マッサと、空からきた化け物
おじいちゃんが、嘘をついた理由を、よーく考えてみたマッサは、
(ははーん。)
と、なんとなく、分かったような気がした。
(おじいちゃんは、この秘密を知ってたけど、ぼくに、このことを教えたら、ぼくが、夢中になっちゃって、学校の宿題とかを、全然しなくなるかもしれないと思って、ないしょにしてたんだな。あの宝箱だって、ぼくが見つけたら、きっと、夢中になると思って……)
「あっ。」
宝箱のことを考えたマッサは、ふと、自分が、あの緑色の宝石のついた首飾りを、首からぶら下げたままだったことを思い出して、立ち止まった。
マッサが、緑色の宝石を持ち上げると、肩の上から、のぞきこんできたブルーが、
『それ、おいしいの?』
と、きいた。
「これは、食べ物じゃなくて、宝石だよ。ほ・う・せ・き。宝物だよ。」
マッサが説明すると、ブルーは、しばらく、あやしそうに宝石を見ていた。
そして、急にぱっと手を出して、宝石をつかむと、りんごみたいに、かじろうとした。
カチーン!
『しびびびびび。』
かたい、澄んだ音がして、ブルーは歯をおさえて、リュックサックの上に引っくり返ってしまった。
かたいものを噛んでしまって、歯がしびれたんだ。
「だめだよ、ブルー! 歯が折れちゃうよ!」
マッサは、あわてて、緑色の宝石を取り上げた。
木の幹でも、がりがりかじることができる、ブルーのするどい歯が当たったのに、まるい宝石の表面には、きずひとつ、ついていなかった。
「これは、服の下に、入れておこうっと。」
マッサは、緑色の宝石の首飾りを、シャツの下に入れて、胸にかけておくことにした。
こうしておけば、ブルーがかじろうとする心配もないし、どこかにひっかかって、鎖がちぎれてしまう、という危険もない。
ブルーに口を開けてもらって、どこも歯が折れていないことをたしかめたマッサは、また、元気よく歩き出した。
しばらく進むと、今までよりも、あたりが、ちょっとずつ明るくなってきた。
あたりに生えている木が、だんだん、まばらになってきた。
マッサとブルーは、ちょうど、森がおしまいになるところに出てきたのだ。
(森の外は、どんな場所なんだろう? 村や、町があるのかな? それとも、道があって、どこかに続いてるのかな? だれか、人が歩いていたり、ほかの動物がいたりするのかな?)
マッサは、そう考えて、胸がドキドキしてきた。
とうとう、森が終わって、マッサとブルーは、青い空の下に出た。
「うわぁーっ!!」
マッサは、広がる景色を見て、おもわず、叫んでしまった。
マッサたちの目の前に広がっていたのは、はしからはしまで、全部、見渡すかぎりの、大草原だった!
マッサたちが立っている、森のところは、まわりよりも少し高くなっていたので、けしきが本当によく見えた。
見わたすかぎりの地面が、緑色の草におおわれていて、ところどころ、地面が高くなったり、低くなったりしている。
あちこちに、小さな池があったり、小川が流れていたりして、それが、太陽の光をうけて、キラッ、キラッと光っていた。
「すごいや! きれいな景色だなあ! ……でも、なんだか、すごく、しずかだな。」
マッサは、そうつぶやいた。
ここから見るかぎり、家や、そのほかの建物は、一軒も見えなかった。
道らしいものも、どこにもなかった。
歩いている人や、動物の姿も、ひとつもなかった。
なんだ、ちょっとつまらないな、と、マッサが思った、そのときだ。
「いたたた! いたい、いたい!」
急に、ブルーが、マッサの髪の毛を掴んで、ぴっぴっぴっぴっ! と、勢いよく引っ張ってきたのだ。
「なんだよ、ブルー! 急に、髪の毛をひっぱらないでよ! いたいだろ!?」
『……あれ、なに?』
ブルーは、小さな声で言った。
その声と、マッサの髪の毛をつかんだままのちっちゃな手は、少し、ふるえているようだった。
「あれ、って?」
マッサは、ブルーが何を言ってるのか、よく分からなかったので、首をひねって、背中のリュックサックにのっているブルーの顔を見た。
ブルーは、マッサの顔を見ていなかった。
マッサの髪の毛を、ぎゅっと握りしめたまま、空のほうを、じっと見上げていた。
「空?」
マッサも、ブルーと同じように、上を見上げてみた。
何も、いない。
雲ひとつなく晴れた、真っ青な空が広がっているだけだ。
……いや……?
「んっ?」
マッサは、空を見上げたまま、顔を突き出し、目を細くした。
気のせいかな? あそこに、何か……
青い空の中に、一か所だけ、小さな、黒い点みたいなものが見える。
しかも、その点は、何だか、だんだん、大きくなってくるようだった。
「えっ、何、あれ……えっ……!?」
『マッサ!』
それが何なのか、先に気付いて、悲鳴を上げたのは、ブルーだった。
どんどん、どんどん、大きくなってきた、黒い点――
それは、黒い点なんかじゃなかった。
黒い、鳥だった。
いや、鳥でもない。
翼の形が、コウモリみたいだ。
ぐわっと開いた口には、ワニみたいに、鋭い牙がびっしり生えていた。
そして、大きさは、マッサの体の、10倍くらいあった!
「うわああああああ!」
化け物みたいに大きな鳥が、自分たちのほうに急降下してきているんだ、と気付いて、マッサは、ものすごい悲鳴をあげて、その場を飛びのいた。
バサバサバサーッ!
ぎりぎりのところで、マッサがとびのいたので、化け物鳥は、ガチーンと牙をから振りして、地面に、ドスーンと両脚で着地した。
そいつが羽ばたくと、ものすごくくさいにおいの風が巻き起こり、マッサは、地面に吹き倒されてしまった。
ブルーは、あんまり、こわすぎて、
『ブルルルルルッ。』
と、いったかと思うと、マッサのリュックサックの上で、ぱったり、気絶してしまった。
「ブルー!」
気絶して地面におっこちたブルーの体を、マッサは、ひっつかんで、走って逃げだした。
後ろから、バサバサと羽ばたきながら追いかけてきた化け物鳥が、マッサにかみつこうとして、ガチーン! と、牙をから振りした。
あんなものに、かまれたら、からだが、おなかのところで、まっぷたつにちぎれてしまう!
「たすけてえええええ!」
マッサは叫びながら、全速力で、元来た、森の中に逃げ込んでいった。