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マッサたち、到着する

 船は、大魔王の島に、どんどん近づいていく。

 やがて、黒や灰色のごつごつした岩におおわれた島の景色と、そそりたつ火山、その前にそびえる、巨大な黒い城のすがたが見えてきた。

 あの城の中に、大魔王がいるのか?


 船の甲板に集まったマッサたちはみんな、声をころし、息をつめて、石のようにじいっと動かないようにした。

 アイナファール姫の「目くらましの魔法」は、見た目にしか効かない。

 誰かが大きな声や、物音を立ててしまったら、マッサたちが近づいていることが、大魔王にばれてしまうかもしれないのだ。


「あそこに、大きな洞窟がありますよ。」


 身を乗りだして島の様子をうかがっていたタータさんが、ゆっくり、マッサのすぐそばに来て、聞こえるか聞こえないかくらいのひそひそ声で言った。


「分かりますか? ほら、あそこの海岸……灰色と茶色のしまもようになっている、崖のところです。あの洞窟になら、この船を、すっぽりと隠すこともできるんじゃありませんか?」


「ほんとだ……よし、ちょっと、待ってて。」


 今度はマッサが、そーっと、お母さんのすぐそばまで行って、アリが喋っているくらいのひそひそ声で、洞窟のことを伝えた。

 お母さんは、うなずいて、ほとんど息の音と同じくらいのひそひそ声で言った。


「分かったわ。それでは、あの洞窟の中に、船を隠すことにしましょう。」


 マッサたちを乗せた飛ぶ船は、海面すれすれを音もなく進み、洞窟の入口に近づいていった。


 海岸が迫ってくるにつれて、島の様子が、もっとはっきりと見えてきた。

 あちこちに、柵や、塀があって、武器を持った猿の兵隊たちが見張りに立っている。

 もしも、アイナファール姫の「目くらましの魔法」がかかっていなかったら、マッサたちが乗った船は、とっくのむかしに発見されて、激しい攻撃を受けていただろう。

 でも、今のところ、どの見張りも、マッサたちの船が島に近づいていることに気がついた様子はなかった。

 誰にも気づかれないまま、船は、白い波しぶきのあがる入口をくぐり抜けて、大きな洞窟の中にすべり込んでいった。


「まさか、海岸に、こんな大きな洞窟があるとは……」


 徐々に暗くなるまわりを見回しながら、フレイオが呟いた。

 洞窟の天井は高く、中は広くて、がらんどうだった。

 アイナファール姫は、岩壁に船をぶつけないよう、慎重に、慎重に船を進めていき、洞窟の奥の、地面があるところまで来ると、音をたてないように、そーっと着陸した。

 それから、ようやく魔法を解いて、ふうーっ、と大きなため息をついた。


「お母さん、大丈夫? 疲れた?」


「ええ、少しね。でも、本当に大変なのは、ここからよ。疲れたなんて、言ってはいられないわ。」


 お母さんの言葉を聞いて、マッサもうなずいた。

《王子と七人の仲間》は、とうとう、大魔王の島に到着した。

 これから、大魔王との対決が待ち構えている。

 お母さんの言うとおり、本当に大変なのは、ここからなんだ。


「やれやれ! 空がずっと曇ってて、助かったぜ。」


 見張りに気づかれないように、ずっと黙り込んでいたディールも、ふうーっとため息をついて、ひそひそと言った。


「これが、もしも、雲ひとつない天気だったら、やばかったぜ。いくら、目くらましの魔法で船を見えなくしてたって、海面に落ちる、船の影まで消すってわけには、いかねえんだからな。

 海に、船の影だけがくっきり映ってたら、見張りの猿どもに怪しまれて、見つかっちまうところだったぜ。」


 マッサは、それを聞いて、あっと思った。

 影のことなんて、マッサはまったく気にしていなかったけど、ディールは、そういうところまで気にかけていたんだ。


「まったくだ。」


 ガーベラ隊長も、ひそひそ声で言った。


「おかげで、首尾よくここまでたどり着くことができたな。だが、安心している場合ではなないぞ。姫さまのおっしゃる通り、大変なのはここからだ。まずは、この洞窟から、どうやって出る?」


 みんなは、洞窟の入口のほうを見た。

 今、この船が泊まっている場所には、砂がたまった地面があるけど、洞窟の入口のほうは低くなっていて、完全に水につかっている。

 けっこう深い上に、激しい波が打ち寄せていて、歩いて出るのはもちろん、泳いで出るということも、かなり危険だ。

 下手をしたら、強い波に巻き込まれて、ごつごつした岩に、思いきり叩きつけられてしまうかもしれない。


「岩壁にはりついて、こう、落ちないように、横につたって行くというのは、どうでしょう。」


 と、タータさんが言って、


「いや、そりゃ、お前にしかできねえ技だろうがっ!」


 と、ディールが言った。

 たしかに、岩壁は、波に削られて、表面がつるつるしている上に、波しぶきで濡れている。

 途中で、つるっと手か足が滑ったら、そのまま海にドボンだ。


「私は、絶対に無理です。」


 フレイオが、きっぱりと言った。


「いつ、水の中に滑り落ちてしまうかも分からないなんて、とんでもない。そんなことになったら、死んでしまいます。」


「ああ、そうか。お前は、火を食って生きてるから、水には弱えんだったよな。やっぱ、岩をつたって出るってのは、危ねえぜ。こんなところで溺れたら、何のために苦労してここまで来たんだか、意味が分からねえからな。」


 ディールが、うんうんとうなずいている。

 ふと、マッサは、ずうっと前に、ディールが、なかなか川を渡れないフレイオを馬鹿にしてガーベラ隊長に怒られていたことを思いだした。

 ディールが、こんなふうに、フレイオに思いやりのあることを言うようになるなんて、あの頃は、全然、想像もできなかった。

 でも、入口から出るのが難しいとなると、他に、どんな方法があるだろう?


「あれは、何でしょう?」


 あたりを熱心に見回していたタータさんが、急に、上を指さして声をあげたので、みんなは一斉にそっちを見た。


「ほら、あそこ……天井の、右のほう……そう、あれです。あそこだけ、ほんの少し、明るいように見えませんか?」


「本当だ。」


 目を細めて見上げていたガーベラ隊長が、顔を輝かせた。


「もしかすると、あそこに、岩の隙間があるのではないか? そこを通り抜ければ、地上に出られるかもしれないぞ!」


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