マッサたちと、新しい仲間
『ゴフーン……』
ボルドンのお父さんは、マッサの言葉を聞いて、考えこむように唸った。
そこへ、ボルドンのお母さんや、おじいさんやおばあさん、きょうだいや親戚たちが集まってきて、みんなで、ガウガウ、グオッグオッ、と相談しはじめた。
ボルドンと、マッサたちは、何も口をはさまずに、どきどきしながら、その様子を見守っていた。
やがて、
『グオーッ!』
長い相談が終わり、ボルドンのお父さんが、大きく吠えた。
『いま、ボルドンのおとうさん、いいよ! って、いった!』
「えっ、ほんとに!?」
『ガオーッ!』
マッサがブルーに確かめるよりもはやく、ボルドンが喜んで飛び上がり、巨大な体で、あたりを跳ねまわった。
「うおおっ! やめろ、あぶねえだろ! おまえの、どでかい体がぶつかったら、ちょっと当たっただけでも、こっちは、ぷちっと潰れちまうんだからな!」
慌てて離れながら、ディールが叫ぶ。
『グオグオ、ガオガオ、ガオーン!』
ほら、おまえ、もう、みんなのじゃまになってるじゃないか!
と、たぶん、ボルドンのお父さんが、そう言ったんだろう。
ボルドンは、跳ねまわるのをぴたっとやめて、びしっと座ったけど、顔は、どことなく、にこにこしていた。
反対に、ボルドンのお父さんは、怒っているというより、悲しそうな顔をしているように、マッサには見えた。
ああ、と、マッサは思った。
もしかしたら、ボルドンが七人の仲間に入ることに、お父さんが最初、反対したのは、熊だからとか、体が大きくてじゃまになるから、なんていう理由じゃなくて、かわいい子供のボルドンが遠くに旅に出てしまうことが、心配で、さびしいからなのかもしれない……
「ボルドンのお父さん。」
マッサは、前に進み出て、ボルドンのお父さんに話しかけた。
「ボルドンが、ぼくたちの仲間になることを許してくれて、ありがとうございます。ぼくは、絶対、大魔王をやっつけて、また、ここに帰ってきます。もちろん、ボルドンもいっしょに。 ……さ、ブルー、通訳をお願い!」
ブルーが、マッサの言葉を通訳すると、ボルドンのお父さんや、他のイワクイグマたちは、大きくうなずいた。
『ガウーン、ガオーン、ガオーン!』
『わかった、まってるぞ! って、いってる!』
『ガオガオ、グオッ、グオーン!』
『えーと……ほんとは、じぶんたちも、いっしょにいきたい。でも、そしたら、このやまをまもるやくめが、できないから、いけない。おれたちは、このやま、しっかり、まもる。おまえたちは、じぶんのやくめ、しっかり、やってきてくれ! って、いってる!』
「はいっ!」
マッサは、まっすぐにボルドンのお父さんの目を見て、返事をした。
「約束します。ぼくたちは、自分たちの役目を、しっかり果たして、必ず、元気に帰ってきます!」
こうして、マッサたちは、再び北をめざす旅をはじめた。
今、マッサのほかに、六人まで、仲間が集まっている。
ブルー、ガーベラ隊長、ディール、タータさん、フレイオ、そして、ボルドンの六人だ。
予言の言葉は《王子と、七人の仲間》だから、このあとに、どこかで、もうひとり、仲間が見つかる予定だということだ。
マッサたちは、どんどん歩いて、《二つ頭のヘビ》山脈を越えていった。
旅の進み具合は、かなり、いい調子だ。
それには、三つの理由があった。
ひとつは、この山脈全体の様子をよく知っているボルドンが、先頭に立って進んでくれるから、道に迷う心配がなく、自信を持って進めるということ。
もうひとつは、大魔王の手下の猿たちが追い出されて、山脈全体が平和になったから、戦いが起こらず、ぐんぐん進めるということ。
そして、あと、ひとつの理由は――
「ねえ、ボルドン、ほんとに、そんなにたくさん荷物をかついで大丈夫? はりきりすぎて、無理してない?」
『ガオーン!』
マッサの言葉に、ぜーんぜん! というように、元気よくボルドンが答える。
みんなが、ぐんぐん進める理由の、最後のひとつは、ボルドンが、その巨大で力強い体に、みんなの荷物を集めて、背負ってくれていることだった。
もちろん、みんな、それぞれの武器や鎧は身に着けているし、もし、たった一人ではぐれてしまうことになったときに困らない程度の水や食料、貴重品は、自分で持っている。
でも、そのほかの荷物――たとえば、テントをはるときに使う長い棒や布、予備の食料や水、全員分の毛布なんかは、みんなまとめて、ボルドンがかついでくれていた。
『こんなの、わたげみたいに、かるい! って、いってる。ボルドン、ちから、つよい!』
「いやあ、ボルドンさんが荷物を持ってくれるおかげで、わたしの足も、綿毛みたいに軽いですよ! ありがたいですねえ。」
タータさんが、にこにこしながら言った。
タータさんは、これまでは、仲間たちのうちで一番力持ちだったから、一番たくさんの荷物をかついでくれていたけど、その役を、今度は、ボルドンがしてくれることになった、というわけだ。
おかげで身が軽くなったタータさんは、前よりも、すばやく走って偵察に行ったり、道を進みながら、果物や、食べられる草を集めたりしやすくなっている。
「でも、なんだか、自分よりも重い荷物を持っているひとがいると思うと、ちょっと、悪い気がしますねえ。ボルドンさん、ほんとに、大丈夫ですか?」
『ガオガオーン!』
『みんな、しんぱい、しすぎるな! ほんとに、だいじょうぶ! って、いってる。』
ブルーが、ボルドンの言葉をみんなに通訳する。
『えーと……おまえたち、たんぽぽの、わたげ、いっぱいもったら、おもくて、あるけないか? って、ボルドンがきいてる。』
「えっ? タンポポの綿毛、ですか?」
と、不思議そうな顔をしたタータさんの後ろから、
「そんなもん、あっても、なくても、重さなんて、ほとんど変わらねえだろ。」
と、ディールが答えた。
『それと、おなじ! って、ボルドンがいってる。にんげんは、わたげ、いくらもっても、おもくない。くまは、おおきなにもつ、いくらもっても、おもくない!』
「ほんとかよ。すげえな。」
ディールはそう言うと、あきれたような顔をして、仲間たちの列の、一番最後を、はあはあ言いながら歩いてくる一人を振り返った。
「……だってよ! ボルドンのやつが、ぜんぜん重くねえって言ってんだから、おまえも、いいかげん、その荷物をボルドンに預けて、もっと、楽に歩いたらどうなんだ?」