表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
157/245

仲間たち、逃げる


*     *     *


「ああっ!?」


 顔をねらって巻き付いてこようとする幽霊マントを、必死に払いのけながら、ディールは悲鳴のような声をあげた。

 空中で黒マントの魔法使いと戦っていたマッサが、大爆発に巻き込まれて、ひゅうーんと、流れ星みたいに落っこちていくのが見えたからだ。

 あの方向だと――

 まずい、マッサが落ちていったのは、《死の谷》のほうだ!


「マッサ、マッサー! ちくしょう、こら、おまえら、どきやがれーっ!」


 ディールは、必死に幽霊マントをかき分けて、マッサが落ちていったほうに向かおうとしたが、高い塀のせいで、マッサがどうなってしまったのかは、まったく見えなかった。


「むぐっ! むぐーっ!」


 と、後ろから、苦しそうに唸る声が聞こえて、ディールは、はっと振り返った。

 大変だ。

 隊長と、タータさんが、完全に顔まで巻き付かれて、灰色のかたまりから、手足の先だけがちょっと出ているような状態になっている!

 鼻と口をふさがれて、息ができなくなったら、窒息して死んでしまうのは、時間の問題だ!


「やめろ、おらああああ! てめぇら、どけえええ!」


 ディールは、渾身の力で槍を振り回そうとしたが、


 ババババババッ!


 と、何枚もの幽霊マントが、四方八方から襲いかかってきて、ディールもたちまち、頭からつま先まで、完全に幽霊マントに巻き付かれてしまった。


「ううっ!」


 苦しい! 息ができない!

 もがいているうちに、どんどん息苦しくなってきて、意識が、ふうっと遠くなりかけた――

 その瞬間だ!


『グオオオオオオオオッ!』


 何重にも巻き付いた幽霊マントの外からでも聞こえるくらい、ものすごい吠え声が、ディールの耳に届いた!


(……ボルドンかっ!?)


 そのとおり、ボルドンだ。

 ボルドンが、みんなを助けにやってきたんだ!


『ウオオオオオーッ!』


 と叫んで、しげみを飛び出したボルドンは、ドドドドドドーッと突っ走り、そのままの勢いで、ダァーン! と、高い塀を、あっという間に飛び越えた。

 ドシーン! と着地したボルドンは、みんなが幽霊マントに巻き付かれて、やられそうになっているのを見ると、かんかんに怒って、グオオオオオーッと吠えた。

 そして、一撃で岩をも砕く爪を振り回し、バサバサバサァーッ! と、飛びかかってくる幽霊マントたちを、右に左になぎ払った。


『ウオン、ウオーン! ガオーン!』


 助けにきたよ! と叫んで、ボルドンは、まず、巻き付かれすぎて灰色のかたまりみたいになっている隊長を、幽霊マントごと、がしっとつかんだ。

 そして、中にいるガーベラ隊長を、真っ二つにしてしまわないように気をつけながら、巻き付いている幽霊マントを、鋭い爪を使って、バリバリバリーッ! とはがした。


「ぷはあっ……!」


 窒息しかけていたせいで、真っ赤な顔をしてふらふらしている隊長を、ひょいっと背中に乗せたボルドンは、同じように、タータさんも、バリバリバリーッ! と助け出して、


「ふはあああぁ……」


 と、よろよろしているタータさんも、背中に乗せた。

 そして、最後に、ディールも、バリバリバリーッ! と助け出して、


「ぐえええぇ……」


 と、うなっているディールも、軽々と、背中に乗せた。


『ウオ、ウオーンッ!』


 さあ、逃げるぞ!

 ボルドンは勢いよく走り出そうとしたが、幽霊マントたちはしつこかった。

 真っ二つになったものや、ぼろぼろの切れ端になったものまで、地面から舞い上がって、再び飛びかかってくる。


『ガオガオ、グオーッ!』


 目や鼻をねらってふさごうとしてくる幽霊マントを、大きな腕で、ババババ! と振り払って、ボルドンは、もう一度走り出した。

 と、そのときだ!


 ビシュウーン!


 と、何かが飛んでくるような音がして、ボルドンの背中にしがみついていたディールの体を、白い何かが直撃した!


「うおおおおおっ!?」


「ああっ、ディール!?」


 ディールの体が、空中に浮かび上がる。

 ガーベラ隊長が、とっさに手を伸ばしてディールの足をつかもうとしたが、その指先は、飛んでいくディールのブーツの裏をかすっただけだった。


「ああっ、あれは!」


 タータさんが叫んだ。


「もーうっ、兄さん、何よ、しっかりしなさいよーっ! 起きて起きて、王子の仲間が、逃げちゃうじゃないのーっ!」


 何もない空中に浮かんで、大声で文句を言っているのは、リアンナだった。

 リアンナは、ぐったりと気絶した黒マントの男を、片手で何とか抱きかかえている。

 どうやら、マッサと対決し、爆発に巻き込まれて落ちてきたところを、彼女が受け止めたらしい。

 そしてリアンナは、もう片方の手を突き出し、そこから、クモの糸のようにねばねばした魔法の糸を出して、ディールの体をからめとり、空中にぶら下げていた。


「おのれ、あの娘も、魔法使いだったのかっ!」


 ガーベラ隊長は、悔しそうに言ったが、今は、どうすることもできない。

 ここでぐずぐずしていては、今度はボルドンまでいっしょに、幽霊マントたちに巻き付かれてしまうだろう。


「うおおおっ! てめえ、リアンナ! よくも、俺をだましやがったな、嘘つきめ! このこのこのーっ! ほどけ、はなせ、下ろしやがれーっ!」


 魔法の糸にぐるぐる巻きにされ、両足をばたばたさせて暴れるディールの声が、あっという間に遠ざかる。

 ガーベラ隊長とタータさんだけを背中に乗せたボルドンは、しつこい幽霊マントを振り払い、ダァーン! と高い塀を飛び越えて、魔法使いの塔から逃げ出した。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ