マッサと翼の騎士
もう、家に、帰れない。
ギャオオオオオオン!
どうしようもなくなって、泣き出しかけたマッサの目の前で、化け物鳥が、怒り狂った叫び声を上げた。
そして、しつこく、マッサをおいかけてきた。
「うわああああああん!」
マッサは、泣きながら、ブルーの体をぎゅっと抱きしめて、走って逃げた。
でも、もう、疲れて、はやく走れない。
追いつかれる! と思ったけど、化け物鳥のほうも、さっき、思いきり木にぶつかったせいで、少しふらふらしていて、さっきほどは、速くなかった。
「だれか、たすけてえええええ!」
走りながら、マッサは必死に叫んだ。
でも、誰が助けに来てくれるだろう?
まわりには、自分と、ブルー以外、誰もいないのに――
「あっ!」
必死に走り続けるうちに、マッサは、また、森が終わるところに出てしまった。
木が生えていないから、もう、かくれるところもない。
ドスン、ドスンと、足音を立てて、化け物鳥が森から出てきた。
ぎらぎら光る目が、ふるえているマッサたちを、ぎろりと見下ろした。
もうだめだ、もう、一歩も走れない。
化け物鳥に食べられて、死んでしまう。
マッサが、絶望しかけた、そのときだ。
ヒュウウウウウゥゥ――
そんな、不思議な音が、聞こえてきた。
「……えっ?」
マッサは、その、ヒュウウウウウゥゥ――という不思議な音がどこから聞こえてくるのか、最初は分からなかった。
マッサたちを、がぶりとやろうとして、あんぐりと口を開けていた化け物鳥にも、その音は、聞こえたらしい。
化け物鳥は、急にぴたっと止まると、きょろきょろ、右を見て、左を見て、それから、はっと気がついたように、上を見た――
その瞬間!
ヒュウウウウウゥゥ ドスーン!!!
何かキラッと光るものが、空の上から流れ星みたいに降ってきて、化け物鳥の背中を、直撃した!
「うわああぁ!」
マッサは、びっくりして、しりもちをついた。
グエエエエエエッ!
化け物鳥は、おそろしい叫び声をあげてのけぞると、ぶるぶるっとふるえて、それから、ばたーんと横向きに倒れて、そのまま、しんでしまった。
マッサは、あんまりびっくりしすぎて、気絶することもできずに、目の前の出来事を見ていた。
いったい、何が起きたのか、ぜんぜん、分からなかった。
マッサが、かたまっていると、倒れた化け物鳥の背中のほうで、何かが、むくむくっと動いた。
何か、別の生き物だ!
そいつが、空から急降下してきて、化け物鳥を、たおしたんだ。
ということは、そいつは、化け物鳥よりも、もっと強くて、おそろしいってことじゃないか!
逃げなくちゃ、とマッサは思ったけど、あんまりこわすぎて、腰が抜けたみたいになってしまって、立ち上がることができなかった。
マッサが、立とうとして、もがいているうちに、その新しい生き物は、倒れた化け物鳥の体をよけて、マッサのほうへ歩いてきた。
「えっ……?」
マッサは、その姿を見て、びっくりして、もがくのをやめた。
そいつは――まるで、人間みたいなかっこうをしていた。
背が、大人くらい高い。
頭には、かぶとをかぶって、胴体と、ひじから先と、太もものところに、よろいをつけている。
まるで、騎士ブラックが、おはなしの中から出てきたみたいだ。
騎士ブラックのよろいは、真っ黒だけど、今、目の前にいるやつのよろいは、銀色に光っていた。
そして、そいつは、手に、長い槍を持っていた。
槍の先には、どろっとした、黒い血がついていた。
この槍を、ぐさっと突き刺して、化け物鳥をたおしたんだ。
でも、こいつが、本当に人間かどうかは、分からなかった。
なぜかというと、そいつの背中には、まるでコウモリみたいな、大きな、青い翼が生えていたからだ。
今は、畳まれているけど、広げたら、化け物鳥の翼と、形がそっくりになりそうだ。
それに、頭にかぶった銀色のかぶとは、鋭いくちばしをもった肉食の鳥、タカの顔にそっくりな形をしていた。
このかぶとをかぶっているせいで、そいつが、ほんとうはどんな顔をしているのか、ぜんぜん見えなかった。