表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
166/245

タータさん、思いつく

     *     *     *



「どうしたの、タータさん?」


 急に声を上げたタータさんに、マッサがたずねると、


「隠れて!」


 と、タータさんは四本の腕で、マッサと、ガーベラ隊長と、フレイオと、ブルーの頭をいっぺんに押さえつけ、茂みの中に引っ込ませた。

 みんなの後ろにいたボルドンは、言葉は分からないけど、その様子を見て、あわてて自分でぐうっと頭を下げ、できるだけ小さくなって、姿を見えにくくした。

 タータさんに頭を押さえられながらも、何とか顔を上げて、茂みの葉のあいだから外の様子を見たマッサは、思わず、あっと言いそうになったけれど、何とか我慢した。


「……あいつらだ。」


「ええ。」


 小さくひそめた声で言ったマッサに、タータさんがうなずく。

 今まさに、塔の方から、三体の幽霊マントが、ふわふわと出てきたところだ。


『ブルルルルッ! なに、あれ? あれ、なに? こわい!』


『ガオッ、グオグオーン……』


 幽霊マントを、今初めて見たブルーに、ボルドンが、低く声をかけた。

 たぶん、あれが幽霊マントだよ、って、教えてあげているんだ。


「周りの様子を、探っているみたいですね。」


 と、タータさんがささやき、


「私たちが、塔に近づいてきていないか、警戒しているんだろう。」


 と、ガーベラ隊長が言った。


「敵は、今、ディールの身柄を握っているからな。私たちが、いつ、あいつを助け出しに来るかと、待ち構えているわけだ。」


 幽霊マントたちが、こっちまで来たらどうしようかと、全員が緊張したが、三体の幽霊マントたちは、マッサたちが隠れているほうにまでは、近づいてくることはなかった。

 そいつらは、塔のまわりをぐるっと回るように、列を作って、ふわふわと漂っていった。

 ようやく、幽霊マントたちの姿が見えなくなると、マッサたちは、はあーっ、と長い息をついて、全身の力を抜いた。


「よかった……こっちには来なかったね。やっぱり、幽霊マントは、あの塔から、あんまり遠くまで離れることはできないみたいだ。」


「本当に、どきどきしましたねえ! あっ、思わず、強く押さえちゃって、どうも、すみませんでした。」


 タータさんも、みんなを押さえつけていた手をどけて、そう言った。


「やれやれ。」


 と、ガーベラ隊長は、腕組みをして唸った。


「敵の守りは固い、警戒も強い。いったいどうやって、ディールを助け出してやればいいのか……」


 と、そのときだ。


「あっ。」


「どうしたの、タータさん?」


 マッサは、さっきとまったく同じ言葉を、もう一度言った。

 タータさんは、あっ! と言った後、塔のほうを見たまま、じっと動きを止めている。


「えっ、何、何? もしかして、ディールさんを助け出す方法を、何か、思いついたの? ねえ、タータさんってば!」


「いや、そういうわけでは、ないんですけど。」


 マッサに何度も呼ばれて、タータさんは、ようやくみんなのほうに向きなおった。


「ディールさんを、助け出す方法じゃなくて……ディールさんを助け出すために、あの塔に忍び込む方法を、ひとつ、思いついたんです。」


「えっ!? ……いや、それも、凄いよ!?」


「いったい、どういう方法なんだ?」


 ガーベラ隊長も、思わず身を乗り出している。


「ええと、ですね。さっきの戦いで、私たちは、大量の幽霊マントに、もう少しで、やられるところでした。その、大量の幽霊マントを、逆に、利用するというのは、どうでしょう。」


「何だって? どういうことだ?」


「つまりですね。」


 タータさんは、長い人差し指を立てて、説明した。


「幽霊マントは、あれだけ、たくさんいるんですから、そこに、ひとつふたつ、偽者が紛れ込んでいても、気づかれにくいと思いませんか?」


「えっ?」


「わたしが考えた方法というのは、要するに、幽霊マントのふりをして、塔に忍び込むことができないか、ということなんです。」


「あっ、つまり……僕たちの中の誰かが、幽霊マントに変装して、塔の中に入り込む、っていうこと!?」


「ちょっと、待ってください。」


 と、片手をあげながら割って入ったのは、フレイオだ。


「幽霊マントに変装する、と言ったって、どうやって、変装するんです? あんな色や大きさの布なんて、私たちの誰も、持っていないのに。」


「だいじょうぶ。」


 フレイオの、もっともな意見にも、タータさんは、全然あわてなかった。


「布は、にせものじゃなくて、本物を使えばいいじゃありませんか。」


「えっ?」


「あの幽霊マントを、捕まえて、それをかぶって、変装するんです。そうすれば、まさに、本物そっくりに見えるじゃありませんか!」


「なるほど!」


 マッサは、思わず叫んだ。

 幽霊マントのにせものになるために、本物の幽霊マントを使う、というわけだ。

 確かに、それなら、敵にも見破られにくいだろう。


「しかし……」


 と、今度は、ガーベラ隊長が、難しい顔をして言った。


「奴らは、ものすごくしぶといぞ。現に、タータさんが連続パンチをくらわせても、私やディールが、槍で真っ二つにしても、ボルドンの爪でばらばらに切り裂いても、奴らは襲いかかってきた。そんな奴らを、捕まえて、かぶるなんていうことが、できるとは思えないのだが……」


「そうですよ! あんなものを、自分からすすんでかぶるなんて、とんでもない。上から締め付けられて、どうにもならなくなるのが、おちですよ。」


「あっ、そうか……」


 ガーベラ隊長とフレイオの意見を聞いて、マッサは、がっかりした。

 せっかく、いい考えだと思ったのに、言われてみれば、確かにその通りだ。

 でも、


「いや。方法は、あると思います。」


 と、タータさんは、にこにこしながら言った。


「だって、さっき、ガーベラさんが、はっきり言っていたじゃないですか!」


「なに? ……私が?」


 急に言われて、ガーベラ隊長は、目を丸くした。


「私が……ん? 私が、何を、言ったって?」


「『ものをあやつる魔法は、自分との距離があまりにも遠くなれば、効かなくなる。』……ガーベラさんは、さっき、そう言っていました。――と、いうことはですよ。暴れる幽霊マントを、ひっ捕まえて、こっちまで引っ張ってくれば、魔法がとけて、ただの布に戻るんじゃないでしょうか?」


「……おお、なるほど!」


 そこには気づかなかった、というような表情で、ガーベラ隊長は、ぽんと手を叩いた。


「確かに……魔法をかけた者からの距離が開きすぎて、操り人形の術が効かなくなれば、その品物は、もとの、何の変哲もない品物に戻るはずだ。」


「おおーっ!」


 と、マッサは一瞬、笑顔になってから、


「いや、ちょっと、待って!」


 と、すぐに気がついて、言った。


「そのあと、誰かが、その布をかぶって、塔に忍び込むわけでしょ? 塔に近づいていったら、もう一度、魔法の効き目がよみがえる……なんてことに、なったりしない?」


「……いや。」


 昔、魔女たちの城で習ったことの記憶を必死に思い返しながら、ガーベラ隊長は、大きく首を横に振った。


「そういうことは、ないはずです。一度、魔法が解けた品物は、もう一度、魔法をかけ直さないかぎりは、ただの品物のままだ。……そうだな、フレイオ?」


 ガーベラ隊長に、確認を求められたフレイオも、しばらく考えてから、


「ええ、確かに、その通りです。一度、解けた魔法は、もう一度かけ直すまで、元に戻ることはありません。」


 と、重々しくうなずいた。


「やった!」


 マッサは、思わず、タータさんの背中をぽーんと叩いた。


「タータさん、すごいアイデアだよ! この方法でなら、ディールさんを助けてあげられるかもしれない!」


「いやあ、そう、褒められると、照れますねえ。」


 タータさんは、少し顔を赤くして、四つの手で、ぽりぽりと頭をかいた。


「照れている場合ではないぞ。」


 もう、次のことを考え始めているガーベラ隊長が、きびきびと言った。


「こうと決まれば、具体的な作戦を立てなくては。我々のなかの誰が、どうやって、敵に気づかれずに、幽霊マントを捕まえるか。それが問題だ。」


「大丈夫。」


 と、またしても、自信ありげに言ったのは、タータさんだった。


「それは、わたしがやります。そのための方法も、もう、思いついてるんです!」


 驚くみんなを、いたずらっぽく見返して、タータさんは、にっこり笑った。


「まあ、ここは、わたしに、任せてくださいよ。さっそく、行動開始です!」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ