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マッサ、全力をふりしぼる

「ブルー!」


 叫んで、マッサは、空中でさっと身をひるがえした。

 すぐそばの崖の上から、鎧を着た猿たちがびゅんびゅんと矢を放っているのが見えた。

 岸辺のみんなが、慌てて荷物や木のかげに飛び込んで身を隠し、フレイオが、猿たちに向かって、ゴオーッと魔法の火を放つのが見えた。


 みんなのことは、確かに心配だ。

 でも、今、ブルーを助けることができるのは、ぼくしかいない!


「ブルー! 今、助けるからねっ!」


 マッサは、流されていくブルーを、猛スピードで飛んで追いかけはじめた。

 でも、川の流れは激しい。

 ブルーの小さな白い体は、あっという間に流されていく。

 小さな滝のようになっているところを通り、ぐうんと大きくカーブするところを通り、大きな岩がいくつも並んでいるところを通り過ぎた。


『マッサー! ……ゴボボ。』


 一瞬、ブルーの声が聞こえたと思うと、ブルーの体は大きな渦に飲み込まれて、見えなくなってしまった。


「ブルー! ブルー!」


 マッサは必死に呼びながら、しぶきの立つ川の水面すれすれをかすめて飛んだ。

 飛びながら、ブルーの白い体がどこかに見えないか、目を皿のようにして探した。

 はやく、水の中から助け出してあげないと、ブルーが溺れて、死んでしまう!


『プハァッ!』


「あっ! ブルー! やった!」


 マッサは、飛びながら思わず叫んだ。

 少し先に、ブルーの小さな頭が、ぽっかりと浮かびあがったんだ。

 ブルーは、犬かきみたいに、必死に手足を動かして、何とか水の上に顔を出して、息をしようとしていた。


「待って……もうすぐ……!」


 マッサは、ぐうっと力をこめて、心の中で叫んだ。


(タカのように、速く! もっと、もっと、もっと、速く飛べーっ!)


 マッサの気持ちが、そのまま魔法の力に変わる。

 飛ぶスピードが、ぐうんと上がった。

 両側の川岸に生えている木が、全部後ろに吹っ飛んでいくように見えるくらいの速さだ。


 流されていくブルーの体に、どんどん追いついていく。

 もうちょっと……もう少し……

 あと、ほんのちょっとで、手が届くぞ!


「うおおおおっ!」


 マッサは、まるでディールみたいな雄叫びをあげながら、思いっきり片手を伸ばして水に突っ込み、ざばーっ! と、ブルーをすくい上げた!


「やったあー! ……あ、あ……? あああぁぁっ!?」


 ブルーを助けることができた、次の瞬間、飛び続けているマッサの体が、がくんと下がった。

 何だっ!? と思っているうちに、また、がくがくっ、と下がった。

 もう、マッサ自身の体が、水面についてしまいそうだ!


 これまでは、ブルーを助けることだけに集中しすぎて、全然、気付いていなかったけれど、マッサは、これほどの時間、これほどの距離を、これほどのスピードを出して飛んだことは、今までなかった。

 地面の上を足で走るときだって、長い距離を、全速力で走れば、疲れ果てて、いつかは止まってしまう。

 飛ぶときも、それと同じだった。

 魔法の力を使いすぎれば、やがて疲れ果てて、そのうち、墜落してしまうんだ!


「うわーっ! だめだめだめ! まだ、もうちょっと……まだだめ! まだだめ! うおおおお!」


 マッサは、大声で叫んで最後の気合いをふりしぼり、水面すれすれを、へろへろへろーっと飛んで、危ないところで、地面の上まで飛んで、


「もう、だめだーっ!」


 と、ブルーと一緒に、川岸の、小石がごろごろしているところへ、どさっ! と落っこちた。


「……ブルー! ブルー、大丈夫?」


『ゲホッ、ゲホッ、ゴホッ! ブルルルルッ! みず、こわい!』


 ブルーが叫んで、ぶるぶるぶるぶるっ! と体を振って、白い毛から水を振り飛ばした。

 その水は、ほとんど全部マッサの顔にかかったけど、


「ああ、よかったー! ごめんね、ブルー、君を落っことしたりして……ほんとにごめん!」


 マッサは、まだしめっているブルーの毛で服がぬれるのも構わずに、ブルーを抱き上げて、抱きしめた。

 大切な友達で仲間のブルーが、自分のせいで、溺れて死んじゃったりしていたら、自分で自分をぜったい許せないだろうと、マッサは思った。

 こうしてブルーを助けることができて、本当によかった!


『マッサ、ここ、どこ?』


「えっ? さあ……」


 何しろ、ブルーを追いかけるのに必死だったから、どれくらい飛んできたかなんて、全然覚えていない。

 でも、とにかく、この川の流れをたどってきたことだけは絶対に間違いないんだから、また、この川の流れをたどっていけば、元の場所に戻ることはできるだろう。

 そうだ、一刻もはやく戻らないと、猿たちに襲われたガーベラ隊長たちが、危ないかもしれない!


「よし、行くぞ!

 タカのように速く

 ヒバリのように高く

 竜のように強く――

 飛べっ!」


 マッサは唱えて、勢いよくジャンプし、


「……あれっ!?」


 一瞬だけ、空中に止まったけど、すぐに、ぷっすん、という感じで力が抜けて、着地してしまった。


『あれ! マッサ、おっこちた! とべなくなっちゃった!』


「ほ、ほんとだ……えっ、どうして……!?」


 そうか。

 きっと、さっき、魔法の力を出し切ってしまったせいだ。

 体力と同じで、一度、しっかり休憩しないと、魔法の力も、元に戻らないのかもしれない。


 大変だ。

 だって、マッサがここにいるということは、当然《守り石》もここにあるということだ。

 それは、大量の矢が、びゅんびゅん飛んできても、残ったみんなを守るものがないっていうことだ!


「ああっ、どうしよう! ぼくたち、こんなところにいる場合じゃないのに!」


 ブルーもそうだけど、残してきたみんなも、もちろん大切な友達、仲間だ。

 ぼくたちが、ここでぐずぐずしているあいだに、みんなが、やられちゃってたらどうしよう!

 心配と、焦りのあまりに、マッサがパニックを起こしそうになったときだ。


 ゴフゥゥゥーッ……


 ものすごく大きな袋からゆっくりと空気が抜けるときみたいな、長く、低い物音が聞こえた。

 その音は、マッサとブルーの、ちょうど真後ろから聞こえてきたのだった。


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