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マッサ、友達になる

 マッサの言葉に、フレイオは、ルビーのような両目をゆっくりと瞬かせ、首をかしげた。


「とも……だち? ですか?」


「えっ? ……うん。」


 マッサは、フレイオがどうしてそんな顔をするのかよく分からなくて、戸惑いながら、うなずいた。

 でも、次の瞬間、マッサは、もっとおどろくことになった。


「その、とも……だち、というのは、いったい、何ですか?」


「え!?」


 マッサは思わず、みんなが寝ていることも忘れて大声を出しそうになり、あわてて自分の口をおさえた。


「いや……えっ? 何、言ってるの? フレイオ、もしかして、ぼくのこと、からかってるんじゃない?」


「いいえ。」


 フレイオは、大まじめだ。


「ともだち、という言葉は、いったい、どういう意味なんですか? これまで生きてきて、そんな言葉は、聞いたこともない。」


「ええーっ……!?」


 マッサは、びっくりした。

 マッサみたいに、小学校に通っていれば、「友達とけんかした」とか「友達と遊んだ」とか「新しい友達ができた」とか、とにかく「友達」という言葉は、絶対に聞いたことがあるはすだし、使ったこともあるはずだ。

 それを、聞いたこともないなんて、いったい、フレイオは、これまで、どういう人生を歩んできたんだろう?

 もしかすると、小さい頃から、一人で魔法の勉強ばっかりしてきて、友達と遊んだり、けんかしたり、そういうことを、全然したことがなかったのかな?


「ええとね……友達、っていうのは……」


 説明しようとして、一瞬、マッサは、困った。

 あらためて考えてみると、「友達とは何か」って、どう説明したらいいんだろう。

 いったい、どう説明したら、フレイオに分かってもらえるだろう――?


「あのね……友達っていうのは……一緒にしゃべったり遊んだりすると、楽しくて……それで、困ったときは、お互いに助け合って……相手が悲しんでたら、なぐさめてあげて……それで……一緒にいると、ほっとする人のこと。」


「へえ。」


 フレイオは、びっくりしたように言った。


「そういう相手のことを『友達』というんですか。」


「うん、そう。……えっ、フレイオには、そういう人、いないの? 小さかった頃の友達とか……」


「いませんね。」


 フレイオは、一瞬も迷わずに、びっくりするくらいはっきりと、そう言い切った。

 そのことが、悲しいとか、残念だとか思っているようすも、まったくなかった。


「そんな相手は、いたことがない。私には、必要ありませんから。」


「ええっ!?」


 これには思わず、マッサは、これまでで一番大きな声を出してしまった。


「友達が、必要ないって……そんなこと、ないと思うけど。……ぼくは、友達がいなかったら、いやだけどな。」


「私は、友達というものがいたことがありませんが、別に、それで、困ったとか、いやだとか思ったことは、一度もありませんでしたよ。」


 フレイオは、マッサが何を言っているのかよく分からない、という顔で、まじめに言った。


「だって、私の夢は、いつか、世界で一番強い力をもった魔法使いになることだと言ったでしょう?」


「えっ? ああ、うん。」


「だから、友達なんか、いらないんですよ。」


「……えっ? ごめん。今の、『だから』っていう意味が、ちょっと、よく分からなかったんだけど……」


「考えてもみてください。」


 フレイオは、まるで「一たす一は、二です」と説明する人みたいな調子で、ゆっくりと言った。


「世界で一番強い力をもった魔法使いということは、つまり、自分が、世界で一番なんです。」


「えっ……うん。まあ、それは、そうだね。」


「そうでしょう? 世界で一番、ということは、となりには誰もいない、ということです。

 自分と同じレベルの人は、世界中さがしても、他に、誰もいない。自分ひとり、ただひとりなんです。それが、一番になるということです。

 だから、友達もいない。ただひとりの、世界で一番。

 それでいいんです。いや、そうじゃないと、いけない。となりに誰かがいるようでは、それは、本当の一番とは、言えないんですよ。」


「……ううーん……!?」


 フレイオの説明を聞いて、マッサは、うなった。

 フレイオが言いたいことは、何となく、分かったような気もする。

 でも、それは、マッサが持っている考えとは、全然違っていた。


「でもさ……ぼく、思うんだけど……世界一、強い力をもった魔法使いになることと、友達がいる人になることは、どっちか片方だけじゃなくて、両方、同時にやっても、大丈夫だと思うんだけど。」


「えっ?」


 今度は、フレイオのほうが、意外そうな顔をした。


「だって、魔法の力と、友達がいるかどうかは、関係ないことだもん。」


 マッサは、どうにかしてフレイオに分かってもらおうと、いっしょうけんめい説明した。


「たとえば、ぼくの小学校には――ああ、ええと、ぼくが、前に住んでたところには――テストでほとんど毎回、百点ばっかりの、学年トップの成績の子がいたけど、その子は、優しくて、おもしろくて、友達もいっぱいいたよ。テストで一番だから、友達はいない、なんてこと、なかった。だから、世界一強い力をもった魔法使いで、同時に、友達もいっぱいいる、ってことも、絶対、できると思う。」


 マッサの説明を、フレイオは、ふしぎな顔つきで、黙って聞いていた。

 フレイオが今、何を考えているのか、その表情からだけでは、よく分からなかった。

「そうなのか!」と思っているのか、それとも「いや、そんなはずはない」と思っているのか、「別にどうでもいい」と思っているのか、全然、判断がつかなかった。


「あっ!」


 と、急に、重大なことに気付いて、マッサは、自分のひざを、ぽんと叩いた。


「ねえ。もしかしたら、フレイオは、今まで『友達』ってものを全然知らなくて、友達がいたことがないから、それが、いいものか、悪いものか、ほんとは、よく分からないんじゃない?」


「えっ? ……はあ……まあ。」


「それなら、一回やってみたら、分かるんじゃない!?」


「えっ?」


「ぼく、フレイオと友達になる。」


 マッサは、驚いているフレイオの手を取ってしっかりとにぎり、力強く上下に振った。


「もともと、仲間で、友達みたいなものだったけど、もっとしっかり、友達になろうよ。どう? ……もちろん、フレイオが、よかったら、だけど。」


 そう言ったマッサの顔を、フレイオは、あのふしぎな顔つきで、黙って見つめた。

「それ、本当ですか?」と思っているのか、「なにを、ばかなことを」と思っているのか、「ちょっと何を言ってるのかよく分からない」と思っているのか――


「そんなこと。」


 と、やがて、フレイオは、とても小さな声で言った。


「そんなこと、私に言った人は、これまでに、一人もいませんでしたよ。」


「うん。だから、ぼくが、フレイオの友達の第一号なんだ。これから、だんだん十人とか、百人とかに増えていくかもしれないけど、ぼくが、その第一号ってことで! ……えっ。ほんとに、それでいい?」


 ちょっと心配そうに聞いたマッサを、フレイオは、また、長いこと黙って見つめていた。

 それから、彼は、ちょっとだけ笑った。


「ええ。」




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