マッサとおじいちゃん
マッサのおじいちゃんは、マッサと一緒にすんでいる、たったひとりの家族だ。
お父さんと、お母さんは、マッサが赤ちゃんのときに、家を出ていってしまったらしい。
だから、マッサは、お父さんにも、お母さんにも、一度も会ったことがない。
おばあちゃんのことは、ちょっとだけ覚えているような気がするけど、マッサがまだすごく小さかったときに、病気でなくなってしまった。
だから、マッサは今、おじいちゃんと、町のはずれの古い一軒家で、ふたりぐらしをしている。
この、おじいちゃんが、マッサのなやみのたねだった。
なぜかというと、おじいちゃんは、めちゃくちゃきびしい人だったからだ。
きびしいといっても、勉強や、スポーツにきびしいわけじゃ、ない。
そういうのは、まあ、ふつうにできていれば、ぜんぜん、もんくをいわない。
おじいちゃんが、めちゃくちゃきびしいのは、……マッサが、大好きで、大好きでたまらない「おはなし」に対してだった。
たとえば、テレビで、戦いや魔法や冒険のおはなしをやっていて、マッサが夢中でみていると、
「こんなもの、くだらん! こんなことは、本当にはおこらない! うそばっかりだ! こんなものを見ていると、頭がわるくなる!」
といって、テレビを消してしまう。
マッサが、戦いや魔法や冒険のおはなしの本を、図書館で借りてきて、夢中で読んでいると、
「こんなもの、くだらん! こんなことは、本当にはおこらない! うそばっかりだ! こんなものを読んでいると、頭がわるくなる!」
といって、本を全部取り上げて、かってに図書館に返しにいってしまう。
怒って泣いたり、文句を言ったりすると、もう、めっちゃくちゃにおこられるから、マッサは、しかたなくがまんしている。
もちろん、今、ノートに書いている「おはなし」のことは、おじいちゃんには絶対に内緒だ。
ばれたら、もう、めっちゃくちゃ大変なことになってしまうことが、はっきりわかっているからだ。
だから、マッサは、おはなしを書いていることがばれないように、いろいろくふうしている。
たとえば、マッサの部屋は、二階にあって、おじいちゃんの部屋は一階にある。
だから、おじいちゃんが階段をのぼってくるときは、ぎし、ぎし、ぎしと、階段の板を踏む音が聞こえてくる。
ぎし、ぎし、ぎしという音が聞こえてきたら、マッサは、それまで書いていた「おはなしのノート」を、さっ! と閉じて、さっ! と机の引き出しに放り込んで、さっ! と引き出しをしめて、宿題をやっているふりをする。
ガチャッとドアがあいて、おじいちゃんが部屋に入ってくる。
「おい、ちゃんと、宿題やってるのか。」
「うん、やってるよ。」
マッサはそう言って、机の上のプリントや、教科書を見せる。
「ふんっ。よし。」
おじいちゃんは、そう言って、ドアを閉める。
でも、マッサは、まだゆだんしない。
たまに、おじいちゃんが、ドアの前で、マッサが本当にちゃんと宿題をしているか、様子をうかがっているときがあるからだ。
ぎし、ぎし、ぎしと、階段をふむ音が下へおりていって、おじいちゃんが本当に一階におりたとわかると、マッサはやっと安心して、引き出しから「おはなしのノート」を出して、騎士ブラックの大冒険の続きを書き始める。
ほらね、これだけ聞けば、マッサが、毎日どれだけ苦労して、おはなしを書いているか、よく分かるだろう。
こんなに毎日たいへんでも、マッサがおはなしを書くのをやめないのは、おはなしを書くことが、大好きで、大好きで、本当に何よりも大好きだったからだ。
でも、これほど気をつけていたのに、ある日、とうとう、大事件が起こってしまったんだ――