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マッサたちと、かわったにおい

 マッサたちは、それからも、毎日、毎日、旅をつづけた。

 天気はぜんぜん良くならず、ずっと曇っていて、ときどき、ぱらぱらっと雨が降ったり、なまあたたかい風がびゅうびゅう吹いたりした。


 とげだらけの草がからまりあって、剣でばっさばっさと道を切りひらかないと通れないところもあったし、ごつごつした岩だらけで、手と足を全部つかって、はうようにして登らないと通れないところもあった。

 でも、難しい道でも、みんなで励まし合いながら、なんとか乗り越えて、マッサたちは、どんどん進んでいった。


 みんな、空や、まわりの様子に、よくよく目を配っていたけど、やっぱり、大魔王の手下らしきやつらは、ちっとも出てこなかった。

 それは、まあ、いいといえば、いいのだが、『七人の仲間』の、最後の一人になってくれそうな人も、ぜんぜん出て来ない。


 一日、また一日と、旅が終わって、みんなでテントをはって寝るたびに、マッサは、


(ほんとに、大丈夫なのかな……? 最後の仲間は、いつ、ぼくたちの前にあらわれるんだろう?)


 と思っていた。

 そして、《死の谷》を越えてから、七日目の朝――


『ん?』


 マッサの足元を、とことこ歩いていたブルーが、急にぴたっと止まって、鼻をフンフン動かした。


『なにか、かわったにおい、する!』


「えっ?」


 マッサたちは、あわてて立ち止まり、空中のにおいをかいでみた。

 でも、別に、変なにおいはしない。


「ブルー、それ、ほんと?」


『ほんと! かぜ、かわったにおい、する!』


『グオーン、グオーン!』


 ブルーの言っていることに、ボルドンも賛成して、うなずいている。


「風だと?」


 ガーベラ隊長は、腕を広げて、じっとその場に立ち、全身で、風がふいてくる方向を感じ取ろうとした。


「……うん、確かに、北の方から、弱い風が吹いてきているな。」


「北? ……あっ!」


 マッサは、それを聞いて、思いついた。


「もしかして、それって、海のにおいなんじゃない!?」


『うみ?』


『ガオーン?』


「……ああ、そういわれてみれば、わたしも、何となく、かわったにおいを感じます! これが、海のにおいなんでしょうか?」


 タータさんが、嬉しそうに言った。


「えっ、ぼくには、まだよく分からないけど……タータさん、それって、どんな感じのにおい? もしかして、潮風みたいなにおい?」


「うーん? どうでしょう。わたしは、潮風、というものを、かいだことがありませんから、このにおいが、そうなのかどうか、分かりません。潮風って、どんなにおいですか?」


「えっ? えーとね……うーん……」


 マッサは、考えこんだ。

 マッサは、おじいちゃんに、海に遊びに連れていってもらったことがあるから、潮風のにおいは知っているけど、どんなにおいか? って、あらためてきかれると、言葉で説明するのは、すごく難しい。


「とにかく、このまま、進んでみよう。」


 と、ガーベラ隊長が言った。


「もしも、ブルーたちが感じているのが、本当に潮風の、海のにおいなのだとしたら、我々は、もう、《惑いの海》のすぐ近くまで来ているのかもしれない。」


「おおっ! いよいよ、ってわけですね!」


 ディールが、自分自身に気合いを入れるように、自分の手のひらをバシンと拳で叩いて叫ぶ。

 タータさんも、はやく本物の海が見たいようで、わくわくした顔をしている。

 でも、反対に、マッサは、ちょっと不安な気持ちになってきた。


(まだ、最後の仲間と会えてないのに、《惑いの海》に出ちゃって、大丈夫なのかな!? 《惑いの海》を越えたら、もう、大魔王の島なのに……)


「ところで、」


 と、マッサが不安になっているところに、フレイオが言った。


「《惑いの海》に着いたら、私たちは、どうする予定なのですか?」


「はあ?」


 フレイオの言葉に、ちょっと呆れたように、ディールが言った。


「おいおい、フレイオ、何を言ってんだよ。《惑いの海》に着いたら、どうするって……当然、海を越えて、大魔王の島まで行って、大魔王をぶっ倒すに決まってるじゃねえか。」


「どうやって?」


 と、フレイオは、言葉を続けた。


「どうやって、私たちは、大魔王の島まで行く予定なのですか?」


「えっ? そりゃあ……なあ。あれだろ。」


 そのことを、あまり深く考えていなかったようで、ディールは、ガーベラ隊長を見たり、マッサを見たりした。


「ほら、あれだ。……船だよ! 海なんだから、船に乗っていくに決まってるじゃねえか。」


「どんな船です?」


 フレイオは、さらに言葉をつづけた。


「大魔王の島まで、どれくらいの距離があるのか、分かりません。海岸のそばで釣りをする程度の、小さなボートでは、大波が来たら、一発で、ひっくり返ってしまいますよ。

 いや、そもそも、小さな船では、ボルドンが乗ることができないでしょう。彼が乗り込んだ瞬間に、重さで沈んでしまいますから。」


「ううーむ。」


 黙り込んでしまったディールのかわりに、ガーベラ隊長が、むずかしい顔で言った。


「確かに、どうやって《惑いの海》を越えるかという問題については、これまで、深く考えてこなかったな。《惑いの海》に出さえすれば、海岸の村か町で、それなりの船を借りることができると、なんとなく思ってはいたが。」


「海岸の町か村といえば、海で魚をとる漁師たちや、船で荷物を運ぶ商人たちがいるところでしょう。」


 と、フレイオは言った。


「漁師たちや、船で物を運ぶ商人たちにとって、船は、自分たちの家と同じくらい大切なものです。

 なにしろ、船がなければ、仕事ができず、自分たちの食べ物や飲み物を買うこともできなくなってしまうのですから。

 そんな、大事な船を、はたして、私たちの旅のために、貸してくれるでしょうか? いったい何日かかるのかも、はっきりしないし、もしかしたら、大魔王との戦いで、船が壊されてしまうかもしれないのに。」


「ううーん。」


 マッサは、さっきのガーベラ隊長とそっくりな声を出して、うなった。

 言われてみれば、フレイオの言うとおりだ。

 お金を払って、船を借りようと思っても、マッサたちは、ほとんどお金を持っていないし……

 と、悩んでいるところへ、


「まっ、とりあえず、行けば、何とかなるんじゃねえの?」


 と、ディールが、すごく適当なことを言ったので、真剣に考えこんでいたみんなは、思わず、ずっこけそうになった。


「おい、ディール! 適当なことを言わずに、しっかり考えろ。これは、重大な問題だぞ。」


「いや、適当じゃ、ねえですってば! 俺も、一応、ちゃんと考えてますって。」


 ガーベラ隊長に怒られて、ディールは、あわてて説明した。


「だって、《惑いの海》の海岸に住んでるってことは、そいつら、きっと、大魔王の手下に何度も襲われて、迷惑してると思うんですよね。そこへ、俺たちがたずねていって、『今から大魔王を倒しに行く!』って言えば、そいつら、『そういうことなら!』って協力して、船を貸してくれるんじゃねえかと思いますよ。」


「……なるほど。」


 ディールの話を聞いて、ガーベラ隊長は、見直した、というように、大きくうなずいた。


「確かに、それは、あるかもしれん。ディール、おまえも、たまには、まじめにしっかりと考えることがあるんだな。見直したぞ。」


「はっはっは、任せてくだせえ。……ん? いや、隊長! 今の言い方だと、俺が、ふだんは、全然、まじめにしっかり考えてねえみたいじゃねえですか!」


「違うのか?」


「……うーん……いや、まあ……うーん。」


 ガーベラ隊長に言い返されて、ディールは、もごもごと黙りこんでしまった。


「いや、いや、ディールさんだって、ふだんから、まじめに、しっかり、考えてますよねえ。」


 と、横から、タータさんが、なぐさめるように言った。


「ただ、しゃべり方とか、態度が、全然、まじめじゃないから、ちっとも、まじめに考えてるように、見えないだけですよね。」


「ああ、そうだ……って、おいっ!? おまえは、俺をなぐさめてるのか、けんかを売ってるのか、どっちなんだっ!?」


 ディールが叫んで、みんなが、わっはっはと笑って、ちょっと暗くなりかけていた雰囲気が、すかっと明るくなった。

 天気は、あいかわらずのどんよりとした曇り空だったけど、気分が明るくなると、それも、あんまり気にならなくなってくる。


「とにかく、進もう!」


 マッサは言った。


「ディールさんが考えた方法で、船が貸してもらえるかどうか、とにかく、行ってみなくちゃわからない。だめだったら、だめだったで、また、別の作戦を考えよう。さあ、とりあえず、しゅっぱーつ!」


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