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マッサと、影のひみつ

「隊長! ブルー! 聞いて、聞いて!」


「王子、どうしました!?」


『マッサ、なに!?』


 あわてて舞い降りてきたマッサに、地面で待っていたガーベラ隊長とブルーが、なにごとかと声をかける。

 マッサは、建物の三階くらいの高さのところで、ぴたっと止まると、《死の谷》の底にたまった、白い霧を指さした。


「そこに、影が、見えるんだ! そこから、向こうまで、こう――谷を横切って、白い霧の上に、まっすぐ、黒い影がある! まるで、そこに橋があるみたいに!」


「ええっ?」


 ガーベラ隊長が、目を丸くして、自分の足元を指さす。


「そこって……どこです? ここですか?」


「いや、もうちょっと、右……そこから、もうちょっと、右に行って!」


「分かりました……どうです、このあたりですか?」


「あと、もうちょっと! あと、十歩、いや、十五歩くらい! オーライ、オーライ……」


 マッサは、高いところから見て、指示を出しながら、ガーベラ隊長とブルーが、ちょうどぴったり黒い影のところまで来る瞬間を待ちうけた。


「はい、ストップ! そこ、そこ! そこから、崖の下の、霧の上を見てみて!」


「本当だ!」


 がけのふちに腹ばいになって、慎重に下をのぞきこんだ隊長が叫んだ。


「霧の上に、黒い影が落ちています。ものがないのに、影だけが落ちているとは、おかしなことだ。」


「でしょ?」


 地面の上に戻ってきたマッサは、わくわくしながら言った。


「もしかして……実は、ここに、橋があるのかも! 魔法で、見えなくして、隠してあるのかもしれない!」


『ここに、はし、ある!?』


 ブルーも、嬉しそうに言った。


『ぼく、いってみる!』


「待て、待て!」


 いつも、用心を忘れないガーベラ隊長が、するどく声を出して、ブルーを止めた。


「まだ、本当に、ここに橋があるのかどうかは、分からんぞ。調子にのって、いきなり渡ろうとして、《死の谷》に真っ逆さま……などということになったら、大変だ。まずは、安全な方法で、試してみなくては。」


 ガーベラ隊長は、地面に落ちていた大きめの石を拾い上げると、それを、橋があるかもしれない場所へ、ポーンと投げた。


 ヒュウゥ―――――ン……


 石は、何にもぶつからず、あっという間に《死の谷》の底の霧の中に落ちて、見えなくなってしまった。

 マッサは、ぞーっとした。

 もしも、さっき、ブルーが渡ろうとしていたら、落っこちたのは、石じゃなくて、ブルーだったはずだ!


「おい、やはり、ここに、橋はないぞ! 危ないところだった!」


『ない!? はし、ない!? ……ブルルルルルッ。』


 ブルーは、もしも自分がそのまま渡ろうとしていたら、と想像して、怖すぎて、ぱたんと気絶してしまった。


「ブルー、大丈夫!? ごめんね、ぼくが、ここに橋があるかもしれない、なんて言ったから……」


 マッサは、気絶したブルーを抱きあげて、ぎゅーっと抱きしめると、隊長に頭をさげた。


「ガーベラ隊長、ほんとにありがとう。隊長が、止めてくれなかったら、ブルーが、《死の谷》に落っこちて、死んじゃうところだった……」


「ええ、確かに、今のは危なかった。気を引きしめて、慎重にいきましょう。」


 ガーベラ隊長は、そう言って、おでこの冷や汗をぬぐい、あらためて《死の谷》を見おろした。


「しかし、確かに、ここの真下には、くっきりと影が落ちている。……橋が、ないのに、橋らしきものの、影だけがある、というのは、いったい、どういうことなのか……」


 そうつぶやく、ガーベラ隊長自身の足元からも、マッサの足元からも、それぞれに、長い影がのびている。

 朝早くから、数えきれないくらい色んな出来事があった、長すぎた一日が、ようやく終わりに近づき、あたりの景色は、少しずつ、夕暮れのオレンジ色にそまりはじめていた。

 そのときだ。


「……んっ?」


 一瞬、ぼうっとしてガーベラ隊長の影を眺めていたマッサは、ふと、何か重大なことを思いつきそうになって、声をあげた。


「どうしました?」


 振り向いてきた隊長の横顔が、夕日に照らされている。

 隊長の足元からは、黒い、長い影が伸びている。

 夕方……影……?


「ああああああっ!!!」


 マッサは、とうとうひらめいて、パーン! と勢いよく両手を打ち合わせた。


「そういうことか! 分かったぞ!」


「な、何が、分かったのです?」


 マッサが急に大声を出したので、びっくりしながら、ガーベラ隊長が言った。


「橋は、あるんだ!」


 マッサは、すごいことに気づいたことが嬉しくて、興奮しながら言った。


「確かに、橋は、あるんだ。でも、にじゃない!

 今は、もう、夕方でしょ? 太陽の光は、こう、西のほうから、ななめに射してる。だから、この影は、橋の真下にじゃなくて、橋から、ずれたところにできてるんだ!」


「なるほど!」


 ガーベラ隊長も、目を輝かせて、パーンと手を叩いた。


「そういうことか! それで、なにもかも理屈が通ります。ええと、今、影がある場所が、ここだから……本当に、橋があるはずの場所は……」


 マッサとガーベラ隊長は、夕日の方角に向かって、崖にそってしばらく歩き、このあたりかな? という場所で、立ち止まった。


「では。」


 ガーベラ隊長が、もう一度、石を拾い上げ、すうっと深呼吸してから、《死の谷》に向かって、それをポーンと放り投げた。


 カッツーン! カラン カラン カラン……


 隊長が投げた石は、何もないように見える空中で、にぶつかり、何度か小さくはねてから、空中に、ぴたっと止まった。

 マッサと隊長は、顔を見あわせた。

 ガーベラ隊長は、今度は、両手いっぱいに、砂をかき集めて、それを《死の谷》に向かって、ぱあっとまいた。


 パラッ パラッ パラパラパラッ……


 砂も、石と同じ高さで止まり、空中に浮かんだようになった。

 間違いなく、そこに、ってことだ。

 マッサと隊長は、また、顔を見あわせた。


「ぼくが、行くよ。」


 マッサは、気絶したブルーを、ガーベラ隊長にあずけて、ゆっくりと前に進んでいった。


「タカのように 速く

 ヒバリのように 高く

 竜のように 強く……」


 念のため、いつでも飛べるように、魔法を使う用意をしながら、崖のふちに立ち、何もないように見える空中にむかって、そうっと、片足を踏み出す――


 トン!


 空中の、何もないように見える場所に、マッサの片足は、しっかりと乗った。

 後ろで、ガーベラ隊長が、「おおっ!」と言っている。

 ぐっ、ぐっ、と何度か踏んでみて、大丈夫だと分かったマッサは、思い切って、もう片方の足も、空中に踏み出した。


 トン!


 マッサは、魔法も使わずに、両足で、何もない空中に見える場所に立った。

 いや、そこは、何もない空中なんかじゃない。


「あった、あった、あった!」


 嬉しさのあまり、トントントン! と両足でジャンプしながら、マッサは叫んだ。


「橋だ! ここが、橋なんだ! 魔法で、見えなくしてあるんだ。ガーベラ隊長、ぼくたち、橋を見つけたよ!」


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