マッサ、帰り道がなくなる
ドシーン！ ドシーン！ ギャオーッ！ ギャオーッ！
後ろから、ものすごい地響きと、化け物鳥の怒った叫び声がきこえてきた。
森の中で、マッサは、思わず立ち止まり、振り返って、化け物鳥の様子を見た。
ドシーン！ ドシーン！ ギャオーッ！ ギャオーッ！
化け物鳥が、木と木のあいだに、首を突っ込んで、こっちをにらみながら、暴れて、吠えている。
でも、大きく広げた翼が、じゃまになって、化け物鳥は、森の中に、入ってくることができないでいた。
森の木が、マッサたちを、守ってくれているのだ。
（た、た、た、助かった……！）
マッサが、そう思った、そのときだ。
ギャオッ、ギャオッ……グルルルルル……
化け物鳥は、いったん、木に体当たりするのをやめて、後ろに下がった。
あきらめたのかな、と思った、次のしゅんかん、化け物鳥は、バサアッ！ と翼をふって、大きな体の両側に、ぎゅっとたたんだ。
そして、
ドドドドドドド！
と、翼を閉じたまま、走って、森の中に入ってきた！
「うわあああああああ！」
マッサは、泣きそうになりながら、また、猛ダッシュで走って逃げた。
腕には、ブルーを、しっかり抱きかかえたままだ。
とちゅうで、気絶から、目をさましたブルーは、
『ん？ ん？』
と、後ろを振り返って、化け物鳥がすごい速さで追いかけてきているのを見て、
『ブルルルルルッ。』
と、また、気絶してしまった。
そんなブルーを抱えたまま、マッサは、転びそうになりながら、必死で走り続けた。
化け物鳥の、ドドドドド！ という足音が、後ろから、どんどん近づいてくる。
ここで、転んだりしたら、次の瞬間、化け物鳥に、ばっくり食べられてしまう。
そんなの、ぜったいに嫌だ！
でも、足は、どんどん疲れてくるし、胸も、喉も、めちゃくちゃ痛くなってきた。
もう、だめだ。
もう、走れない！
そう思った、そのとき、「あかずの間」につながる穴があいた、あの木が見えてきた。
（あそこにさえ、はいれば、助かる！）
マッサは、最後の力をふりしぼって走った。
あの穴に飛び込みさえすれば、体の大きな化け物鳥は、ぜったいに、通り抜けることはできないはずだ。
これで、助かる……！
ギャオオオオオン！
空気をふるわせる、すさまじい叫び声が、真後ろから聞こえた。
ものすごい近さで、化け物鳥の、くさい息のにおいまでした。
あまりの近さに、ぎょっとしたせいで、マッサは、思わず、抱きかかえていたブルーを、腕から落としてしまった！
「ああっ！」
ブルーの、白いふさふさの体が、地面を転がっていく。
マッサは、一瞬、迷った。
ブルーを見捨てて、自分だけ、穴にとびこめば、自分だけは、助かる。
でも、それは、嫌だった。
せっかく仲良くなって、名前までつけてあげたブルーが、化け物鳥に食べられてしまうなんて、そんなの、ぜったいに嫌だ！
「ブルー！」
マッサは、おにごっこで、鬼をかわすときみたいに、ぎゅんっ！ と急カーブで曲がった。
化け物鳥の真横を、すりぬけながら、思いっきり手を伸ばして、気絶したままのブルーの体を、地面から、ひっつかんで、そのまま、全速力で反対方向に走った。
マッサたちを、頭からかじろうとして、ガチーンと口をとじた化け物鳥は、攻撃をから振りして、勢いあまって、そのまま、ドカーン！ と、穴のある木にぶつかった。
メリッ……メリメリ……メリメリ……
穴のある木が、大きくゆれて、その根元から、メリメリと、不吉な音が聞こえてきた。
「えっ？」
その音を聞いたマッサは、逃げるのも忘れて、思わず立ち止まり、振り返った。
メリメリって……何の音だ？
まさか……
ギャオオオオオオン！
すごい勢いで、穴のある木にぶつかった化け物鳥は、かなり痛かったんだろう、ものすごく怒っていた。
大声で吠えると、八つ当たりするみたいに、ドシーン！ と、もう一度、穴のある木に、体当たりした。
メリメリメリ……メリメリメリメリッ！
あの音が、ますます大きくなって、穴のある木が、ゆっくりと、横向きに、倒れ始めた。
「ええっ！？」
マッサが、叫んで、どうにもできずに見つめるうちに、穴のある木は、どんどん、大きくかたむいて、ついに、バッキーン！ と根元から折れて、ドッシーン！ と、地響きをたてて、地面に倒れてしまった。
「うそだ！」
マッサは、化け物鳥が怖いことも忘れて、思わず、折れた木のところに駆け寄った。
「あかずの間」につながる穴が、あったはずの場所を見て、マッサは、お腹の底から、ぞうっとした。
そこには、もう、穴は、なかった。
木が、ちょうど、穴があったところで、ぼっきりと折れて、あの魔法の穴は、消えてしまっていた。
マッサは、家に、帰れなくなってしまったのだ！
