マッサたち、わかれる
大魔王の城をめざして走り始めたマッサたちの目の前に、まず、いきなり立ちはだかったのは、がんじょうな岩の板をたてて作られた塀だ。
横に、ずーっと長く続いているから、回り込んでよける、というわけにはいかない。
高さは、よくあるドアくらいの高さだから、踏み台さえあれば、よじ登って乗り越えることもできそうだけど――
「ぼくが、様子を見てくる!」
マッサは、すばやく呪文を唱えると、空を飛ぶ魔法で、ヒューンと低く飛んで、塀の上から、向こうをのぞきこんだ。
「おっと!」
危ない、危ない。
塀の、すぐ向こうには、はばが二メートルくらいある、深い溝が掘られていた。
しかも、溝の底には、丸太をとがらせたくいが、とがったほうを上にして、びっしりと埋めてある。
何も知らずに塀を乗り越えようとしたら、勢いあまって溝に落っこちて、くいに、ぐさーっと突き刺さってしまうところだった。
「よし! みんな、下がって!」
マッサは、ヒューンと飛んでみんなのところに戻ると、剣を構えて、
「えーいっ!」
シャキンシャキーン! と、目の前の塀を切り、どーん! とキックした。
塀の一か所が、バターン! と向こう側に倒れて開いた。
しかも、向こう側に倒れた塀が、ちょうどうまく、溝の上にかかって、溝を安全に渡るための橋みたいになっている。
『はし、できた! いい、はし!』
「おおっ! いいぞ、マッサ!」
「頭が、いいですねえ!」
ブルーとディールとタータさんが、思わず叫ぶ。
「行こう!」
塀を倒した橋を渡って、マッサたちはどんどんと大魔王の城に近づいていった。
そこからも、何度か、同じような塀と溝が立ちはだかったけど、マッサが、まったく同じ方法で橋を作って、突き進んでいく。
そうこうしているうちに、さすがに、敵の中にも、マッサたちに気づくやつが出てきた。
『ウギャギャーッ!? あれは、何だ!?』
『城に、近づいてくるやつらがいるぞ!』
『大変だ、王子だ、王子が来たぞーっ!』
あっちこっちから、叫び声が聞こえ、ピピピーッ! ピピピーッ! カーンカンカンカーン! と、笛や鐘の警報が鳴りひびき始める。
「見つかった! 来るぞ、注意しろ!」
「了解ですぜ!」
ガーベラ隊長とディールが、そう叫び合ったのと同時に、大勢の猿たちが、ウオオオーッと叫びながら押し寄せてきた。
しかも、右側と左側から、同時にだ!
「王子! ここは、私に任せて、先に進んでください!」
ガーベラ隊長が叫んだ。
「ええっ!? そんな――」
と、マッサは言いかけたけど、
「大魔王との対決は、王子にしかできません! ここは、私が食い止めます! さあ、王子は、先へ!」
と、ガーベラ隊長は叫び、一人で猿たちの前に立ちはだかって、ぶんぶんぶうーん! と槍を振り回した。
「さあ来い! 私の槍で、串刺しになる勇気があるならばな!」
その気迫に、猿たちが思わずためらった、そのときだ。
「隊長! 俺も、一緒に残って戦いますぜっ!」
そう叫びながら飛び出して、同じように槍を振り回したのは、ディールだ。
ちょうど、隊長とディールの二人で、右側と、左側を、それぞれ守るかたちになっている。
「ばか者! おまえは、王子たちと一緒に行かんか!」
「いや、ここを食い止めるには、二人は必要ですぜ! 俺たちが時間を稼いでるあいだに、マッサたちが、絶対にやってくれますぜ。
おい、マッサ、ぼやぼやするな! はやく行けーっ!」
「う、う、うーっ……!」
マッサは、心がふたつに割れちゃいそうなくらい、悩んだけど、
「分かった!」
と叫んで、最後の塀を、剣で、シャキンシャキーン! と切った。
「隊長、ディールさん! 絶対に、後から、追いついてきてね!」
「ええ、分かっています! さあ、王子!」
「マッサ、行け!」
マッサは、どーん! と塀をキックして向こう側に倒し、できた橋の上を、だーっと走り抜けた。
マッサのあとに、ブルー、タータさん、フレイオ、アイナファール姫が続く。
後ろの方から、隊長とディールが激しく戦っている物音が聞こえた。
そして、もっと遠くからは、地鳴りのような、ものすごい吠え声が。
「ボルドン……!」
思わず、肩越しにふりむいたマッサの目から、涙が転がり落ちた。
チッチやタック、子供たち、ボルドン、ガーベラ隊長、ディール……
みんなが、どうか、無事でありますように!
と、そこへ、
ギャーッ、ギャーッ、ギャーッ!
空から、不吉な鳴き声が聞こえて、ざあっと大きな影がマッサたちの上を通りすぎた。
化け物鳥だ!
しかも、一気に、三羽も!
『ブルルルルルッ! こわい、こわい、こわい!』
「ブルー!」
ぱたんと倒れてしまいそうになったブルーに、慌てて駆け寄って、抱き上げる。
そんなマッサの上に、急降下してきた化け物鳥の鉤爪が――
カキーン! ビシィッ!
ギャギャーッ、ギャギャギャーッ!?
鋭い音が響いて、悲鳴をあげたのは、化け物鳥のほうだった。
タータさんが、地面から拾い上げた石を、野球のボールみたいに、フライパンで思いっきりかっ飛ばして、化け物鳥にぶつけたんだ!
「マッサ! ここは、わたしに、まかせてください! わたしが、化け物鳥を、食いとめているあいだに、はやく、先へ!」
「ええっ!?」
マッサは、もうちょっとで、嫌だよ! と叫びそうになった。
本当のことを言えば、この島に着くまでは、仲間たちと全員そろって、大魔王のところに乗りこむつもりだったんだ。
それなのに、仲間たちが、どんどん、後に残って、減っていってしまう。
みんなのことも心配だし、それに、これ以上、みんながいなくなったら、ぼくは、最後には、たった一人で、大魔王と戦うことになってしまうんじゃ――
「迷ってる場合じゃ、ありませんよ!」
カキーン! カキーン! ビシッ! ビシッ!
ギャーッ、ギャーッ! ギャギャギャギャーッ!!
次々と石を打って、化け物鳥に命中させながら、タータさんが叫ぶ。
「わたしは、大丈夫です。マッサは、マッサにしかやれないことを、やりに行ってください! さあ、早く!」
「う、う、う、うーっ……! わ、分かった!」
マッサは、気絶したブルーを抱いたまま、タータさんに叫んだ。
「タータさん、絶対に、あとから、追いついてきてね! 約束だよ!」
「がんばります! マッサも、がんばってくださいね! さあ、さあ!」
「絶対だよ! 約束だからね!」
そう叫んで、マッサは、ブルーを抱いたまま、だーっと走り出した。
その後に、フレイオと、アイナファール姫が続く。




