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マッサたち、さらに、わかれる

 ピピピーッ、ピピピーッ、ピピピーッ!

 カーンカンカンカーン!


 あっちこっちで響く警報の音は、ますます激しくなってきた。

 城へと続く、だだっ広い空き地のような場所を突っ走っていくマッサたちに、


 バサバサバサバサァッ!


 と音を立てて、襲いかかってきたものがある。

 見ると、茶色い「幽霊マント」の大群だ!


「まずい!」


 マッサは、焦った。

 あいつらに巻き付かれたら、どれほど厄介か、ゲブルトの塔で、嫌というほど思い知らされている。

 命の危険がないから、《守り石》は働かない。

 大量の幽霊マントに、ぎゅうぎゅうに巻き付かれたら、身動きもできなくなってしまう!


「炎よ!」


 鋭い叫びとともに、地面から、ゴオオーッとまばゆい炎の壁が噴き出した。

 フレイオの魔法だ。

 炎の温度があまりにも高すぎて、赤を通り越し、白く光って見える。

 白い炎の壁は、まず、フレイオを中心に、マッサとブルー、アイナファール姫のまわりをぐるっと囲んだ。


 勢いあまって、炎の壁に突っ込んできた幽霊マントたちは、一瞬で燃え上がり、ほんの少しの灰と煙になってしまった。

 炎の壁の外側で、なんとか止まろうとする幽霊マントと、どんどん押し寄せてくる幽霊マントとがぶつかり合って、まるで、巨大な洗濯物の山みたいになる。


 幽霊マントたちが、壁の内側に入ってくることができずにいるうちに、フレイオは大きく手を動かして、炎の壁を変形させていった。

 炎の壁の一部が、大魔王の城に向かって一直線に伸びたかと思うと、ぐうっと左右にわかれ、城の門まで、まっすぐな広い通路を作る。


「マッサ! 私が、ここで、炎の道を支えているあいだに、はやく城へ!」


「ええっ!?」


 まさか、ここで、フレイオまでが――


「嫌だよ! フレイオ、一緒に来てよ! 大魔王と対決するときに、魔法使いのきみがいないんじゃ、心細すぎるよ!」


「何を、言ってるんです。」


 高温の炎の壁を、ものすごく長く伸ばして、しかも、それをずっと出し続けるというのは、フレイオほどの魔法使いにとっても、ものすごく疲れることらしい。

 白い顔を、ぎゅっとゆがめながら、フレイオは、ちらっとだけマッサを見た。


「あなただって、立派な魔法使いです。それに、母上もいらっしゃる。心配はいりません。さあ、行きなさい!」


「でも……」


「でも、なんて、言っている場合ではない! この炎の壁は、長くはもちません。さあ、早く!」


「う、う、う、うう、ううーっ……!」


 マッサは、だんだんだん、とその場で足踏みをしながら、うなって、


「分かった! でも、フレイオも、絶対、絶対、絶対、後から来てよ!」


「ええ、ええ、分かっています。さあ、早く、行きなさい!」


「絶対だよ!」


 叫んで、マッサは、ブルーを腕に抱いたまま、炎の通路を駆け出した。

 そのすぐ後ろに、アイナファール姫が続く。


 マッサたちは、大魔王の城まで、あと少しというところまで迫った。

 そそり立つ城の壁の手前は、幅が広くて深い堀になっている。

 その向こうには、金属でできた、巨大な城の門が見えている。

 でも、そこに続く橋はない。

《死の谷》を越えたときのように、魔法で隠されているのか、それとも、大魔王が、橋を落としてしまったのか――


「飛ぶわよ、マッサ。」


「えっ? ……ああ、うん!」


 そうだった。

 ぼくも、お母さんも、空を飛ぶ魔法が使えるんだ!


 マッサはブルーを抱いたまま、たんっ! と地面を蹴り、そのまま空中に浮かび上がった。

 お母さんも、ひゅうっと飛んで、マッサのすぐ後ろについた。

 二人は、暗い堀の上をあっという間に飛び越えて、高いところに開いていた窓から、城の中へ――


 バリバリバリバリーッ!


「うわあああっ!?」


 突然、ものすごい衝撃が走って、マッサは空中で大きく弾き飛ばされた。

《守り石》が光って守ってくれたおかげで、けがはない。

 でも、あまりの衝撃に、ブルーを抱いていた手をはなしてしまった!


「ああっ!」


 マッサは、目を見開いた。

 すごい高さから、ブルーが、石ころみたいに、まっすぐに落ちていく――

 もう、間に合わない!


 そのときだ。

 ヒューン! と風のように、落ちていくブルーの下に回り込んで、ぱしっとその体を受け止めたのは、お母さんだった。


「あああーっ!」


 マッサは、泣きそうになりながら叫んだ。

 今度の叫びは、安心の叫びだ。

 こんなところで、ぼくのせいでブルーが死んじゃったりしたら、悲しすぎて、大魔王と戦うどころの気持ちじゃなくなってしまう。


「ありがとう、ほんとにありがとう、お母さん!」


「ええ、危ないところだったわね。さあ、気をつけて、ブルーさんを、しっかり抱いてあげて。」


 マッサは、今度こそ絶対に落っことさないように、細心の注意をはらって、お母さんの手からブルーの体を受け取った。

 アイナファール姫は、一人で、さっきマッサが弾き飛ばされたあたりの場所へと、慎重に近づいていった。


「ああ……侵入者を防ぐための結界が張られている。とてもうまく隠されていて、気づかなかった。

 無理に通ろうとするものがいれば、雷の魔法で、粉々にしてしまう仕掛けね。あなたの《守り石》がなかったら、危なかったわ。」


「ええっ! それじゃあ、ここよりも中には、入れないっていうこと?」


 どうしよう、と思いながら、マッサは後ろを振り返った。

 あちこちで、砂ぼこりが舞い上がり、煙が上がっている。

 残してきた子供たちや、仲間たちと、大魔王の軍勢とのあいだで、激しい戦いが起こっているんだ。

 みんなの希望を託されて、自分たちだけ、ここまで進んで来たのに、大魔王と対決するどころか、城の中にも入れないなんて――


「いいえ。」


 アイナファール姫が、はっきりと言った。


「私の魔法で、この結界を、何とか破ることができないか、やってみるわ。マッサ、少し、離れていなさい。」


「えっ? 破るって、どうやって? 危なくないの? ねえ……」


「いいから、下がっていなさい!」


 今まで一度も聞いたことがないほど厳しいお母さんの声に、マッサは、はっとして、ブルーとともに後ろにさがった。

 アイナファール姫は、すうーっ、と呼吸を整え、両手を顔の前に掲げた。

 その体のまわりで、ぶわっと風が巻き起こり、服のすそと髪がはためく。


 アイナファール姫の両腕の肘から先が、きらきらと輝きはじめた。

 その輝きは、やがて両腕から、全身に広がっていく。

 光は、どんどん強くなり、やがて、後ろにいるマッサが、まぶしくて、まともに見ていられないほどになった。

 まるで、アイナファール姫自身が、小さな太陽に変身したようだ。


「ハァッ!」


 アイナファール姫は、鋭い気合とともに、輝く両手を、見えない結界に突き刺した!


 バリバリバリバリーッ!


 激しい電撃が荒れ狂い、アイナファール姫の全身を包む。


「お母さん!」


 マッサは、思わずその背中に抱きつきそうになったけど、さっき、下がっていなさいと言われたことを思い出して、ぎりぎりで、思いとどまった。

 お母さんの体全体を、きらきら光る輝きがおおって、電撃から守っているようだ。

 でも、もしも、今よりも危なくなりそうだったら、すぐに助けないといけない。

 マッサは、お母さんのすぐ後ろで身構えながら、固唾をのんで見守った。


 アイナファール姫は、結界に突き刺した輝く両手を、渾身の力で左右に開いていった。

 まるで、閉まりかけている扉を、全力でこじ開けようとする人のように。

 やがて、ピシッ! ピシピシッ! と音がして、今まで何もないようにしか見えなかった空中に、一本の裂け目があらわれた。


「ふうううううーっ……!」


 荒れ狂う電撃の中、アイナファール姫は渾身の力で、一センチ、また一センチと、裂け目をこじ開けていく。

 やがて、裂け目は、子供が体を斜めにすれば、ぎりぎりすり抜けられるくらいにまで広がった。


「マッサ、先に、通りなさい!」


 お母さんが叫んだ。


「私が、この裂け目を支えておくから、今のうちに、はやく!」


「えっ……」


 マッサは、ためらった。

 もしかして、これは、フレイオのときと、同じことになるんじゃないのか?


「お母さんは!? お母さんが、先に入ってよ!」


「無理よ、今、この体勢は変えられない! 早くして! こうしているうちにも、私の魔法の力は、どんどん削られていく!」


 マッサは、嫌だよ! と言いたかった。

 でも、ここまで来て、わがままを言っていられない、ということは分かる。

 それに、こんなつらい状態のまま、お母さんを待たせるなんて、とてもできない。


「分かった! ぼく、先に通るね!」


 マッサは、ブルーをぎゅっと胸に抱きしめて守りながら、お母さんの腕にぶつからないように注意して、ぎりぎりのところで、結界の裂け目をくぐり抜けた。


「さあ、お母さん!」


 マッサは叫んだ。


「お母さんも、はやく、こっちに来て!」


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