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ディール、試してみる

「ああ、もう! さっきから、めんどくせえ野郎だな。やる前から、いちいち、文句をつけるなっての!」


 と、ディールが、またフレイオに怒り出した。


「せっかく、うまくいきそうな計画ができたってのによ。何でも、やってみなけりゃ、分からねえだろうが!」


「……では、ディール。ロープが張れたら、おまえが、最初に渡ってみるか?」


 フレイオが何か言い返す前に、ガーベラ隊長が、そう言った。


「『何でも、やってみなくては分からない』というのは、確かに、その通りだ。多分、仲間の中では、おまえが一番、体重があるだろう。荷物を背負ったおまえが渡り切れたら、あとは全員、大丈夫なはずだ。」


「おお、もちろん! やってやりますぜ。」


 ディールは、はりきって、屈伸をはじめた。

 重い荷物を背負って、ロープで川を渡るのと、屈伸は、あんまり関係ない気がするけどなあ……と、マッサは思った。

 ほんとに、大丈夫なのかな?


 ディールが体操をしているあいだに、隊長が、こっち側の岸辺に生えている木の幹に、ぎゅうぎゅう、ロープをくくりつけた。

 体重がかかっても大丈夫なように、ものすごく力をこめて、がっちり結んでいる。


「じゃあ、まずは、ぼくがあっちに飛んで、ロープを張ってきます!」


「王子、よろしくお願いします。」


『マッサ、がんばれ、がんばれ!』


「しっかり頼むぜ、マッサ! おまえが、びしっとロープを張ってくれねえと、俺が、ドボンと川に落ちることになっちまうからな。」


 みんなが口々に言うなか、マッサは、ロープの端を握って、


「タカのように速く

 ヒバリのように高く

 竜のように強く――

 飛べっ!」


 と唱えて、ふんわりと、空中に浮かび上がった。

 思ったとおり、ロープくらいの重さなら、持ったままでも、じゅうぶん飛べる。


「じゃあ、行ってきまーす!」


 マッサは、落ち着いて、ゆっくりと、向こう岸まで飛んでいった。


「王子、もうちょっと右です。……そう、そこです! そこで降りてください。」


 と、ガーベラ隊長が、元の岸辺で、ロープを送り出しながら、指示を出してくれる。


「一度、ロープを両手で持ち上げて、ぴんと張ってください。そう、そう……」


「ぐぐぐぐぐ。」


 マッサは、顔が真っ赤になるくらい力を入れて、ロープを引っ張った。

 ロープなんて軽いと思ったけど、持ち上げて、ぴーんと引っ張るとなると、けっこう力がいる。


「そうです! そのまま、そこに生えている木の幹に、ロープをきつく巻きつけて……そう、そう……ずり落ちてこないように、枝にひっかけて……」


 ガーベラ隊長の指示どおりに、マッサは、なんとかロープを木に巻きつけると、余っているロープの端を持って、元の岸辺まで、飛んで戻った。

 


「ありがとうございます、マッサ! はしっこを結ぶのは、わたしに任せてください。」


 タータさんがロープの端を受け取り、ぐいーっと引いて、ぴんと張ると、近くの木の幹に手早く結びつけた。

 これで、川の上に、ロープが二本――乗って渡る用のものと、手でつかんで体を支える用のものが、ちょうどいい高さに、それぞれ、ぴーんと張られた。


「よし! じゃあ、渡ってみるぜ!」


 自分の荷物をかついだディールが、さっそく、ロープをつかんだ。


「おっ、けっこう、しっかりしてるな。これなら行けそうだぜ。」


 みんなが見守る中、ディールは、片足を、そうっと川の上のロープに乗せた。

 ぎゅうっ、という音がして、ロープがたわんだ・・・・けど、水に着くほどではない。


「いよっ、と……」


 ディールは、両手でロープをしっかりと握りしめ、慎重に、もう一歩、横に進んで、川の上へと出た。

 その瞬間だ!


「うおおおっ!?」


 重い荷物のせいで、たちまちバランスが崩れて、ディールの体は、川の上で、後ろ向きに、ぎゅうーんと大きく傾いてしまった!


「お、起き上がれねえ! 落ちるー! 助けてくれー!」


「うわあ! ディールさん!?」


『ディール、かたむいちゃった! ひっくりかえっちゃった!』


 マッサとブルーが叫び、


「だから、言ったでしょうが。」


 フレイオが、呆れたように呟き、


「ディール、落ちるな! ロープから手を離すな、足も離すな!」


 ガーベラ隊長が叫んで、


「よいしょっと。」


 と、素早く駆け寄ったタータさんが、ディールの背負っている荷物をつかんで、ぐうーっと引っ張り上げて、元の体勢に戻した。

 ディールは、何とか、川の上から地面の上に戻ると、


「……だめだったぜ。荷物を担いだままじゃ、とても渡れねえ。」


 と言った。


「だから、言ったでしょうが。」


 と、フレイオが、さっきと同じことを言ったけど、ディールは、おでこの冷汗をふくばかりで、さすがに、何も言い返さなかった。


 でも、荷物をかついだままでは渡れないとなると、本当に、どうすればいいんだろう?

 せっかく、ここまで準備したのに――


「投げましょうか?」


「えっ?」


 タータさんの呟きに、マッサは、思わず聞き返した。

 でも、タータさんには聞こえなかったみたいだ。

 タータさんは、すたすたと歩いていくと、急に、そのあたりに転がっていた、一抱えもありそうな大きな岩を抱き上げ、


「ふーんっ!!」


 と言いながら、頭の上まで持ち上げ、


「うおおおおーっ!!」


 と叫びながら助走をつけると、四本の腕で、ぶおーん! と投げ飛ばした!

 岩は、びゅーん! と川の上を飛び越え、がっつーん! とものすごい音を立てて、向こう岸に落っこちた。


「よーし、いけました! みんなの荷物は、あの岩よりは、軽いですから、今みたいに投げれば、向こう岸に渡すことができますよ。そうだ、うまく狙って、あそこにある茂みの上に落とせば、枝がクッションになって、荷物の中身も守れるし……あれ? どうしたんですか、みなさん?」


「いや……」


 思わず静まり返っていたみんなを代表して、ちょっと青い顔をしたディールが言った。


「別に、何でもねえ。荷物を、向こう岸に渡す方法が見つかって、よかったぜ。」


 ディールは、それだけ言ったけど、たぶん、心の中では『タータさんだけは、何があっても絶対、怒らせないようにしよう!』と思っていたに違いない。

 もしも、怒ったタータさんに、あんなふうに投げ飛ばされたら、一発で、ぺっちゃんこになってしまうからだ。


「……よし! これで大丈夫だ。荷物がなけりゃ、簡単に渡れそうだぜ。」


 気を取り直して、あらためてロープに乗ってみたディールが、そう言い、


「それでは、ディール、私、フレイオさん、タータさんの順で、ロープを渡ることにしよう。」


 と、ガーベラ隊長が言った。


「すみませんが、タータさんは、みんなの荷物を投げてから、こっちに渡ってきてください。そして、王子は、最後に、ロープをほどいてから、ブルーを連れて、飛んできていただけますか。」


「分かりました! ……ブルー、ぼくが、抱っこして、びゅーんって飛んでいってあげるからね。」


『とぶ! ぼく、マッサといっしょに、とぶ!』


 ブルーも、やる気満々だ。

 よし、これで、いよいよ、川を渡ることができるぞ!


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