛ぶのをやめ、らせん階段の途中に降り立った。
「どうしたの、ブルー? 何か、聞こえるの?」
『きこえる!』
ブルーは、全身の毛を、ぶわっとふくらませて、言った。
『かつーんかつーんって、きこえる。うえのほうから! どんどん、こっちに、ちかづいてくる!』




