マッサたち、第二の作戦会議を開く
マッサたちは、ボルドンとフレイオが待っている茂みのところまで、急いで戻ってきた。
そうして、つかまえた幽霊マントの布を囲み、さっそく、第二回の作戦会議を開いた。
問題は、今ここにいるメンバーのうち、いったい誰が、幽霊マントに変装して、塔に忍び込むのかということだ。
「まず、ボルドンは、絶対、無理だよね。」
『ウオオーン。』
ボルドンが、申し訳なさそうに、大きな頭を左右に振った。
幽霊マントの布を、三枚つなぎ合わせても、ボルドンの頭を隠すだけでやっとなんだから、当然、変装なんて、とても無理だ。
「それに、ブルーも、無理だよね。」
『ぼく、がんばる! フンムッ!』
「いや、これは、がんばってどうにかなる問題じゃないような……」
ブルーは、体が小さすぎるから、幽霊マントの布をかぶると、地面の上で、布がモゴモゴ動いているだけになってしまう。
「わたしは、いけるんじゃないですか?」
と、タータさんが、幽霊マントの布をかぶった。
確かに、シルエットは、本物の幽霊マントにそっくりだ。
でも、残念ながら、タータさんだと、背が高すぎた。
マントの下から、長い足が二本、にょっきりと突き出ている。
「これでは、ばれてしまいますねえ……あっ、そうだ! こうやって、おじいさんみたいに、腰を曲げれば、なんとか……」
そう言いながら、タータさんは、いろいろと姿勢を工夫してみた。
でも、そうすると、マントの形や動きが不自然になって、やっぱり、すぐにばれてしまいそうだ。
「うーん、うーん……だめですね、これは。残念ながら、どうにも、ならないみたいです。」
「フレイオは、どう?」
マッサが言うと、フレイオは、少し面倒くさそうに布を受け取って、黙ってかぶった。
「おお、ちょうどいい!」
ガーベラ隊長が、そう言って手を叩いた。
マントの布が地面まで垂れ下がって、ちょうどいい具合に、足元を隠してくれている。
「フレイオ、どうだ? 外からは、完全に、幽霊マントにしか見えないぞ。」
「どうだも、こうだも、ないですよ。」
幽霊マントの布の中から、フレイオがぶつぶつ言う声が聞こえた。
「前も、横も、まったく見えない。これでは、塔に忍び込むどころか、まっすぐ歩くこともできませんよ。」
「あっ、そうか。布をかぶってるんだから、そりゃ、前も横も見えないよね……」
と、マッサが言うと、
「では、目にあたる部分の布にだけ、小さな穴を開けてはどうだろう。」
ガーベラ隊長がそう言って、フレイオがいったん脱いだ幽霊マントに、短剣の先で、ふたつの小さな穴を開けた。
「さあ、これで、周りが見えるようになったと思うが。」
ガーベラ隊長にそう言われて、フレイオは、目の部分に穴をあけた幽霊マントを、もう一度かぶった。
その姿を、一目見て、
「あー……うーん……こうなっちゃったかぁ……」
「これでは、無理ですねえ……」
「ほとんど完璧なのに、惜しかったな……」
と、マッサ、タータさん、ガーベラ隊長は、同時にため息をついた。
幽霊マントの、暗い色の布地の中で、フレイオのルビーのような目の光が、きらきらと輝いている。
これでは、目立ちすぎて、ばれないほうがおかしい。
「では、私ならどうだろう?」
言って、ガーベラ隊長が、幽霊マントをかぶった。
「あっ、ちょうど、いい感じですよ!」
タータさんが言った。
ガーベラ隊長とフレイオは、背の高さがそれほど変わらないから、マントの丈もちょうどよく、本物の幽霊マントにそっくりだ。
「よし、では、私が行こう。」
危険な役に決まっても、ガーベラ隊長は、落ち着いていた。
そもそも、自分の部下のディールを助け出すための作戦なんだから、もともと、絶対に行くつもりだったんだろう。
「だが、こうしてマントをかぶった状態では、槍は持てないな。槍は、長すぎてマントからはみ出してしまって、ばれる。いざというときには、この剣で戦うしかないだろう。」
「待って。」
てきぱきと準備を始めたガーベラ隊長に、マッサは、手を挙げて言った。
「ぼくも、行くよ!」
「えっ?」
ガーベラ隊長も、周りのみんなも、目を丸くした。
「いいえ、いけません。王子は、ここで待っていてください。王子が、わざわざ、危険に身をさらすことはありません。王子の身に、もしものことがあったら、予言は、かなわなくなってしまうのですよ。」
「いや、ぼくも、行く。」
ガーベラ隊長が止めたけど、マッサは、真っ向から、それに反論した。
「だって、相手は魔法使いなんだよ? しかも、三人もいるんだ。それなら、こっちも、一人より、二人のほうがいい。」
「しかし……」
「それに、人数の問題だけじゃなくて、少しでも魔法が使える人が、救出部隊に入っていたほうがいいと思うんだ。ガーベラ隊長は、確かにすごく強いけど、魔法は使えないでしょ? ぼくなら、空を飛ぶ魔法が使えるから、一緒に行けば、何かの時に、便利だと思うんだ。」
「まあ、それはそうですが……それで、王子の身に、もしものことがあったら……」
「いなくなったら困るのは、全員、一緒だよ。」
マッサは、はっきりと言った。
「ぼくの命だけが、大切なわけじゃない。今いる仲間のみんな、全員、誰ひとり、いなくなっていい人なんて、いないんだ。だから、ディールさんにも、ガーベラ隊長にも、もしものことがあったら困るんだよ。一人で行くより、二人で行ったほうが、お互いに助け合えるし、何かが起こった時にも、一緒に切り抜けられると思う。だから、ぼくも、隊長と一緒に行くよ!」
「王子……」
ガーベラ隊長は、強く心を打たれた様子で、マッサを見つめた。
他のみんなも、マッサの言葉に納得して、それ以上、反対する意見は出なかった。
『でも、マッサ、たいちょうより、ちいさい! マント、ながい。ずるずる!』
「あっ、うーん……それは、そうだね。」
ブルーの言葉に、マッサは困って、自分の体を見下ろした。
確かに、このままでは、幽霊マントのすそを、地面にずるずる引きずってしまう。
マントのすそを踏んづけて、転んで、変装がばれてしまう、なんてことになったら、大変だ。
「じゃあ、マッサの背丈に合わせて、マントのすそを、少しだけ切るというのはどうでしょう?」
タータさんが言って、自分のナイフを取り出し、幽霊マントのすその部分を、びびびびーっと切り裂いて、サイズを一回り小さくしてくれた。
「さあ、これで、どうです?」
「あっ、ぴったりだ!」
「よかった、よかった。ちゃんと、目のところに、ふたつの穴も開けておきましたからね。」
「ありがとう、タータさん!」
これで、幽霊マントのサイズ問題は、無事に解決だ。
「王子も、ご自分の剣を、しっかりと身に着けておいてください。」
真剣な顔で、ガーベラ隊長が言った。
「そして、いつでも抜けるように、心構えをしておいてください。もちろん、私がお守りしますが、大勢の敵と戦うことになれば、王子にも、武器をふるっていただくことになるかもしれません。」
「う……うん。分かった!」
マッサも、隊長に負けないほど真剣な顔で、答えた。
さあ、いよいよ、ディール救出作戦の始まりだ!