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マッサたち、潜入する

「あそこですね。」


 茂みの中で、声をひそめながら、ガーベラ隊長が指さした。


「幽霊マント」の変装をしたマッサとガーベラ隊長は、ふたたび、茂みに身を隠しながら、魔法使いの塔のすぐそばまで、接近している。

 隊長が指さしたのは、塔のまわりを囲む、分厚くて高い壁につけられた、巨大な門の扉の片隅だった。

 マッサとガーベラ隊長は、茂みに身を隠しながら塔に近づき、見張りの幽霊マントたちが、いったいどこから出てくるのかを、じっくりと調べた。

 そして、とうとう、巨大な扉の隅っこに、うまく扉の模様のように見せかけた、小さな出入口がつけられていることを発見したんだ。


 幽霊マントは、あの出入口から出てきて、また、同じところから、入っていく。

 幽霊マントが近づくと、小さな扉が、勝手にぱたんと開いて、通り終わると、また、ぱたんと閉まる仕掛けになっているようだ。


「あれは、自動ドアなのかな……」


「自動ドア、とは?」


 隊長が、不思議そうな顔――は、マントをかぶっているせいで見えないけど、不思議そうな顔をしているのがはっきり分かる声で、言った。


「ああ、いや、えーと……あの扉って、魔法で、勝手にあいたり、しまったりする仕掛けになってるのかな。」


「分かりません。」


 隊長が、少し緊張した声で答えた。


「私たちが、さきほど、だまされて門から入ったときは、幽霊マントと、魔法使いどもの他には、生きて動いているものは見ませんでした。でも、今は、どうなのか分かりません。あの扉の内側に、誰かがいて、開け閉めしているのかもしれない。油断はできませんよ。」


「うん……」


「王子、ご自分の剣は、お持ちですね。」


「うん。」


「では、行きましょう。」


 ガーベラ隊長とマッサは、とうとう茂みから踏み出し、ふわふわ、ふわふわと、できるだけ本物の幽霊マントに似せた動き方をしながら、巨大な門の片隅の、小さな扉へと、近づいていった。


 そそり立つ石の壁が迫ってくるにつれて、マッサの心臓は、ドッドッドッと音を立てそうなほどに激しく波打った。

 この変装が、ばれてしまったら、どうしよう?

 中に、大勢の敵がいて、いっせいに襲いかかってきたら、どうしよう?

 それで、もしも、隊長がやられちゃったりしたら、どうしよう――?


 でも、そんな心配を、動きに出したら、そのせいで、ばれてしまうかもしれない。

 マッサは、不安な気持ちを必死に押し隠して、ふわふわ、ふわふわと、普通の幽霊マントのふりをし続けた。


 隊長とマッサが、小さな扉の前に止まると、すぐに、扉の内側から、ガチャリ……と金属の音が聞こえた。

 そして、音もなく、すっと扉が開いた。

 先に立っているガーベラ隊長は、ためらうことなく、扉の中に踏み込んでいった。

 マッサも、遅れず、そして慌てすぎないように、隊長のあとに続いて、扉をくぐった。

 その瞬間、


(うわあっ!?)


 と、マッサは、思わず飛び上がって叫びかけた。

 扉をくぐった瞬間、すぐそこに、銀色に光る鎧を着た戦士が立っていたからだ。

 背中に、巨大な斧を背負っている。


(しまった、罠だ! 待ち伏せされた!)


 マッサは、パニックに陥って叫びそうになったけど、ぎりぎりで、何とかこらえた。

 なぜかというと、先を進んでいるガーベラ隊長が、完全に幽霊マントになりきって、鎧にもまったく驚かず、平気な様子で前進していくのが見えたからだ。

 マッサも、ぐっと唇をかみしめて声を出さず、ふわふわ、ふわふわと、隊長について歩き続けた。

 後ろから、あの巨大な斧でばっさりやられたら……と思うと、怖くて、振り向きそうになったけど、それも我慢した。

 すると、後ろから、かすかに、ガチャリ……と金属の音が聞こえた。

 あの、鎧を着た戦士が、扉に鍵をかけたらしい。


(ば、ばれて、ない……のかな!?)


 マッサは、ふわふわ、ふわふわと、必死に隊長についていきながら、目だけで、あたりの様子をうかがった。

 一度目に踏みこんだ時と同じで、そこは、がらんとした広場になっていて、動くものの姿は、ほとんど見当たらなかった。

 ところどころを、ふわふわ、ふわふわと、幽霊マントが飛んでいる。

 どうやら、あたりを見回っているみたいだ。

 でも、マッサたちに気づいている様子は、今のところ、なかった。


(隊長は、ここから、いったい、どうするつもりなんだろう?)


 マッサは、急に、ものすごく不安になってきた。

 今は、ばれていないみたいだけど、ぐずぐずしていると、そのうちに、変装に気づかれてしまうかもしれない。

 しかも、一番重要な、ディールが、いったいどこに捕まっているのかということを、マッサたちは、まったく知らないんだ。

 もしも、探し回っているうちに、見つかって、怪しまれてしまったら――


 そんなマッサの気持ちを知ってか知らずか、ガーベラ隊長は、ふわふわ、ふわふわと、急ぎすぎることなく、でも、まっすぐに、塔へと近づいていった。

 その後ろに、ついていきながら、


(あっ、あそこに、灯りがともっている!)


 と、マッサは、気づいた。

 塔じゃなく、少し離れたところにある、倉庫みたいな建物のひとつだ。

 窓から、はっきりと、あかりが漏れているのが見える。


(あそこに、誰かがいる。もしかしたら、ディールさんが、あそこに捕まっているのかもしれない!)


 マッサは、前を進む隊長に、このことをどうやって伝えようか、迷った。

 幽霊マントには、声がないはずだから、声を出して呼びかけたりしたら、たちまち変装がばれてしまう。

 じゃあ、駆け寄って、背中を叩くとか、マントのすそを引っ張るとかすればいいか、というと、それも怪しい動きだから、やっぱり、ばれる危険がある。

 いったい、どうすればいいんだ!?

 マッサは、慌てそうになったけど、


(いや……ちょっと、待てよ。)


 と、心の中で、自分に言い聞かせた。


(もしかしたら、隊長も、とっくに、あの灯りには、気がついてるんじゃないか? だって、ぼくが、見つけたくらいだから、先に進んでる隊長が、あれを見落とすはずはない。隊長は、何かの理由で、あそこにはディールさんはいないはずだ、って判断して、あえて、あの灯りを無視して、進んでるのかもしれない!)


 マッサは、ガーベラ隊長を信頼して、慌てず、このままついていこうと決めた。

 いよいよ、塔の真下までたどり着いたとき、塔の入り口の扉は、もちろん、閉まっていた。

 でも、ガーベラ隊長とマッサが前に立つと、また、あの、ガチャリ……という音がして、扉が、すっと開いた。


(うっ! やっぱり!)


 ガーベラ隊長に続いて中に踏みこみ、マッサは、またまた飛び上がりそうになった。

 暗い塔の中に、銀色の鎧を着た戦士の姿が、ぼうっと浮かび上がったからだ。

 さっきのやつと同じように、背中に、巨大な斧を背負っている。

 でも、やっぱり、こいつも、マッサたちの変装には、まったく気づいていないようで、攻撃してくる様子はなかった。


(この戦士たちは、いったい、何者なんだろう? こっちは、ありがたいけど、扉の番人にしては、少し、ぼーっとしすぎなんじゃないかな。……ひょっとして、もう夜だから、立ちながら、半分、寝ちゃってるのかな?)


 マッサは、どきどきしながらも、落ち着いて鎧の戦士の前を通り過ぎた。

 そして、ガーベラ隊長に続いて、塔の真ん中を突き抜けて通っている、らせん階段のほうへと、ふわふわ、ふわふわ、近づいていった。


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