マッサたち、決める
「わたしが、調べてみましょう。ちょっと、待っていてください。」
タータさんはそう言うと、いきなり、たたたっと甲板を走り出した。
そして、誰が止める間もなく、船べりにひょいと飛び乗って、
「とうっ!」
と、船べりを蹴り、数メートルは離れている岩壁に向かって、思いっきりジャンプした。
そして、四本の腕と両足で、クモみたいにぴたりと岩壁にはりつき、そのまま、さっさと岩壁をよじ登っていった。
『のぼる、のぼる! タータさん、すごい! はやい!』
ブルーが、見上げながら、ちっちゃな手をパチパチと叩いた。
ブルーの言うとおり、タータさんは、天井の明るく見えるところまで、あっという間に近づいていった。
最後のほうは、なんと、背中を下に向けて、手足の力だけで、天井にぶらさがって移動している。
見守っているマッサたちは、もしかしたら、タータさんが手を滑らせて落っこちてくるんじゃないか、とひやひやしたが、タータさんにとっては、壁を登るのも、天井を移動するのも、平らな地面を歩いているのと、あまり変わりがないみたいだ。
岩の隙間らしきところまで、簡単にたどり着いたタータさんは、そこに手を突っ込んだり、頭を突っ込んだりして、いろいろと調べている。
そして、最後まで、一度も手足を滑らせることなく、するすると岩壁をつたって降りてきた。
「とうっ!」
とジャンプして、すたっと、みんなが待っている甲板に着地したタータさんは、
「どうだった?」
とたずねたマッサに向かって、大きくうなずいた。
「思ったとおりです。あそこに、何とか地上にはい出られるくらいの、岩の裂け目がありますよ。
しかも、ちょうどいいことに、這い出たところが、ぼさぼさの茂みになってるんです。あれなら、上に出て、すぐに見つかってしまう、ということも、なさそうですよ。」
「よっ……しゃあっ。」
ディールが思わず大声を出しかけて、はっと気づき、後ろ半分の声を急に小さくして、言った。
「どうやら、運が、俺たちに味方してくれてるらしいな。あそこから出ようぜ!」
「だが、あんなところから、どうやって……あっ、そうか。」
言いかけたガーベラ隊長が、自分で気がついて、ぽんと手を打つ。
「ええ。わたしが、先に、ロープをかついで行って、あそこから垂らしますよ。」
タータさんが言った。
そういえば、ずっと前にも、タータさんが、洞窟の天井からロープを垂らして、みんなが登れるようにしてくれたことがあったなあ、と、マッサは思い出した。
あれは、まだ《魔女たちの城》にたどり着く前のこと。
地面の下を、ドラゴンの尻尾に乗せてもらって、ゴゴゴゴゴーッと送ってもらったときだ。
地下から、地上に出るときに、タータさんが先に登って、ロープを垂らしてくれたんだった。
あれから、みんなで、本当に、長い長い旅をしてきた――
「みんなは、静かに、ここで待っているんだぞ。」
ガーベラ隊長が、子供たちに向かって言った。
「ここから先は、あまりにも危険だ。上には、大勢の見張りがいたから、激しい戦いになることも、じゅうぶんに考えられる。それに、何よりも、大魔王との対決が控えているのだからな。」
そう言われて、子供たちは、顔を見合わせた。
そして、しばらく、お互いに目で合図をしながら、肘で、突っつき合っていたけど、やがて、
「ねえ……あたしたちも、いっしょにいっちゃ、だめ?」
と、チッチが言った。
「何だと!?」
と、ガーベラ隊長は思わず叫びそうになって、慌てて口を押さえた。
そんなもの、だめに決まっているだろう、危険すぎる! と、隊長が続ける前に、すばやく、チッチが言った。
「もちろん、あぶないってことは、よーく、わかってるわ!
でも、あたしたちだって、おかあちゃんや、おとうちゃんたちをたすけるために、なにか、したいんだもん!」
「ぼくたち、ここにくるまでに、ふねのうえで、こっそり、はなしあってたんだ。」
と、タックも言った。
「そりゃ、ぼくたちは、ちいさいから、まともにたたかうのは、むりだけどさ。ほかのやりかたで、やくにたてるとおもうんだ。
おうじさまたちだって、みただろ? あの、みはりのかず! ぜったいに、とちゅうで、みつかっちゃうよ。」
子供たちは、そろって、うんうん、とうなずいた。
「だから、あたしたちが、おとりになるのよ。」
チッチが、はっきりと言った。
「あたしたちが、ギャーギャーさけびながら、そのへんを、あっちこっち、はしりまわるの!
みはりは、みんな、びっくりして、こっちにあつまってくるわ。おうじさまたちは、そのすきに、だいまおうのしろにいって、あいつを、やっつけるのよ!」
「ぼくたちみんな、あしがはやいから、だいじょうぶだよ。」
タックが言った。
「もしも、ころんだりして、つかまったときは、すぐに、こうさんしちゃうんだ。
それで、なかまは、あっちにいったとか、こっちにいったとか、うそをついて、あいてを、こんらんさせるんだよ。」
「ううーむ。」
ガーベラ隊長が、難しい顔をしてうなった。
マッサには、隊長の気持ちがよくわかった。
確かに、あの厳重な見張りを突破して、大魔王の城に近づくのは、ものすごく難しい。
だから、子供たちが、見張りをひきつけてくれるのは、すごく助かる。
でも、敵をひきつけるおとりの役は、あまりにも危険だ。
子供たちだけに、そんな危ない仕事を任せて、自分たちは先に行くわけにはいかない、と、隊長は思っているんだ。
それは、マッサだって、同じ気持ちだった。
「ね、おねがい、おねがい!」
「おねがーい!」
口々に言われて、ガーベラ隊長がもう一度、
「ううーむ。」
と唸った、そのときだ。
『グオッ!』
と、声が聞こえて、みんなが振り向くと、ボルドンが、まじめな顔をして、片方の前足をあげていた。
『グオーッ、ウオッ、ガーオ、ウオッ……』
『ボルドン、ぼくもいく! って、いってる。ぼくも、こどもたちといっしょに、おとり、する!』
「ええっ? ……あっ、でも、ちょっと待って。ボルドンは、そもそも、どうやってここから出るの? あんな小さな隙間、ボルドンは、通り抜けられないよ?」
『グオッ、ガオーッ、グロロロロ……』
『ぼくは、はいったところから、でる! って、いってる。
ざぶーんって、みずにはいって、それから、がけを、のぼる。そして、ばーん! って、うえにでる!』
「なるほど。」
ガーベラ隊長がうなずいた。
「たしかに、ボルドンならば、外側の切り立った崖をのぼることも簡単だな。子供たちが、敵の目を引きつけたところで、さらに、ボルドンが登場して、敵をおどろかす、か……」
「ありがと、くまさん!」
チッチが、ボルドンの太い前足に抱きついて、言った。
「ね、くまさんもきてくれるから、だいじょうぶ! おねがい、おねがい!」
「ぼくたちが、てきをこんらんさせて、くまさんが、ばんばんばーん! って、やっつけるんだ。だから、おねがい、おねがい!」
ガーベラ隊長が、また、
「ううーむ。」
と唸りながら、マッサを見た。
みんなの視線が、マッサに集まった。
「うん。」
と、マッサは、大きくうなずいた。
「わかった。危ない仕事だけど、みんな、よろしくお願いします! みんなも、ボルドンも、絶対に、無茶をしすぎないでね!」
「わかった!」
『グオーン!』
子供たちとボルドンが、同時にうなずいた。
「それじゃあ、さっそく、準備をしますね。」
みんなが話し合っているあいだに、もう、一人で、結び目のついた長いロープをてきぱきと用意していたタータさんが言った。
「最初に、私が登って、ロープを垂らします。あとの人たちは、私が、合図をしてから、一人ずつ、気をつけて、登ってきてください!」




