マッサ、まきこまれる
マッサたちが目を丸くして見つめているあいだに、たちまち近づいてきた翼の騎士たちは、飛んできながら、すうーっと高さを下げて、地面すれすれになった瞬間、さっと翼を畳んだ。
そこで無理に立ち止まったら、ばーん! と地面に叩きつけられてしまうので、騎士たちはみんな、たたたっ、と、しばらく地面を走って、これまで進んできた勢いを、うまくなくしてから、やっと立ち止まった。
その様子を見ていて、マッサは、騎士たちの青い翼が、彼らの背中から生えているわけではなくて、細くけずった木や、ロープや、ばねや、薄い皮を組み合わせて、作られたものだということに気がついた。
騎士たちは、みんな、その翼を、リュックサックを背負うみたいに、皮のベルトで、背中に背負っているのだった。
そして、着陸するしゅんかんに、翼の根元から出たレバーを、ぐんと引いて、まるで、雨の日にさす傘を折りたたむみたいに、翼をたたんでいた。
「整列!」
十人くらいいる騎士たちが、みんな着陸すると、そのうちの一人が、大きな声で叫んだ。
騎士たちは、横一列に、びしっと並んだ。
みんな、同じような服を着て、同じような鎧とかぶとをつけて、同じような槍を持っているから、どの騎士が声を出したのか、マッサには、ぜんぜん分からなかった。
「隊長。あちらに残っていた、化け物鳥のむれは、俺たちで、すべて、退治しました。」
「うむ、よし。よくやった。」
報告をきいて、マッサたちを助けた騎士が、おもおもしく頷いた。
「ところで、隊長! この化け物鳥は、隊長が、ひとりで倒したのですか?」
「そうだ。地上にいるところを、上から、急降下して、しとめたのだ。」
隊長が、そう答えると、騎士たちは、うれしそうに、ざわざわしはじめた。
「出た! 隊長の必殺技《流れ星》だ!」
「あれができるのは、隊長しかいねえ。」
「失敗したら、地面に激突して死んじまう、危険すぎる技だからな!」
「あんな技ができるなんて、さすがは、俺たちの隊長だ!」
騎士たちが、もりあがっているあいだに、
「……ねえ、聞いた? ブルー。あの人、隊長だって!」
マッサは、ひそひそ声で、ブルーに言った。
『たいちょうって、なに? おいしいの!?』
「ちがうよ! この中で、あの人が、いちばんえらいみたいだ。それに、いちばん、強いみたいだね。」
マッサとブルーは、できるだけ、ひそひそ声で喋っていたのだけれども、どうやら、騎士たちの耳には、ちょっと聞こえていたようだった。
「隊長!」
と、騎士たちのひとりが、手をあげて言った。
「そこの子供は、なんですか?」
「ああ、この子か。名前は、マッサというそうだ。この化け物鳥に、食べられそうになっているところを、私が助けたのだ。」
「ああ、そういうことですか。……で、そこの、白いもじゃもじゃは、いったい、なんですか?」
『もじゃもじゃじゃない! ブルー!』
ブルーが、また、かんかんに怒って言った。
「うわっ! もじゃもじゃが、喋った!」
『もじゃもじゃじゃない! ブルー!』
なんだか、さっきと、おんなじようなことになっていた。
「私にも、何の生き物だか、よく分からん。」
と、隊長が言った。
「だが、ブルーは、マッサの友達だそうだ。この二人を、いっしょに、私たちのとりでへ、連れて帰ってやろう。」
「ええっ?」
隊長が言ったことばに、マッサは、びっくりした。
「とりで」というのは、戦いのために建てられた、小さなお城みたいな建物のことだ。
これから、自分たちは、そこへ、連れていかれるらしい。
マッサが、びっくりしていると、
「ええっ?」
と、マッサ以外にも、もうひとり、言った者がいた。
それは、騎士たちのうちのひとりだった。
「隊長。この子供を、俺たちのとりでへ、連れていくんですかい?」
「そうだ、ディール。何か、気に入らないことでもあるのか?」
「この子供を、いきなり、そんなふうに信用しちゃって、大丈夫なんですかねえ。」
ディールと呼ばれた騎士は、うたがうような声で言った。
いちおう、ひそひそ話をしているつもりみたいだったけど、声が大きいせいで、マッサたちにも、話が丸聞こえだった。
「こんなところを、子供が、ひとりでうろついているなんて、ちょっと、おかしいですぜ。ひょっとしたら、敵の、スパイかもしれませんぜ。」
『すぱい、ってなに? おいしいの?』
ブルーが、大きな声で言うと、ディールという騎士は、
「何だ、この、もじゃもじゃめ! 人の話を、盗み聞きしやがって!」
と、どなってきた。
盗み聞きしたんじゃなくて、声が大きすぎて、かってに聞こえてしまったんです、と、マッサが説明する前に、
「ディール!」
隊長が、厳しい声で、ディールをしかった。
「人のせいにするな。お前の声が、大きすぎるから、かってに聞こえてしまうんだ。それに、この子は、スパイではない。化け物鳥に、家を壊されて、家族を食べられてしまった、かわいそうな子だ。さっきは、自分まで、食べられそうになっていたんだぞ。もしも、この子がスパイだとしたら、同じ、大魔王の手下である化け物鳥が、この子を襲うはずがないだろう。」
大魔王だって!?
マッサは、思わず、そう叫びそうになったけど、何とか、がまんした。
さっきから、とりでとか、スパイとか、大魔王とか……
もしかして、自分たちは、とんでもないことに、まきこまれようとしているんじゃないだろうか?