マッサたち、出る
タータさんが垂らしてくれた、結び目つきのロープをよじ登り、マッサたちは一人ずつ、地上に出た。
そこは、灰色っぽい分厚い葉っぱにおおわれた、ぼさぼさの茂みになっていて、マッサたちは、そこらじゅうをうろうろしている見張りに気づかれることなく、全員集合することができた。
ボルドンだけは、上がってこない。
ボルドンは、洞窟の入口から、いったん海に飛び込んで、崖をよじ登って、子供たちがピンチになったときに、いきなり現れる計画になっているからだ。
「あれが、大魔王の城か! さすがに、守りが固そうだぜ。」
天に向かってそびえる黒い城を、葉っぱの隙間から見上げて、ディールが唸った。
「あたしたちは、あっちにむかって、はしるわね。」
大魔王の城のほうとは、違う向きを指さして、チッチが、ひそひそ声で言った。
「さいしょは、みんなで、いっしょにはしるの。それから、とちゅうで、きゅうに、ふたてにわかれるの!」
「そうすれば、てきは、どっちをおいかけるか、まよっちゃって、もっとこんらんするからさ。」
と、タックも言った。
「おうじさまたちは、てきが、ぼくたちをおいかけていってから、こっそり、しゅっぱつしてね。」
「わかった。みんな、ほんとに、気をつけてね。」
マッサは、子供たちひとりひとりの目を見て言った。
「子供たちが、敵をひきつけてくれているあいだに、我々は、大魔王の城をめざして、まっすぐ走る! 王子と、アイナファール姫のまわりを囲み、お二人を守りながら進むぞ。」
ガーベラ隊長が言った。
「見張りたちの多くは、子供たちを追いかけていくかもしれないが、この陽動作戦が、完全にうまくいくという保証はない。戦いになる、と考えたほうがいいだろう。
それに、猿たちの他にも、どんな敵が出てくるか分からん。言い方は乱暴だが、出たとこ勝負だ。」
「出たとこ勝負なら、得意中の得意ですぜ。任せてくだせえ!」
と、ディールが胸をはり、
「それは、まったく自慢にならんぞ。」
と、隊長が呆れて言う。
みんなは、思わず、くすくす笑った。
笑ってから、ふーっと息をはいて、みんな、きりっと表情を引き締めた。
「それじゃ、いくわよ。」
と、チッチが言った。
「ぼくたちが、とびだしてから、おうじさまたちは、ひゃく、かぞえてね! あわてちゃ、だめだよ!」
タックも言った。
みんな、拾った石ころや、家から持ってきていたロープや、フライパンや、練った粉をのばすための麺棒や、そのほか、いろんな武器を握りしめている。
「みんな、ころぶんじゃないわよ。さあ、いい? いいわね?
いちについてー……よーい……ドン!!」
チッチの号令と同時に、子供たちは、一気に茂みから飛び出した。
最初は、だまって走る、走る。
そして、じゅうぶんに茂みから離れたところで、
「ワアァァァァァ!」
「キャー! キャー! キャー!」
「やーい、やーい、こっちだよーっ!」
子供たちは、てんでに声を張り上げて、大騒ぎしはじめた。
カンカンカーン! とフライパンを打ち合わせて、とんでもない音を立てる子もいる。
指笛を、ピーピピピーッ! と吹き鳴らす子もいる。
これにびっくり仰天したのは、そこらじゅうに立っていた見張りの猿たちだ。
まわりの海から、誰も近づいてきた様子がなかったのに、急に、島の上に子供たちが現れて、大騒ぎをしはじめたのだから、無理もない。
『ウキャキャキャーッ!?』
『おい、何だ、あいつらは!? どこから現れやがった!?』
『捕まえろ、捕まえろーっ!』
見張りの猿たちが、あっちこっちから集まってくる。
先頭を走っていたチッチとタックは、自分たちの後ろから、見張りの猿たちが大勢追いかけてくるのを確かめて、顔を見合わせ、うん、とうなずき合った。
そして、急に、ぎゅーん! ぐいーん! と、二手に分かれた。
後に続く子供たちも、それぞれチッチとタックの背中を追いかけて、二手に分かれる。
『あっ! ちくしょう!』
猿たちは一瞬、どっちを追いかけたらいいのか、もしかしたらこれは何かの罠じゃないのか、と迷って、立ち止まりそうになったけど、
「こっちまーで、おーいでー! ベロベロバー!」
「やーい、やーい、あしが、おそーい!」
「さーる、さーる、さるさるさるー!」
「かめより、あしが、おそい、さるー!」
と、子供たちが、カンカンおなべを叩きながら、大声ではやし立てるものだから、すっかり怒ってしまって、
『やつらを、絶対に捕まえろ! 一匹も逃がすなーっ!』
『おーうっ!』
と、そのまま、てんでばらばらに分かれて、子供たちを追いかけていった。
「みんな、大丈夫かな……!」
子供たちが心配すぎて、思わず茂みから頭を突き出しそうになったマッサの肩を、ガーベラ隊長が、ぐっと押さえた。
『みんな、さるに、おいかけられてる! しんぱい、しんぱい!』
と、思わず茂みから駆け出そうとしたブルーを、ディールが、がしっと捕まえる。
子供たちのことが心配な気持ちは、みんな同じだ。
でも、中途半端なところで、マッサたちが見つかったら、その子供たちのがんばりが、全部、むだになってしまう。
ここは、子供たちと、そしてボルドンを信じて、託すしかない。
タータさんが、みんなの後ろで、ぶつぶつと、何か呟いている。
「八十八……八十九……九十……」
あわせて二十本ある指を、順番に折り曲げたり、開いたりしながら、数を数えているんだ。
タータさんは、タックが言っていた、
『ぼくたちが、とびだしてから、おうじさまたちは、ひゃく、かぞえてね! あわてちゃ、だめだよ!』
という言葉を、しっかり覚えていて、その通りにできるように、タイミングをはかっていた。
ガーベラ隊長が、ふーっと呼吸を整えて、槍を握りしめる。
ディールも同じように、槍を握る手に、ぐっと力をこめた。
フレイオは、自分の杖を構えている。
ブルーは、カーッ! と牙をむいたり、シャキーン! と爪を出したりして、戦う用意をしている。
「九十五……九十六……」
タータさんは、指を使って数えるのをやめて、四本の手全部に、フライパンとおなべを構えた。
マッサは、自分の剣を、まわりの仲間に当たらないように気をつけながら、ゆっくりと引き抜いた。
お母さんの手が伸びてきて、マッサの左手を、ぎゅーっと握ってくれてから、さっと離れた。
「九十七……九十八……九十九……百!」
「行こう!」
マッサは鋭くささやいて、王子と仲間たちは、いっせいに茂みから飛び出した。




