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マッサたち、見る

 アイナファール姫は、魔法の呪文をつぶやきながら、両手をすうっと空にさし上げた。

 すると、その手の先から、無数のきらきらした光の粒が、小さなガラスのかけらがぶつかり合うみたいな音を立てながら噴き出した。

 光のシャワーの勢いは、どんどん強くなって、アイナファール姫が立っている船のへさきから、傘みたいに広がり、やがて、飛ぶ船全体をすっぽりとおおって、透明になった。


「これは……目くらましの魔法!?」


 光の様子を観察していたフレイオが、驚いたように言った。


「めくらましって、どういうこと?」


 マッサがたずねると、フレイオは、


「相手の目を惑わして、だます、ということです。」


 と説明してくれた。


「おそらく、今、外側から見ると、この船の姿は、完全に消えています。化け物鳥たちが、すぐそばを通っても、ぶつからない限りは、気づかれることはないでしょう。

 いや、それにしても、これほど大規模な目くらましの術というのは、見たことがない。船全体を包み込んでしまうとは……」


『マッサ、ぼくたち、みえなくなった? こわいやつ、きがつかない?』


「うん、そうなんだって。」


 マッサは、ブルーにそう言ったけど、船の上にいるマッサたちは、目くらましの魔法の内側にいるから、お互いの姿が、普通に見えているし、外の景色も、普通に見えている。

 だから、目くらましの魔法が、本当に、ちゃんと効いているのか? 本当に、化け物鳥たちには、この船が見えていないのか? ということは、実際に近づかなければ、確かめることができない。


「き、きたっ! きた、きた、きた!」


 子供たちが叫んで、ぎゅうっと、一か所に固まった。

 暗い夜空よりも、さらに暗い、化け物鳥の真っ黒な姿が、こっちに向かってくるのが見える。

 ギャーッ、ギャーッという、あの耳障りな鳴き声も聞こえ始めた。


「えぇーん、えぇーん! こわいよーう!」


「みんな、静かに!」


 ガーベラ隊長が言った。


「目くらましの魔法でごまかせるのは、見た目だけだ! 音を消すことはできない。大きな声や、物音を立てると、化け物鳥に聞きつけられて、気づかれてしまうぞ!」


 それを聞いて、みんなは、はっとして自分の口を手で押さえた。

 ディールやフレイオたちも、よろけて転んでドターンと物音をたてたりしないように、甲板に膝をついて、姿勢を低くした。

 お母さんはどうするんだろう、とマッサは心配になったけど、アイナファール姫は、両手を高くあげた姿勢のまま、石のように動かない。

 目くらましの魔法と、船を飛ばす魔法を同時に使っているから、それだけ、集中しているんだ。


 飛ぶ船は、少しずつ高度を下げていき、今は、海面すれすれを飛んでいる。

 空中で、化け物鳥の群れと衝突しないようにだ。


 群れは、もう、すぐ近くまで迫ってきている。

 ギャーッ、ギャーッという鳴き声が、まるで、化け物鳥が自分の目の前にいるんじゃないかと思うくらいに、はっきりと聞こえてくる。


『ブルルルルッ! こわい!』


「大丈夫だよ、ブルー……シーッ……静かに……」


 ぶるぶる震えているブルーを、腕の中にしっかりと抱きしめながら、マッサもしゃがんで姿勢を低くした。

 どうか、どうか、化け物鳥たちが、こっちのことに、気がつきませんように……!


 ギャーッ、ギャーッ、ギャーッ!


 ばさばさばさっ! と羽音が聞こえて、化け物鳥の群れが、船の真上にさしかかった。

 黒い羽が巻き起こす風の、くさいにおいさえも分かるほどの近さだ。

 もしも、お母さんが船を海面すれすれまでおろしていなかったら、間違いなく、空中で正面衝突していただろう。

 と、そのとき、


「ハックシュンッ!」


 いきなり、子供たちのひとりが、大きなくしゃみをしてしまった!

 化け物鳥の翼が起こした、くさい風を吸ってしまったせいだ。


 その子は、真っ青になって口を押さえた。

 まわりのみんなは、あっ! という顔でそっちを見た後、いっせいに上を見た。

 今ので、化け物鳥たちに、気づかれてしまったか?


 ギャーッ、ギャーッ、ギャーッ!

 バサッバサッバサッバサッ……


 化け物鳥たちは、くしゃみの音には全然気がつかなかった様子で、そのままマッサたちとすれ違い、陸地のほうへと飛び去っていった。


 化け物鳥たちの姿が遠ざかり、ほとんど見えなくなってはじめて、全員が、ふううううーっ、と大きく息を吐き、ばったりと甲板に倒れ込んだ。

 今までは、余計な音を立てないために、指一本動かさないように全身を緊張させていたから、どっと気が抜けて、力も抜けたんだ。


 さっき、大きなくしゃみをした子は、何とか無事にすんだことにほっとするあまり、ああーん、ああーんと泣き出してしまった。

 それを、チッチとタックが、


「だいじょうぶ、だいじょうぶ!」


「こわかったよなあ! でも、もう、あんしんだ。」


 と、なぐさめている。


「お母さん!」


 マッサはブルーを抱いたまま、すぐに、お母さんのところに走っていった。


「お母さんの魔法のおかげで、うまくいったね! もう、魔法を解いても大丈夫だよ。」


『……あれ、なに?』


 マッサの腕の中で、ブルーが言った。


「えっ?」


 マッサは、ブルーが見ているほう――

 船の進んでいく先に目を向けた。

 そして、大きく目を見開いた。


「みんな、あれを見て!」


 マッサの声に、全員がそれぞれの場所で、船べりから頭を突き出し、前を見た。


「何だ、ありゃあ……!?」


 ディールがつぶやいた。

 はるか向こうで、雲の切れ間から月の光が射しこみ、海を照らしている。

 その海から、空まで、ものすごく太い灰色の柱のようなものがそびえ立っていた。


 ……いや、いや、そうじゃない。

 よく見ると、違う。

 灰色の、太い柱のように見えたものは、煙だ。

 ものすごい煙が、海から、空へと立ちのぼっている。


「まさか、敵の魔法か!?」


「いや。」


 緊張した声でうなったガーベラ隊長に、フレイオが言った。


「あれは……おそらく、噴煙です。火山の煙ですよ。」


「火、山? だと?」


「ええ、火の山と書いて、火山。山から、熱い煙が噴き上がっているんです。」


「じゃあ、あの煙の下には、山があるってことだよね。」


 マッサは、張りつめた声で言った。


「で、山があるってことは……陸地がある、ってことでしょ。ってことは、もしかして……!?」


「あそこが、きっと、大魔王の島ね。とうとう見つけたわ。」


 アイナファール姫が言った。


「みなさん、この船は、このまま前進させます。目くらましの魔法をかけたままで。

 そうすればきっと、大魔王に気づかれることなく、島に降りることができるでしょう!」


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