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マッサたち、のぼる

「うーん……」


 マッサは、お母さんを一刻もはやく助けてあげたい一心で、頭から煙が出そうになるくらい、必死に考えた。

 今のところ、お母さんを助け出す方法は、ただひとつだ。

 お母さんを、魔法の柱ごと、《魔女たちの城》にいる、おばあちゃんのところまで運んであげるしかない。

 でも、ディールの言うとおり、これだけ大きくて重そうな柱を、どうやって《魔女たちの都》まで運べばいいんだろう?

 この柱は、大人が三人、手をつないで、やっと周りを囲めるかどうか、というくらい太い。

 そもそも、これを動かす、ということ自体、無理なんじゃないか……?


 でも、このまま、お母さんをこの場所に置いていく、ということは、絶対にしたくなかった。

 もう死んでしまって、会うことはできないんだろうと諦めていたお母さんと、せっかく、ここで出会うことができたんだ。

 もし、


『ぼくたちが、大魔王をやっつけて戻ってくるまで、待っててね。』


 なんて言って、ここでお別れしてしまったら、マッサたちがいないあいだに、お母さんが別の場所に連れていかれてしまって、本当に、もう二度と会えなくなるかもしれない。

 でも、いくら必死に考えても、いい考えは、まったく思い浮かばなかった。


「ここで、いつまでも、ぐずぐずしていることはできません。」


 急に、ガーベラ隊長がきっぱりと言って、マッサは、どきっとした。

 お母さんをここに置いていくように、言われるんじゃないかと思ったからだ。

 でも、ガーベラ隊長は、こう続けた。


「あまり時間をかけていては、いつ、敵の魔法使いが戻ってくるか分からない。ここは、とにかく、私たちのなかでいちばん魔法にくわしい、フレイオを呼びましょう。彼なら、何か、いい案を思いつくかもしれない。それに、ボルドンも。」


「ボルドンも?」


 意外な名前に、マッサは、びっくりした。


「ボルドンに、魔法のことをきいても、分からないんじゃない?」


「いや、彼には、魔法のことをきくのではありません。ボルドンは、岩でも打ち砕く、強い爪や牙を持っています。もしかしたら、この塔の建物じたいを打ち壊して、柱を運び出せるかもしれませんよ。」


「そうか!」


 マッサは、目を輝かせた。


「それに、ボルドンくらい力持ちなら、この柱を、運んでいくことだってできるかもしれない!」


「ええっ!? 大魔王のいるところまで、ボルドンに、姫さんを、担いでいってもらうつもりかよ!? この柱のままでか?」


 と、ディールが、驚いて言った。


「それとも、あいつだけ、柱をかついで、《魔女たちの都》まで、戻らせるつもりなのか?」


「うーん……」


 言われて、マッサは、また、悩みそうになったけど、


「考えるのは、後です!」


 と、ガーベラ隊長が、きっぱりと言った。


「今は、とにかく、敵の魔法使いが戻ってくる前に、この塔から脱出しなくては。息子や娘よりも、父親のほうが強いはずですから、戦いになれば、厄介なことになります。」


「う……うん。そうだね、急ごう!」


 マッサは、悩みを振り切るように、大きな声で言った。

 それから、冷たい柱に、両手をぴったり押し付けて、心の中で言った。


(お母さん、ぼく、お母さんを絶対助けてあげるからね! ちょっとだけ、ここにいなくなるけど、心配しないで。友達を呼んでくるだけだから。)


『ええ、安心して、待っているわ。』


 お母さんの心の声が、はっきりと聞こえる。


『マッサには、お友達が、たくさんいるのね。嬉しいわ。』


(うん。すぐ、お母さんにも紹介してあげるね。それじゃあ、行ってきます!)


 マッサたちは、ガーベラ隊長、マッサ、ディールの順番に、慎重にようすをうかがいながら、隠し部屋を出た。

 そのとたんに、


「あれ?」


 と、マッサは、思わず声をあげた。

 らせん階段に出たガーベラ隊長が、塔の出入り口がある、下のほうじゃなく、上に向かって、階段をのぼり始めたからだ。


「隊長! どこに行くの? 出口は下だよ?」


 すると、ガーベラ隊長は振り向いて、


「屋上から、フレイオたちに、合図を送るんです。」


 と答えた。


「いちいち歩いて、塔から出て、あの門を通って……ということをしていたら、時間がかかりすぎます。それより、この塔の上から合図を送って、フレイオたちに来てもらったほうが早い。」


「なるほど!」


 と、マッサの後ろから、ディールが、ぽんと手を叩いた。


「今なら、幽霊マントや、動く鎧をあやつる奴もいねえから、安全ってわけか。門が閉まってたって、ボルドンの背中に乗ってくりゃ、一発だしな。」


「ブルーとタータさんにも、一緒に来てもらえばいいよね。……ブルーが、ボルドンの背中に乗って、また、気絶しなきゃいいけど。」


「さあ、急ぎましょう!」


「うん!」


「おう!」


 ガーベラ隊長を先頭に、マッサたちは、らせん階段を駆け上がる。

 一番上まで来ると、鍵のかかった、分厚そうな金属の扉があった。


「二人とも、ちょっと、下がって。」


 マッサは、隊長とディールにそう言って場所をあけてもらうと、すらっと剣を抜いて構え、


「やあっ!」


 と、気合いとともに振り下ろして、分厚い金属の扉を、ななめ真っ二つに断ち切った。


「お見事!」


「やるじゃねえか、マッサ!」


「ありがとう。さあ、行こう!」


 扉をくぐると、そこは、まん丸い床の屋上になっていた。

 腰くらいまでの高さの石の手すりが、ぐるっと周りについているけど、あとは、壁も何もない、吹きっさらしだ。


「あの辺りだな。」


 ガーベラ隊長は、フレイオたちが待っているはずの場所がよく見えるほうに移動すると、服の襟元から手を入れて、首にかけていた何かを引っ張り出した。


「あっ、それ!」


「ええ、最近、飛んでいなかったので、久しぶりに使います。」


 隊長が引っ張り出したものは『空笛』だった。

《翼の騎士団》の人たちが、風の音がうなる空の上で、おしゃべりをするみたいに合図を出し合うための笛だ。

 ガーベラ隊長は、空笛をくわえて、ピピーッ、ピピーッ、ピピーッと、高らかに吹き鳴らした。

 この音なら、ずっと離れた茂みの中に隠れているフレイオたちの耳にも、はっきりと聞こえるだろう。

 人間よりもずっと耳が鋭いブルーやボルドンもいるから、聞き逃す心配はない。


「マッサ、その剣を抜いて、振ってみろよ。」


「えっ?」


 急に、ディールにそう言われて、マッサはびっくりした。


「剣って……この、ぼくの剣? どうして?」


「隊長の笛の音だけじゃ、どこから、どうやって聞こえてるのか、分かりにくいかもしれねえからな。音だけじゃなく、光でも合図を送るんだ。剣の刃ってのは、鏡みてえに、きらきら光るだろ? それを振って、俺たちが塔の屋上にいるってことを、あいつらに、はっきり知らせるんだよ。」


「なるほど!」


 マッサは納得して、さっそく剣を抜き、頭の上にさし上げて、大きく回すように振ってみた。


「おーい! ブルー、タータさん、フレイオ、ボルドーン! ぼくたち、ここだよー!」


「あんまり、時間がねえー! さっさと、来いよー!」


 マッサのとなりで、ディールは、両手をメガホンみたいにして叫んでいる。

 ディールも空笛を吹くか、剣を振ればいいのに、と、マッサは一瞬思ったけど、彼は、捕まっているあいだに、持ち物を取り上げられてしまって、今は、武器も何も、手元にないんだ。


(あとで、ディールさんの剣とか笛とかも、探して、見つけてあげられるといいけど……)


 マッサが、そう思ったとき、


「よし、気づいた!」


 ガーベラ隊長が、嬉しそうに叫んだ。

 見ると、ボルドンの大きな姿が、こっちに向かって、どんどん走ってくるところだ。

 まだ、遠くてはっきり見えないけど、その背中には、きっと、ブルーやタータさん、フレイオが乗っているだろう。


「おーい、おーい、おーい! ぼくたち、ここだよー!」


 嬉しくなって、マッサも、大きな声で呼びながら剣を振った。

 そのときだ。

 屋上にいる三人の上に、さあっと、真っ黒な影がさした。


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