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マッサとブルー、伝える

「じゃあ、ボルドン、よろしくお願いします!」


 ボルドンの広い背中によじ登り、しっかりと毛皮につかまりながら、マッサは言った。


『よろしくおねがいします!』


 と、リュックサックの中から、ブルーも言った。

 ブルーは、ついさっき、リュックサックの中からはい出したばかりだったけど、また、リュックサックの中に逆戻りしている。

 月の光はあるけれど、あたりは、かなり暗い。

 それに、ものすごく険しい斜面だ。

 もしも、ボルドンが走る勢いで、ブルーが転がり落ちてしまったら、大変なことになる。


『グオッ、ウオッ、グオーッ。』


 しっかり、つかまっておけよ。

 そう言うが早いか、たちまち、ボルドンはぐぅっと体を沈めて、次の瞬間、ばーんと飛び出し、険しい斜面を風のように駆けおりはじめた!


「ぬっぐぐぐぐぐぐーっ!?」


 朝、川辺を走ったときのように、マッサは歯を食いしばりながら、必死にボルドンの毛皮につかまり続けた。

 川辺を走ったときは、ある程度、平らな場所だったけど、今回は、ものすごい下り坂を、猛スピードで駆け下りている。

 何度も、体が、空宙に浮きあがりそうになった。

 ジェットコースターが急降下するとき、お腹がふわぁっとするのが、ずうっと続くみたいな感じだ。

 しかも、安全ベルトは、どこにもついていない。

 ボルドンの毛皮にしがみつく、自分の両手の力だけが頼りだ。


『ブルルルルッ! ブルルルルッ! ブルルルルーッ!』


 と、背中のリュックサックの中から、ブルーの声が聞こえてくる。

 リュックサックの中にいれば、確かに、落っこちる心配はないけど、まわりの様子が全然分からないから、それはそれで、すっごく怖いだろう。


(がんばれ、ブルー!)


 と、マッサが心の中で応援したとき、


『ウォーフ!』


 と、ボルドンが吠えて、その響きが、ボルドンの広い背中全体から、びりびりっと伝わってきた。

 でも、ウォーフ! って、いったいどういう意味だろう――?


『ブルルルルッ! とぶ! って、なに!?』


「えっ?」


 ブルーの言葉に、マッサが、思わず聞き返したとき――

 ばーん! と四本の足で地面を蹴って、ボルドンが飛んだ。

 そこは、真下に向かって落ち込む、崖のふちだった。

 ボルドンは、その崖から、いきなり、飛び降りたんだ!


(わぁああああぁーっ!?)


 と、マッサは、悲鳴を上げたかったけど、一言も声は出なかった。

 その瞬間、マッサの両手の指は、自分の手じゃないんじゃないかと思うくらいのすばやさと力強さで、ぎゅーっとボルドンの毛皮をつかみ、おかげで、マッサは、吹っ飛ばされずにすんだ。

 命の危険を感じたときの、人間の反射神経というのは、すごいものだ――


 ばふーん!


「おえ!!」


 ものすごく長い時間に感じたけど、実際には、落っこちていたのは、ほんの一瞬のことだった。

 ボルドンが、四本の足で、下の地面に着地して、マッサは、ボルドンの背中の毛皮に、むぎゅうーっと押しつけられた。

 もうちょっとで、クッキーみたいに平べったくなっちゃうんじゃないかと思ったくらいだ。


「ブルー! ブルー、大丈夫?」


『むぎゅうううううう。』


 リュックサックの中から、ブルーの平べったいうなり声が聞こえてきた。

 とりあえず、無事といえば、無事みたいだ。

 ボルドンはといえば、この巨大な体で、あんな高さから、魔法も使わずに飛び降りたのに、何のダメージも受けていないようだった。

 谷底の道を、すぐに走り出した。

 両側に険しい崖がそそり立つ、谷底の道を、しばらく走っていくと、急に視界がぱっと開けて、月あかりに照らされた、広場のような場所に出た。

 そこには、ボルドンのお父さんを先頭に、たくさんのイワクイグマたちが集まっていた。

 とうとう、イワクイグマの一族のすみかに着いたんだ。

 ボルドンが立ち止まり、ぐうっと、体を傾けて、低くしてくれた。

 マッサは、ボルドンの背中から、地面に滑りおり、一瞬、おっとっと、とよろけたけど、すぐに、しゃっきりと立った。

 そして、のしのしと集まってきたイワクイグマたちの真ん中に、勇気をふるって、まっすぐに歩いていき、


「ぐおおおおおおーっ!」


 と、両手を振り上げて、叫んだ。

 イワクイグマたちは、一瞬、びっくりしたように顔を見合わせたけど、すぐに、


『グオオオオオオーッ!』


『グオオオオオーッ!』


 と、マッサと同じポーズをして、口々に吠えた。

 何も知らない人が見たら、小さな男の子を、恐ろしい熊たちが取り囲んで、今にも襲おうとしている! と思っただろう。

 でも、実際は、マッサが、イワクイグマたちに、こんばんはーっ! と言って、イワクイグマたちも、こんばんはーっ! と、あいさつを返しただけだった。


「えー、イワクイグマの一族のみなさん! ぼくの名前は、マッサファールです。でも、友達からは、マッサ、って呼ばれています。ぼくは、人間と、イワクイグマとの、仲直りのために、ここに来ました! ……あっ、そして、今、リュックサックから出てきたのが、ブルーです。イヌネコネズミウサギリスっていう、珍しい生き物で、ぼくの友達です! ……さあ、ブルー、通訳をお願い!」


『ブルルルルッ……わかった!』


 白い体を、ぶるぶるぶるっと振って、気合いを入れたブルーは、マッサの言葉を、熊語になおして、イワクイグマたちに伝えた。

 ボルドンや、ボルドンのお父さんたちが、さきに、一族のみんなに、だいたいのことを説明してくれていたんだろう。

 集まった熊たちは、大きな頭を、うんうん、と頷かせながら、聞いている。


「ぼくは、あれから、《赤いオオカミ》隊――これまで、あなたたちと戦っていた人間たちのところへ行って、いろんなことを、全部、説明しました! 人間たちは、あなたたちが、最初、あいさつしただけだったことが分かって、間違えて攻撃しちゃったなーと、反省しています。そして、あなたたちに、謝りたいと言っています。そうして、これからは、戦いをやめて、あなたたちと、仲良くしたい、と言っています!」


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