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大事件、起こる

 いよいよ、みんなの綱渡り――じゃなくて、川渡りが始まった。


「よっ、よっ、よっ……と。よし! 荷物さえなけりゃ、楽なもんだぜ。」


 腕の高さに張られたロープを手掛かりにしながら、まずは、ディールが、向こう岸まで渡ることができた。

 荷物は、せおっていないけど、自分の槍だけは、しっかり背中にかついでいる。


「隊長! こつは、体をぐらぐらさせねえことです。ロープに、真上から乗っかるつもりで、まっすぐ体重をかけていれば、大丈夫ですぜ。」


「真上から、まっすぐ、だな。よし、分かった。」


 そう言って、ガーベラ隊長も、自分の槍をせおい、すり足で、慎重に、ロープを渡っていった。

 とちゅう、一回だけ、


「おおっとぉ!」


 と、大きく後ろに体が傾き、みんなが「うわーっ!」と叫んだけれど、


「ふんっ!」


 と、ガーベラ隊長は、鍛えた腹筋で、ぐうんと起き上がって、元の体勢に戻った。

 そして、あとは何事もなく、するすると、向こう岸までたどり着いた。


「では、フレイオさん! 気をつけて来てください。」


「ええ、もちろん。」


 フレイオは、真剣な顔でロープを握りしめ、そろーっと、片足を、川の上のロープに乗せた。


「ああ、なるほど。これくらいの、たわみ具合ですか。」


 そして、そろーっと、もう片方の足も、川の上のロープに乗せた。


「なるほどね。ははあ、こういう感じですか……だんだん、分かってきましたよ。」


「……あのな。そんなところで、いつまでも、ぶつぶつ言ってねえで、さっさと渡ってこいよ。」


 ディールが、呆れたように言った。


「ていうか、おまえ、飛ぶ魔法、使えねえのかよ!?」


「魔法……飛ぶ魔法ね。……魔法使いでない者には、分からないことでしょうが、魔法を見につけるには、生まれつきの素質、向き不向きというものがあって……」


「……要するに、おまえは、飛ぶ魔法は使えないんだな。」


「私の魔法は、炎に関係のあるものばかりです。炎の魔法ならば、誰にも負けない。たとえ王子にでもね。」


「いや、マッサがどうとかは、今は関係ねえ……っていうか、遅えぞ!? カタツムリか、おまえはっ!」


 フレイオがロープを渡っていくスピードは、ディールやガーベラ隊長のスピードの、十分の一くらいだった。

 しっかり握りしめた手を、ちょこちょこ、ちょこちょこ、と横に滑らせながら、足も、ちょこちょこ、ちょこちょこ、と、本当にちょっとずつ動かしていくからだ。


「もしかして……おまえ、こんな簡単な綱渡りが怖いのかよっ!?」


「怖くなんか、ありません。」


 きっとして、フレイオは言ったけど、よくよく見ると、その手や足は、ぷるぷる震えていた。


「私は、深い水というものが、嫌いなんです。雨くらいなら、まだいいが、深い水にはまったら、私の中で燃えている《炎食い》の命の火が、消えてしまうかもしれない。」


「それって、つまり、怖いってことじゃねえかよっ! やーい、やーい。」


 いじめっ子みたいに、はやし立てたディールを、


「ばか者っ!」


 と、ガーベラ隊長が、げんこつで、ごん! と叩いた。


「いでぇっ!? 何するんです、隊長!」


「何をする、とは、こっちのせりふだ! 仲間が、がんばって川を渡ろうとしているのを、応援するどころか、要らないことを言って邪魔するとは、どういうことだ! この、大ばか者めっ!」


 ごちん!


「あ痛っ!」


 ディールが、もう一回、げんこつを食らっているあいだに、フレイオは、どうにかこうにか、無事に向こう岸まで渡り切った。


「では、みなさんの荷物を、そっちに投げまーす!」


 緊張がとけて、フレイオが向こう岸に座りこんでいるあいだに、こっちの岸では、タータさんが、四本の腕をぐるぐる回しながら、元気よく言った。


「まずは、ガーベラ隊長と、ディールさんの荷物です!」


「ふたつ、いっぺんにかよっ!? おい、待て、そんなんで、ちゃんと狙いが――」


 自分の頭を痛そうになでていたディールが、青ざめて叫ぶと同時に、


「行っきまーす!」


 二人の荷物を、二本ずつの手でつかんだタータさんが、砲丸投げの選手みたいに、ぐるぐるーんと体を回転させて、


「おりゃ、おりゃあーっ!」


 と、連続で投げ飛ばした!

 ふたつの大きな荷物は、びゅんびゅーん! と空を飛んで、狙いどおり、生い茂ったしげみの上に、どさどさっ! と落ちた。


「よし、うまくいきました! 次は、フレイオさんの荷物と――」


「ちょっと、待って!」


 へたり込んでいたフレイオが、慌てて立ち上がり、タータさんに手を振った。


「その荷物は、茂みに投げてはいけない! 中に、貴重な本が、何冊も入っている。ページが破れたりしたら大変だ。私が受け止めるから、私のところに投げてください!」


「分かりました! じゃ、行きますよ。そーれっ!」


 タータさんが、うまく力加減をして投げた荷物を、フレイオは、ぼふっ! とナイスキャッチ――したのは良かったんだけど、勢い余って、そのまま引っくり返ってしまった。

 タータさんは、続いて、マッサの荷物と、自分の荷物も、ぽんぽんぽーんと軽く向こう岸に投げると、


「では、マッサ、お先に! この結び目は、ロープのここと、ここを持って、反対方向に引っ張れば、ほどけるようになっていますから、よろしくお願いしますね。」


 と言い残して、さささささーっと、まるで普通の道でも歩くような足取りで、ロープを渡っていった。

 マッサは、タータさんが結んでくれたロープを、言われた通りのやり方で、ぐいーっと引っ張ってみた。

 すると、これまで四人の大人が乗って渡っても、なんともなかったロープが、するっとほどけて、はずれた。

 使っているときには、絶対にほどけず、ほどきたいときには、するっとほどけるような、特別な結び方をしてあったんだ。

 さすがは、もともと木の上の家に住んでいたタータさんだ。

 ロープの扱いが、ものすごくうまい。


「じゃあ、これを持って、ブルーと一緒に、そっちに行きまーす!」


 マッサは、ほどいたロープのはしっこと、ブルーをいっしょに腕に抱きかかえて、あの言葉を唱えた。


「タカのように速く

 ヒバリのように高く

 竜のように強く――

 飛べっ!」


 マッサは、ふんわりと空中に浮かんで、みんなが待っている向こう岸に向かって、ふわふわ飛んでいった。

 よし、今で、半分を越えた。あと、もう少し――


 と、そのときだ!


 ヒュン、ヒュンヒュンヒュン!


 空気を切り裂く、鋭い音とともに、突然、何本もの矢がマッサたちに向かって飛んできた!


「うわあっ!?」


 体のすぐ近くを、矢がかすめて、マッサは思わず悲鳴をあげながら体をひねった。

 本当に命中しそうになったら、《守り石》が助けてくれるはずだけど、あまりにも突然のことすぎて、反射的に、びくっと体が動いたんだ。

 その結果、とんでもないことが起きた。


『ああっ!』


 小さな悲鳴があがった。

 ブルーの声だ!

 マッサは、ぎょっとして、自分の腕の中を見た。

 そこに、もう、ブルーはいなかった。

 マッサが慌てて体をひねったひょうしに、ブルーを抱きかかえていた腕がゆるんで、ブルーは、激しい川の流れの中に落っこちてしまったんだ!



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