マッサとブルー、眠る
《赤いオオカミ》隊の戦士たちは、顔を見合わせた。
「王子のおっしゃることが、本当だとすると……俺たちは、間違って、熊を攻撃してしまった、ってことか?」
「だから、熊は、怒って、俺たちを襲うようになったのか?」
「そういうことなんです。」
マッサは、大きく頷いた。
「熊と人間の戦いは、実は、全然、意味のない戦いだったんです! お互いに、勘違いしちゃって、仲が悪くなっただけだったんです。だから、今からでも、戦いをやめたほうがいいと、ぼくは思います。」
「ううむ。」
と、《赤いオオカミ》隊の隊長が唸った。
「しかし、王子。戦いは、もう、十年ものあいだ続いてきたのです。今さら、戦いをやめようとしたって、手遅れではありませんか? これまで、お互いに、何人も、けが人が出ている。これまでの恨みをわすれて、急に、仲良くするなんてことは、できないのでは?」
「でも、ここで戦いをやめなかったら、これからも、もっと、けが人が出たり、もっと、仲が悪くなったりするんですよ。もともと意味のない戦いだった、ってことが、せっかく分かったのに、それを続けようとするなんて、もっと、もっと意味がないことだと思いますけど。」
マッサは、戦士たちの顔を見回した。
《赤いオオカミ》隊の戦士たちは、みんな、しばらくは口もきかず、黙りこんだままで考えていた。
やがて、《赤いオオカミ》隊の隊長が、ゆっくりと口を開いた。
「王子のおっしゃる通りだ。王子が、偶然、旅の途中でここに立ち寄られたことは、運命だったのかもしれん。ずっと続いてきた戦いをやめるチャンスは、今しかない。」
「でも、隊長!」
と、《赤いオオカミ》隊の戦士たちは、口々に言った。
「こっちが、急に、戦いをやめようと言ったからって、熊のほうが、それを認めるとは思えませんよ。」
「そうですよ。これまで、ずっと戦ってきた相手なんですから……」
「熊たちは、こっちに恨みを持っているはずです。熊たちが、はいそうですかと言って、戦いをやめるとは、とても思えません。」
「第一、戦いをやめたいってことを、どうやって、相手に伝えるんです?」
『ぼくが、つうやくする!』
ぴょんと前に飛び出して、ブルーが言った。
『くまと、にんげんのはなし、ぼくが、つうやくする。そして、みんな、ともだち!』
「熊たちは、人間が、最初にいきなり攻撃したことを謝ってくれたら、戦いをやめてもいい、と言っているんです。」
ブルーのあとから、マッサも言った。
「みなさんが、熊たちと、平和のための話し合いをしたいと思ってくれるなら、ぼくが、あいだに入って、話し合いがうまくいくように、がんばります! ぼくは、空を飛ぶ魔法が使えるから、ここと、熊たちのすみかのあいだを、行ったり来たりして、お互いの話を伝えることができます。どうですか?」
「そういうことなら……」
《赤いオオカミ》隊の隊長が言った。
「王子に、すべて、お任せします。平和のための話し合いがうまくいくように、とりはからってください。」
「任せてください!」
マッサは、はりきって胸を叩いた。
とうとう、熊と人間との話し合いが、実現に向かって、動き出したんだ!
「じゃあ、そういうことで……」
「……って、おい、マッサ!? 何してるんだよっ!?」
ディールが、驚いて叫んだ。
マッサが、いきなり、荷物の中から毛布を出して、広げて、その上に寝転がって、昼寝をしようとしはじめたからだ。
「今、やっと、話がまとまったところだろうがっ! それなのに、肝心のおまえが、いきなり寝ちゃって、どうすんだ!?」
「ぼく、川からブルーを助けるために、めちゃくちゃ速く飛んだから、魔法の力を出しきっちゃったんだ。」
マッサは、できるだけはやく寝ようと、横になって目を閉じたまま、言った。
それを聞いて、それまで黙っていたフレイオが、
「なるほど。」
と、ぽんと手を打った。
「魔法の力を、一度使いきってしまうと、いったん、ぐっすり眠って休まなくては、力が戻りません。熊たちのところへ飛んでいくために、今は眠って、力をたくわえようとしているんですね。」
「うん、そういうこと……ボルドンとの待ち合わせが、今晩、月が一番高くのぼるときだから、それまでに、しっかり寝て、力を戻さなきゃ……おやすみなさーい。」
「そういうことでしたか。」
《赤いオオカミ》隊の隊長が、納得したように、大きくうなずいて、言った。
「それなら、こんなところじゃなく、寝るための部屋をお使いください。あそこなら、枯れ葉のベッドがありますから……」
こうして、マッサは、もともと泊まらせてもらっていた洞窟の部屋に戻って、いいにおいのする枯れ葉のベッドの上に横になった。
マッサといっしょに、通訳の仕事をする予定のブルーも、マッサのとなりに、くっついて丸くなった。
こうして、マッサとブルーは、夜の大仕事に備えて、ぐっすりと眠りこんだのだった。