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マッサ、止まる

「タカのように速く

 ヒバリのように高く

 竜のように強く――

 うぉおおおおおっ!」


 マッサは、あの言葉を唱えて気合いを入れ、ぎゅうううん! と、さらにスピードをあげた。

 まるで、打ち上げられたロケットみたいに、一直線に。


「何いっ!?」


 と、下から、ゲブルトの驚きの声が聞こえた。

 もう、だいぶ疲れてきていたはずのマッサが、いきなり、これまでよりも、もっとスピードを出し始めたからだ。


「おのれ、王子め! まだ、力が残っておるのを、隠しておったな!? 待てええええい!」


 あやうく引き離されかけたゲブルトも、王子を絶対に逃がすものかと、一気にスピードを上げる。


(来た!)


 髪もほっぺたも、ババババババ! となるほどの、目も開けていられないような凄まじい風を受けて飛びながら、マッサは、自分の魔法の力が、尽きかけているのを感じた。

 川でブルーを助けようとしたときは、初めてだったから、分からなかったけれど、今なら分かる。

 自分はもうすぐ、魔法の力を使い切って、墜落してしまうだろう。

 飛んでいられるのは、あと、ほんの少しだ。

 残り、五、四、三、二――


「ストォォォォップ!」


 いきなり叫んで、マッサは、止まった。

 何もない空中で、ぴたっと、その場に、急ブレーキをかけた――

 全速力で鬼ごっこをしているときに、前を逃げている相手が、いきなりその場に止まったら、追いかけてきた鬼は、いったいどうなるか?


「うおおおおおおおっ!?」


 同じように全速力で飛んでいたゲブルトは、まさか、マッサがいきなり止まるなんて、まったく予想していなかった。

 そのままの勢いで、どすーん! とマッサにぶち当たる。

 しかも、マッサが下向きに構えて持っていた剣に、自分から、ぐさーっ! と突き刺さった。


「ぎゃあああああああっ!」


 黒い煙が、ぶしゅうううううっ! と噴き出し、あたり一面、真っ暗になる。

 魔法の力を使い切ったマッサとゲブルトは、ひとかたまりになって、石のように落っこちていった。


 ピシャアアアアアァン!


 鋭い音とともに、緑色の光が弾ける。

 地面に叩きつけられる、その瞬間に、《守り石》の力が働いたんだ。

 マッサは、ぎゅうっと閉じていた目を、片方ずつ、そーっと開けた。

 そこは、ちょうど、塔の屋上だった。

 空中を、あっちこっち飛び回った末に、マッサは、無事に元の場所に戻ってきたというわけだ。


「うわあっ!」


 自分の足元に落ちているものを見て、マッサは、思わず飛び上がった。

 そこに、ぐったりと伸びていたのは、巨大なヘビの化け物だった。

 体は、紫と、緑と、黒のまだらもようで、なんと、小さな翼と角が生えている。


「ううっ……王子、ご無事ですか……?」


「マッサ、無事か……いててててっ!」


「隊長! ディールさん!」


 マッサは、慌てて剣をさやにおさめると、屋上の床からよろよろと起き上がろうとしている二人に駆け寄った。


「ぼくは、大丈夫だよ。ほら! けがもしてないし。隊長、大丈夫? 立てますか?」


「あいたたたたたっ!」


 手を貸そうとした瞬間、ガーベラ隊長がすっとんきょうな大声をあげたので、マッサはびっくりして飛び上がりそうになった。


「わっ、ごめんなさい!」


「い、いえ……普通にしていると、ただ、じんじんしているだけなのですが、触ると、まだ、痺れが……」


 痛そうに顔をしかめて説明しながら、ガーベラ隊長は、手すりにつかまり、ものすごくゆっくりした動きで、何とか立ち上がった。


「いよっ、と……あいててててっ! ……よっ、こら、しょっと……あいててててっ!」


 ディールも、まるで百歳を過ぎたおじいさんみたいに、膝と腰を曲げながら、何とか、立ち上がった。

 でも、足がぶるぶる震えていて、まだ、歩くことはできそうにない。


「ほら、見て!」


 そんな二人を安心させようと、マッサは、ぐったりと伸びているヘビの化け物のほうに片手を振った。


「ゲブルトは、ぼくがやっつけたよ! 正体は、ヘビの化け物だったんだ。」


「ええ、ここから、見ていましたよ。さすがは、王子! あれほどの力を持った魔法使いと、空中で対決し、倒してしまわれるとは!」


 と、ガーベラ隊長は、感動して叫び、


「やれやれ……こりゃ、そのうち、俺たちの手助けなんか、いらなくなっちまうんじゃねえか?」


 と、ディールは、ちょっと冗談っぽく笑って、そう言った。


「そんなことないよ。ぼくは絶対、みんながいなきゃ……あっ!?」


 マッサは、そこまで言って、はっと、あることを思い出した。


「しまった、忘れてたっ!」


 大急ぎで、屋上の手すりに駆け寄り、下の広場を見下ろす。

 幽霊マントや、動く鎧に襲われていた、ブルー、タータさん、フレイオ、ボルドンたちは、無事なのか?


『グオオオオオーン。』


『あっ! マッサ! マッサ、いた! マッサ、げんき? ぼくたち、げんき!』


 広場の真ん中で、ボルドンと、その頭の上に乗っかったブルーが、こっちに向かって、大きい手と、小さい手を振ってくれた。

 そのすぐそばには、タータさんと、フレイオもいる。

 そのまわりには、一面、地味な色のピクニックシートでも敷いたみたいに、幽霊マントが、ばさばさと広がって、地面に落ちていた。

 あっちこっちに、動く鎧も、転がっている。

 中には、立ったままの姿勢で、突っ立っているのもいた。

 彼らをあやつっていたゲブルトを、マッサが倒したから、魔法が切れて、動かなくなったんだ。

 みんなが無事で、本当によかった!


「みんなー! こっちだよ! もう、敵はいないから、みんな、この塔の屋上まで、上がってきてー!」


『ガウッ、ガウッ、ウオーン。』


『ボルドン、ここで、まってる! って、いってる。たてもの、はいらない! ぎゅぎゅぎゅーっとか、ぞりぞりぞりーって、なるから。』


 ボルドンと、ブルーの説明に、


「あっ……うん、分かった! じゃあ、他のみんなだけ、先に、上がってきて!」


 と、マッサは答えた。

 本当は、


(ボルドンに、お母さんを、あの部屋から出してあげてほしいんだけどな。)


 と思っていたんだけど、もしかしたら、先に、他のみんなに、事情を説明してからのほうが、話が早いかもしれない。

 しばらく待っているうちに、たったったっと足音がきこえて、ブルーと、タータさんと、フレイオが姿を現した。


『にょろにょろ、こわい!』


 ゲブルトの姿を見たブルーが、そう叫んで、一目散にマッサに駆け寄り、ぴょーん! とジャンプして、しがみついた。


「大丈夫だよ、ブルー。あいつは、ぼくがやっつけたからね。」


 マッサが、ブルーをなでているあいだに、


「あれ!」


 と、タータさんが大きな声を出した。


「ガーベラ隊長、ディールさん、大丈夫ですか? どこか、やられたんですか?」


「ああ。さっき、魔法の稲妻を受けてしまってな……」


「いてててっ……まだ、全身が、痺れていやがる。いてててっ!」


「わあ、それは大変だ――って、そうだ、そんなことより、マッサ! 大変です! わたしたち、下で、大変なものを見つけたんですよ!」


「そんなことより、って、何だよっ!?」


 ディールが文句を言ったけど、興奮したタータさんは、全然聞いていなかった。


「聞いて、驚かないでください。なんと、そこの階段を、上がってくるとちゅうに――」


「扉が壊れた、秘密の部屋があって、そこに、透明な柱に閉じ込められた、きれいな女の人がいた……んじゃない?」


 マッサが言うと、タータさんは、目をぱちぱちさせて、口をぱくぱくさせた。


「えっ……そ、そうです! まったく、その通りです。マッサ、どうして、分かったんです?」


「だって、あの部屋の扉を壊して、お母さんを見つけたのは、ぼくだから!」


「おかあさん?」


 フレイオが、信じられないという顔で呟いた。


「そうなんだ!」


 マッサは、やっとゆっくり、みんなにこの話ができるようになって、嬉しすぎて飛び跳ねながら言った。


「お母さん! ぼくの、お母さん! ぼく、お母さんを見つけたんだ!」



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