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マッサ、交渉を進める

 マッサの言葉を、ブルーが通訳する。

 それを聞いたイワクイグマたちは、あちこちで顔を見合わせ、大きな頭を横に振ったり、うなずかせたり、低い声で唸ったり、ウオウ、ウオウと吠えたり、熱心に話し合いはじめた。


 マッサは、できるだけ堂々とした態度で、まっすぐに立ち、イワクイグマたちを見ていた。

 これまで、十年くらい戦い続けてきた人間たちと、熊たちを仲直りさせる、難しい仕事だ。

 こっちが、不安そうにきょろきょろしたり、おどおどしたりしていては、相手も、不安になって、反対してくるかもしれない。

 熊たちの話し合いは、けっこう長いあいだ続いたけど、マッサはそのあいだ、がまんして、一言もしゃべらず、堂々と立ったまま、じっと待っていた。

 となりでは、ブルーも、途中までは堂々と座っていたけど、そのうち、待つのに飽きてきて、地面の上に丸くなって、うとうとしはじめた。


『グオオオオーン!』


 とうとう、話し合いが終わり、ボルドンのお父さんがひと声、大きく吠えた。

 ブルーは、びっくりして飛び起きた。

 熊たちは、みんな、マッサのほうを見て、まっすぐに並んでいる。

 その真ん中で、ボルドンのお父さんが言った。


『ガウ、ガウ、ウオーン……』


『ええと……わかった! って、いってる。くまは、にんげんと、はなしをする!』


「やった!」


 マッサは、思わず小さくガッツポーズをしたけど、話は、まだ続いていた。


『えーと……でも、じょうけん、ある。……じょうけんって、なに?』


「えっ? ……ああ、条件っていうのは……そっちが、何かを約束するんだったら、こっちも、約束しますよっていう……えっ。その条件って、どんなこと?」


『はなしあいの、ばしょは、いっぽんすぎの、おかの、したの、まるい、ひろば。ここと、にんげんのすみかの、あいだの、ちょうど、まんなか! それが、じょうけんの、ひとつめ。』


 ボルドンのお父さんの言葉を、ブルーが通訳した。


『それから……じょうけんの、ふたつめ。はなしあいに、やりとか、ゆみやとか、けんとか、もってきたら、だめ! あぶないから。はなし、するのに、あぶないもの、いらないから。じょうけんは、それだけ!』


 それを聞いて、マッサは、思わず、


「……ううーん。」


 と、唸ってしまった。

 一つ目の、場所についての条件は、それでいいと思う。

 でも、全部の武器を置いてこい、なんていう、二つ目の条件を、《赤いオオカミ》隊の戦士たちが、受けいれるだろうか?

 でも、ここで、マッサが「それは無理です」なんて言ったら、熊たちが怒って、話し合いが終わってしまうかもしれない。


「あのーっ。」


 しばらく考えてから、マッサは言った。


「ぼくは、これから、人間たちのところへ行って、あなたたちが言った、二つの条件について、伝えます。そして、人間たちの返事が、どうだったか、また、ここに戻ってきて、あなたたちに、伝えます。だから、みなさんは、ちょっと、ここで、待っていてもらえますか?」


 マッサの言葉を、ブルーが通訳すると、イワクイグマたちは、ざわざわとざわめいた。


『えーっと……ながく、かかりすぎるんじゃないか? って、いってる! にんげんの、あし、おそい! いって、かえってくるのに、すっごく、ながくかかる。ボルドンが、おくるか? って、いってる!』


「大丈夫です。」


 マッサは、自信をもって言った。


「ぼく、魔法で、空を飛べるから! さっき、ボルドンに案内してもらって、道はだいたい分かったし、この場所は、ひらけてるから、上から見たら、みなさんがいるのが見えて、迷わないと思います。

 はい、ブルーは、いったんリュックサックに入って……そうそう。

 じゃあ、みなさん、ちょっとのあいだ、待っててくださいね!

 タカのように速く

 ヒバリのように高く

 竜のように強く……

 飛べーっ!」


 マッサの体が、びゅーん! と空に舞い上がったのを見て、イワクイグマたちは、ウオーッ!? と驚いていた。

 さっきのボルドンみたいに、びっくりしすぎて、後ろ向きに、ごろーんと転がってしまう熊たちもいたくらいだ。


「行ってきまーす!」


 マッサは、びゅーん! と夜風を切って、《赤いオオカミ》隊の秘密基地に急いだ。

 もちろん、昼間みたいに、スピードを出し過ぎて、途中でぷっすん、とパワーが切れてしまわないように、注意している。

 しばらく飛ぶと、下のほうに、ぽつんと、小さな明るい点が見えてきた。


「……あそこだ!」


 ガーベラ隊長が、目印に燃やしてくれている、たいまつの灯りだ。

 マッサは、その明るい点をめざして、ひゅーんっと降りていった。


「……ん? あっ、マッサ!」


 秘密基地の階段の、たいまつから少し離れたところで、夜空を見上げていたタータさんが、一番にマッサに気付いて、手を振ってくれた。


「おーい、みなさん! マッサです! マッサが、帰ってきましたよ!」


「おお、王子! 話し合いは、いかがでしたか?」


「マッサ、熊との交渉は、うまくいったのかよ?」


「戦いには、なりませんでしたか?」


「王子! どうでした?」


「どうなりましたか?」


「おい、押すな、押すな! 危ない!」


 と、《赤いオオカミ》隊の戦士たちも、みんな出てきて、もうちょっとで、誰かが、滝つぼに落っこちてしまうところだった。


「みなさん、落ち着いてください! 今から、結果を報告します。」


 階段に着陸したマッサは、イワクイグマたちが、人間と会って話し合ってもいいと言っていること、でも、それには二つの条件がある、と言っていることを、みんなに説明した。


「ううーむ。」


 それを聞いた《赤いオオカミ》隊の戦士たちは、難しい顔で唸ったり、ひそひそ、囁き合ったり、だめだだめだ、というように首を振り合ったりした。


 やがて、《赤いオオカミ》隊の隊長が言った。


「王子。ひとつめの条件である、場所の件については、何の問題もありません。……しかし、二つ目の条件は、とても受け入れられない。なにひとつ武器を持たずに、交渉の場に行くなど、危険すぎる。もしも、これが相手の罠だった場合、身を守ることもできずに、やられてしまいます。」


 それを聞いて、今度は、マッサが、


「ううーん。」


 と唸った。

 ボルドンや、ボルドンのお父さんたちの様子を、その目で見て、その言葉を聞いてきたマッサには、イワクイグマたちが、戦士たちをだまして罠にかけようとしているとは、とても思えなかった。

 マッサの表情から、そう思っていることが伝わったのか、《赤いオオカミ》隊の隊長は、すこし、言葉の調子をやわらげて続けた。


「それに、王子。相手が、最初からこっちを罠にかけるつもりではなかったとしても、話し合いの中で、何かのはずみに相手が興奮して、戦いになってしまう可能性が、まったくないとは、言えないでしょう。そういう場合、身を守るためにも、武器は、絶対に必要です。俺は、部下たちの命を守る責任がありますからね。ここは、絶対に譲れませんよ!」




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