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マッサ、心配する

 翼の騎士たちに運ばれて、マッサたちは、大草原の上を、一直線に飛んでいった。

 耳元で、ものすごい風の音が、ビュウービュウーと鳴っている。

 髪の毛が、ばばばばば! と、風に吹き散らかされて、マッサの頭は、すごい髪型になってしまった。


 マッサは、最初のうちは、ぜったいに落ちちゃだめだ! と、緊張して、がちがちにロープを握りしめていたけど、だんだん、慣れてきて、少しは、下や、上や、まわりを見回すこともできるようになってきた。

 下を見ると、たくさんの丘や、小川や、池が、びゅーんと前から近づいてきて、一瞬で足元を通り過ぎていった。


 上を見ると、マッサたちがのっているブランコの、二本の長いロープが、ディールの体までつながっているのがよく見えた。

 片手に長い槍を持って、銀色のかぶとをかぶったディールは、ときどき、ヒューッ、ヒューッと空笛の音を出して、仲間と合図を出しあいながら、じょうずに、右や左に体を傾けて、バランスを取って飛んでいた。


 あのガーベラ隊長が、騎士たちの一番前を飛んでいる。

 他の騎士たちは、ガーベラ隊長に続きながら、ディールと、マッサたちを、かこむみたいに広がって、飛んでいる。

 もしも、また、あの化け物鳥みたいなやつが来たら、すぐに戦わないといけない。

 だから、みんなで広がって、まわりの様子を見張りながら、飛んでいるんだ。


 マッサも、最初は、ブランコの上できょろきょろして、どこかから化け物鳥が近づいてこないか、気をつけていたけど、しばらく時間がたつと、だんだん、あきてきた。

 時計をもってこなかったから、わからないけど、もう、一時間くらいとんでいるような気がする。

 ブランコの上では、なんにもすることがないし、ブルーは、まだ気絶したままで、おしゃべりもできない。

 すっごーく、ひまだ。


 そう思うと、急に、いろんなことが心配になってきた。

 あと、どれくらいで、とりでに着くんだろう?

 もしも、飛んでいるとちゅうで、夜になっちゃって、真っ暗になったら、どうするんだろう?

 それに、もしも、眠くなってきたら、どうやって寝たらいいんだろう?

 そうだ。

 もしも、とちゅうで、トイレに行きたくなったら、どうすればいいんだろう?


「あのーっ!」


 たずねる相手が、他にいないので、マッサは、上を向いて、ディールに向かって、大きな声でよびかけた。

 ディールは、最初のうちは、なんにも反応してくれなかった。

 聞こえていないのかな。

 それとも、聞こえているのに、わざと、無視してるのかな?


 マッサは、ちょっと迷ったけど、さっきガーベラ隊長が「空の上では、風の音がうるさくて、相手の声が聞こえない」と言っていたことを思い出して、きっと、聞こえていないだけだろうと思った。

 すうううううっと、息を吸い込んでから、


「あのーっ!!!」


 さっきよりも、もっと大きな声で、叫んでみた。

 すると、ディールが、急にこっちを見下ろした。


「うるせなあ! 聞こえてるっての!」


 ……なあんだ。聞こえているのに、無視していただけだった。


「あのーっ、ぼく、質問が、あるんですけどーっ!」


「まったく、うるせえなあ! なんだよ!」


「ここから、あと、どれくらいで、とりでに着くんですかーっ!」


「はあ? うるせえなあ! あと、ちょっとだ!」


「あと、ちょっとって、どれくらいですかーっ!?」


「ああ、もう、うるせえなあ! ちょっとは、ちょっとだ! だまって乗ってろ!」


「とちゅうで、トイレに、行きたくなったら、どうしたらいいんですかーっ!?」


「うるせえなあ! どうしたらも、こうしたらも、そのまま、するしかねえだろ!」


「ええーっ!?」


 たいへんなことになってきた。

 はやく、とりでに着かないと、ここで、おしっこをすることになってしまう!

 そのときだ。


「あっ!」


 ディールを見上げるのをやめて、いったん前のほうを見たマッサは、大草原の、ずーっと、ずーっと先のほうに、ぽつんと、何か、灰色のものがあるのを見つけた。

 どんどん近づいていくうちに、その灰色のものは、灰色の石を高く積み上げてつくられた、壁だということが分かった。

 壁にかこまれた、町だ。

 その町の中に、やっぱり灰色の石でできた、お城みたいな建物がそびえ立っているのが見えた。

 きっと、あれが、とりでなんだ。


「ディールさん! とりでって、あれのことですかーっ!」


「そうだ! だから、あとちょっとだって、言っただろうがっ!」


 ディールが、そう怒鳴ったので、マッサは、ほっとした。

 これで、トイレの心配はなさそうだ。

 でも、次の瞬間、ディールが言ったことを聞いて、マッサは、一気に、あおざめることになってしまった。


「ここから、とりでまで、遠く見えるが、速く飛んでいるから、あっというまに着くぞ! とびおりる準備をしとけ!」


「……えっ!?」


 マッサは、最初、聞き間違えたのかと思った。


「今、なんて、言ったんですかーっ!?」


「と・び・お・り・る、準備をしとけ、って言ったんだ!」


 ディールは怒鳴って、持っている槍の先で、とりでからそびえ立っている、高い石の塔をさししめした。


「俺たちは、あの塔の上に着陸する! おまえは、俺たちみたいに、ふわっと降りることはできねえから、俺が、塔の上、ぎりぎりまで近づいて飛ぶ。俺が、塔の上を通り過ぎる瞬間に、おまえは、そのブランコから、塔の屋上に、飛び降りるんだ!」


「えええええーっ!?」



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