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仲間たち、心を決める

     *     *     *


「マッサ、なかなか、上がってきませんねえ。」


 近くの木に登って、葉っぱのすきまから、ずっと崖のほうを見張っていたタータさんが、眉を寄せて呟いた。


『おそい、マッサ、おそい! だいじょうぶ? ねえ、マッサ、だいじょうぶ?』


『ウオーン、ウオーン。』


 心配そうにじたばたしはじめたブルーを、ボルドンが、おなかに抱え直して、よしよしする。


「確かに、遅いな。」


 ガーベラ隊長も、難しい顔でうなった。


「もしかしたら、まだ、気を失っておられるのかもしれないが……もし、そうでないとしたら、下で、厄介なことになっているのかも……」


『なに!? やっかいなことって、なに?』


「いや、それは、分からないが……」


「あのう。」


 と、同じく難しい顔をして黙り込んでいたフレイオが、急に顔を上げて、みんなに言った。


「もしかすると、下の霧に、原因があるのかもしれませんよ。」


「霧に、だって? フレイオ、それは、どういうことだ?」


 ガーベラ隊長の質問に、フレイオは、はっきりとは分かりませんが、と前置きをしてから、言った。


「《死の谷》の霧には、方向感覚をなくさせる力がある、とボルドンは言っていましたね。だとすると、他にも、何らかの力があるのかもしれません。たとえば、魔法の力も、なくさせてしまうとか……」


「ええっ!?」


 木の上で話を聞いていたタータさんが、目を見開いて叫んだ。


「じゃあ、今、マッサは、飛びたくても、飛べない状態だってことですか!?」


「まあ、これは単なる推測で、証拠はありませんが……そういう可能性もあるかもしれない、ということです。」


「もしも、本当にそうなのだとしたら、我々がここでじっと待っていても、時間の無駄だ、ということになるな。」


 ガーベラ隊長が、険しい顔で言った。


「もう少し待ってみても、王子が上がっていらっしゃらなければ、フレイオが言ったことが当たっているのかもしれない。我々は、王子を助け出すために、別の方法を考えて、行動を起こさなくては。」


「しかし……」


 フレイオは、暗い顔で言った。


「私たちに、いったい、何ができます? そもそも、崖の下に降りることは不可能だし、降りたところで、こちらまで迷ってしまうだけだ。それに――」


 フレイオは、ちょっとのあいだ、言いにくそうに黙り込んだが、やがて、意を決したように、続きを口にした。


「それに、……いや、こんなこと、言いたくはないが……もう、何もかも、手遅れなのかもしれませんよ。もしも、あの霧に、魔法の力をなくさせる働きがあるのだとしたら、マッサを守るはずの《守り石》の力だって、働かなかったかもしれない。マッサは、下に、落ちて――」


『なに?』


 フレイオの言っていることが、よく飲み込めなかったらしいブルーが、黙り込んでしまったタータさんと隊長、フレイオの顔を順番に見ながら言った。


『なに? どうしたの? マッサ、だいじょうぶ? ておくれって、なに?』


「ああ……ブルーさん。あのですね、手遅れというのは――」


「あなたの言うとおりだ。」


 ブルーに説明しようとしたタータさんの言葉を、途中で断ち切るように、ガーベラ隊長は、フレイオの顔をまっすぐに見て、大きな声で言った。


「確かに、そういう可能性もある。……だが、そうでない可能性も、もちろん、あるわけだ。我々は、最後まで、希望を捨ててはいけない。王子が生きている可能性が残っている以上は、できる限りのことを、考えて、やるしかない。我々は、絶対に、諦めるわけにはいかないんだ。」


「あの予言をかなえるために、ですか?」


「それもある。」


 フレイオの言葉に、ガーベラ隊長は、まっすぐに答えた。


「だが、一番は、我々が仲間どうしだからだ。仲間が助けを求めているかもしれないときに、見捨てて諦めるなどということは、絶対にできない。私は、王子を助けたいんだ。もちろん、ディールの奴もな。」


「わたしもです!」


 木の上から、タータさんが言った。


『ぼくも! マッサ、たすける! ディールも、たすける!』


『グオオオーッ! グオオオーッ!』


 ブルーとボルドンも、大きな声で言った。


「そうですか。」


 フレイオは、静かにうなずいた。


「わかりました。……そうですね。私も、マッサを、助けたい。」


「よくぞ、言ってくれた!」


 ガーベラ隊長は、笑顔になって、ばーん! と力強くフレイオの背中を叩いた。

 フレイオは、隊長の力が強すぎて、少しむせながら、


「まあ、ディールのほうは、別に、どうでもいいんですけど。」


 と、ぶつぶつ言っていた。


「さあ、そうと決まったら、まずは、何とかして、マッサを助ける方法を考えましょう!」


 元気よく言って、タータさんが、ひょいと木の枝の上から飛び降りてくる。

 と、その瞬間だ。


 ビビビビーッ!


「わあっ!?」


 タータさんが来ていた上着のすそが、木の枝のとがったところに引っかかっていて、勢いよく飛び降りた拍子に、大きく破れてしまった。


「あーあ……引っかかっていたなんて、全然、気がつきませんでしたよ。やっぱり、慌てては、いけませんねえ。」


 上着の破れたところから、びよよよーんと出た長い糸を巻き取りながら、タータさんが、恥ずかしそうに言う。

 それをじっと見ていたブルーの耳と尻尾が、急に、ぴこーん! と音がしそうな勢いで跳ね上がった。


『あっ! ぼく、おもいついた!』


「えっ?」


「何?」


「どうしました?」


『ガウーッ?』


 みんなが、一斉にブルーを見る。

 ブルーは言った。


『ぼく、おもいついた。マッサを、たすけるほうほう! それ、つかったらいい!』


「えっ?」


 ブルーが、ちっちゃな手で指さしているのは、タータさんの、破れた服だ。


「わたしの……服、ですか? これで、どうやって――」


『ちがう、ちがう!』


 ブルーは、もどかしそうに手を振って、言った。


『そこから、びよよよーんって、でてる、ながいやつ! それ、つかったらいい!』


「えっ? ……いったい、どういうことですか?」


『《しのたに》のもやもや、こわい! なかにはいると、どっちがどっちか、わからなくなっちゃう。でも、その、びよよよーんっていうやつを、たどれば、だいじょうぶ!』


「えっ……うーん?」


「なるほど。」


 ブルーが言いたいことが分からずに、考えこんでしまったタータさんの横で、フレイオが、静かに言った。


「つまり、《死の谷》の底に降りて、その糸の端を、木か、何かに結び付ける。そして、霧の中で、マッサを探す。探すあいだ、その糸を、どんどん、びびびびびーっと伸ばしながら、進んでいく。マッサを見つけて、帰ってくるときには、これまでに伸ばした糸をたどれば、元の場所に戻れる――と、こういうことですね?」


『そう、そう!』


 ブルーは、青い目を輝かせて叫んだ。


『そういうこと。フレイオ、かしこい! ……さっき、ひっかいて、ごめんね。』


「えっ。はあ、いや。まあ、別に、いいですけど。」


「しかし……」


 ガーベラ隊長が、横から手を挙げた。


「確かに、今のは素晴らしい思い付きだと思うが、それが役に立つのは、《死の谷》の底に降りてからのことだろう? 我々の誰も、空を飛ぶ魔法は使えない。今は私の『翼』もない。みんなが持っているロープだって、合わせても、短すぎる。そもそも、谷底に降りる方法が、今のところ、ないんだ。」


『そう?』


 ブルーは、青い目をぱちぱちさせ、ボルドンを見上げて、ガオガオ、ガウガウ、と、何か話し合った。

 そして、すぐにまたみんなの方を見て、言った。


『おりられる! って、言ってる。』


「――えっ?」


『ボルドン、このがけ、おりられる。すんでたやまでも、いつも、やってた。つめで、がけのかべをつかんで、どどどどどーって、したむきに、まっすぐ、はしって、おりる!』



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