マッサと、隊長のすがお
『だいまおうって、なに? おいしいの!?』
「ばかやろう!」
大きな声で言ったブルーに、ディールが、もっと大きな声でどなった。
「大魔王が、食えるようなもんだったら、俺たちだって、こんなに苦労して、戦ってねえっつうの。まったく、このもじゃもじゃは、なんにもわかってねえな。」
『もじゃもじゃじゃない! ブルー!』
「ふん! もじゃもじゃは、もじゃもじゃだろうが。」
『もじゃもじゃじゃない! もじゃもじゃじゃない!』
ディールにからかわれて、ブルーは、すっかり、怒ってしまった。
「ディール! この、ばかものっ!」
隊長が、一番大きな声で、ディールをしかった。
「こんな小さな生き物を、からかっている場合か! 次の風が来たら、すぐに、とりでに向かって出発する。休憩だ。少しだけ、水分補給をしておけ。」
「へーい。」
ディールは、あんまり反省していなさそうな声で、そう言うと、持ったままだった槍の、下のほうを、ザクッと、地面に突き刺した。
それから、ずっとかぶったままだった、銀色のタカの顔の形をしたかぶとを、ずぼっと脱いだ。
出てきた顔は、ひげのおじさんで、何だか、ちょっとこわそうな感じだった。
しゃべり方のイメージ、そのままだ。
騎士たちは、次々にかぶとを取って、腰につけていた、小さな水筒から、飲み物を飲んだ。
マッサたちを助けてくれた隊長が、いちばん最後に、かぶとをとった。
「ええっ!?」
マッサは、びっくりしすぎて、思わず、声を出してしまった。
「隊長って、女の人だったんですか?」
「そうだ。」
きりっとした、低い声だから、全然わからなかったけど、かぶとを取った隊長は、すごく美人な女の人だった。
肩の上で切った髪の毛は、まるで火みたいに赤くて、空みたいな目の色と、ふしぎに似合っている。
「そういえば、自己紹介がまだだったな。私は、翼の騎士団の第一部隊、《銀のタカ》の隊長、ガーベラだ。よろしく。」
ガーベラ隊長が手を差し出してきたので、マッサは、あわてて、握手した。
ガーベラ隊長の手は、重い槍を持って振り回すせいか、まめだらけで、握る力が、ものすごく強かった。
「ガーベラ隊長は、女の人なのに、めちゃくちゃ、強いんですね!」
「空の上では、男も、女も、関係ない。どれだけうまく飛べて、どれだけうまく敵の攻撃をかわし、どれだけうまく敵を倒せるか、関係があるのは、それだけだ。」
「俺は、地面の上なら、隊長にも負けねえ自信があるんだがなあ。空の上じゃ、誰も、隊長にはかなわねえな。」
ディールが、横から話に入ってきて、そう言った。
「何を言うか、ディール。地面の上の戦いでも、私は、お前になど、負けんぞ。試してみるか?」
「いや、いや、やめときます。まったく、隊長は、すーぐ本気になるんだから。」
ディールは、すこしこわがっているみたいに、そう言ってごまかした。
「隊長!」
空を見上げて、雲の動きを見張っていた騎士の一人が、大きな声で報告した。
「向こうで、雲が動いています。そろそろ、次の風が来そうです!」
「そうか、よし。みんな、出発の準備だ。ディール、おまえは、この子たちが乗る場所を作れ。」
「えぇーっ?」
ディールは、口と眉毛をひんまげて、ものすごく嫌そうな顔をした。
「なんで、俺が、そんなことを。だいたい、こんなやつら、ここに置いていったっていいじゃ……」
「ディール!」
とどなって、ガーベラ隊長は、げんこつで、ごん! とディールの頭を叩いた。
ものすごく痛そうな音がした。
「いってえ! ……はいはい、分かりましたよ。まったく、なにも、叩くこたあねえのに。」
ディールは、頭をさすって、ぶつぶつ文句を言いながら、準備にとりかかりはじめた。
「すまんな、マッサ。あいつの言うことは、あまり、気にしないでくれ。口が悪いのが、あいつの欠点なんだ。戦いの腕前は、すばらしいんだが。」
「あっ、はい。」
へんなことを言ったら、自分も、ごん! と頭を叩かれるんじゃないかと思って、マッサは、少しきんちょうしながら、言った。
「あの、ところで、ぼく、質問したいことがあるんですけど。」
「なにかな。」
「はい。さっき、『ぼくたちが乗る場所』を作れって、ディールさんに言ってましたけど……それって、どういうことですか?」
「ああ。」
隊長は、なんでもなさそうに、説明した。
「ここから、私たちのとりでまでは、歩けば、五日くらいはかかる。お前たちを、そんなに歩かせるわけにはいかないから、私たちが運んでいくのだ。」
「えっ?」
マッサは、だんだん、嫌な予感がしてきた。
「運んでいくって……どうやって?」
「どう、って、もちろん、私たちが、お前たちをぶら下げて、空を飛んでいくのだ。」
「……ええーっ!?」
マッサは、思わず、大きな声を出してしまった。