マッサ、飛ぶ
「なんだ、大きな声を出して。なにか、都合の悪いことでもあるのか?」
「えっ、いや、ええと……」
ガーベラ隊長にきかれて、マッサは、こまった。
ここで、文句なんか言ったら、げんこつで、ごん! と叩かれるかもしれない。
それどころか、「いやなら、勝手にしろ。」とか言われて、ここに、置いていかれちゃうかもしれない。
「いや、なんでもないです……」
「よし。では、決まりだな。――みんな、準備はいいか!」
ガーベラ隊長が大声で言うと、あの、
ヒュウウウウウゥゥ――
ヒュウウウウウゥゥ――
という空笛の音で、騎士たちが、元気よく返事をした。
騎士たちは、みんな、もう、かぶとをかぶって、横一列に並び、みんな、同じ方向を向いて、少し体をかがめて、立っていた。
まるで、小学校の運動会で、先生に、「位置について。ようい……」と言われた子供たちみたいだ。
「やれやれ。なんで、俺が、こんなことをしなきゃ、ならねえんだ。」
と、ぶつぶつ言いながら、ディールが、めんどうくさそうにマッサたちを手招きした。
「おい、そこの子供と、もじゃもじゃ! こっちに来い!」
「あの、ぼく、マッサです。」
『もじゃもじゃじゃない! ブルー!』
マッサは、少しえんりょしながら、ブルーは、かんかんに怒りながら、ディールのほうに歩いていった。
ディールの足元には、おかしなものが置かれていた。
森からひろってきたらしい、マッサの太ももくらいの太さの、木の枝が、一本。
枝の長さは、ちょうど、マッサの腕の、肩から先くらいだ。
その、両端に、それぞれ、ロープがくくりつけられている。
へびみたいにのびた、その二本のロープの先は、ディールの体にくくりつけられていた。
その、なぞの品物を指さしながら、めんどうくさそうに、
「ほらっ。」
と、ディールは言った。
「えっ?」
と、マッサは、目をぱちくりした。
「なんですか?」
「なんですか、じゃ、ねえよ。さっさと乗れ。」
「……えっ!?」
まさか、この、ただの木の枝が、マッサたちが乗る場所なんだろうか。
「えっ? じゃ、ねえよ。おまえ、ブランコって知ってるか?」
「あっ、はい。ブランコは、知ってます。」
「あれみたいに、お前が、ここに座って、おれが、お前らを、ぶら下げて飛んでいくんだよ。」
「ええーっ!?」
マッサは、ディールを怒らせたら怖そうだということも忘れて、思わず、大声を出した。
「うるせえなあ! このおれが、わざわざ、ぶら下げていってやるんだぞ。文句いうな!」
「いや、でも、今から、空を飛ぶんですよね!? こんな、ただのブランコみたいなやつじゃ、あぶないんじゃないですか? もしも、強い風が吹いて、揺れて、落っこちたりしたら……」
「そりゃ、地面に叩きつけられて、ぺっしゃんこになっちまうだろうな。」
「えーっ! いやですよ、そんなの! もっと、安全な乗り物は、ないんですか?」
「そんなもんは、ねえ。文句を言うな! 落ちるのが嫌なら、自分で飛ぶか、自分の手で、しっかりロープをつかんどけ!」
「えーっ!」
「……来たぞ! 次の風に乗る!」
ガーベラ隊長が叫んで、かぶとをかぶった。
「落ちたら、しらんぞ。しっかり、つかまってろ!」
ディールも叫んで、かぶとをかぶった。
「えーっ!」
マッサは、大あわてで、とにかく、木の枝のブランコの上にしっかりすわり、だらんとしているロープを、右手と、左手に、しっかり握りしめた。
「あっ、そうだ、ブルー! この中に入って!」
マッサは、思いついて、自分のお腹のところから、ブルーを、シャツの中に入れてあげた。
「いたたたた! 爪が! ブルー、きみの爪が、ぼくのおなかに、ささってる! ブルー、向こうむいて! 爪は、シャツのほうにむけといて!」
ヒュウウウウウゥゥ!
騎士たちの空笛がいっせいに鳴り響き、マッサは、はっとして顔をあげた。
大草原をこえて、ざああああああっと草をなびかせながら、大きな風のかたまりが、こっちに向かってくるのが、マッサにも見えた。
ヒュウッ!
空笛の音がするどく響いて、騎士たちが、閉じていた翼を、いっせいに開いた。
バサアッ!! と、ものすごい音がした。
風の強い日に、たこが空に舞い上がるみたいに、翼の騎士たちは、翼いっぱいに風をうけ、空へとまいあがった。
二本のロープが、ちぎれるんじゃないかというくらい、びいーん! とのびて、マッサとブルーをのせたブランコも、空中にまいあがっていった。
「わああああああ!」
マッサは、こわすぎて気絶しないようにするために、大声でさけんだ。
ジェットコースターの、百倍くらい、こわい。
なにしろ、ロープが二本と、木の枝だけでできていて、安全ベルトも、なんにも、ついていないんだ。
もし、気絶して、手を放してしまったら、そのまま、ヒューッとまっさかさまに落っこちて、地面に激突して、ぺっちゃんこになって死んでしまう。
『ん? ん?』
と、外がどうなっているのか見ようとして、ブルーが、マッサのシャツの首のところから、もぞもぞと顔を出した。
ブルーは、ふしぎそうに右を見て、左を見て、それから、下を見た。
そして、自分たちが、今、空の上を飛んでいるんだということが分かると、あんまり高くて、こわすぎて、
『ブルルルルルッ。』
と言って、気絶してしまった。
「ブルー! おーい! だいじょうぶ?」
マッサは、あわてて呼びかけながら、
(ブルーを、おなかに入れておいて、よかったなあ。)
と、ちょっとだけ、ほっとした。