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マッサ、約束する

《赤いオオカミ》隊の人たちが用意してくれた食事は、大量の焼き魚に、いろんな色や形の木の実、そして、ちょっぴりのお肉が入ったスープだった。

 焼き魚やスープは、壁に、外とつながる空気穴のあいた、火を使う専用の部屋で調理をしてから、運ばれてきた。

 なにしろ、ここは洞窟の中の秘密基地だから、下手な場所で焚火をしたりしたら、洞窟の中が煙だらけになって、みんなが、息苦しさで倒れてしまう。

 さて、食べるものが、目の前にそろうと、


「いただきまーす!」


 みんなは、しばらくのあいだ、ものも言わずに、むしゃむしゃと食べた。


「肉は、なかなか手に入らない貴重品だ。そのスープは、しっかり味わって飲んでくれ。」


 と、《赤いオオカミ》隊の隊長が言った。


「狩りをするためには、かなり遠くまで行かなくちゃならんし、そうなると、猿どもや熊どもに襲われる危険があるからな。まあ、そのかわり、川が近いから、魚はいくらでもとれるんだが。」


「その、猿と熊のことですが。」


 と、ガーベラ隊長が言った。


「我々は、猿とは、すでに戦いました。キャンプをしていたら、襲ってきたので、みなで追い払ったのです。」


『ぼく、かみついた! がじがじーって! さる、にげた!』


 ブルーが、鋭い歯を見せながら、自慢そうに言った。


「なに! たったそれだけの人数で、やつらを追い払ってしまうとは、あなたがたは、とんでもなく強い戦士なのだな。見た目とちがって。」


「見た目と違って、は、余計だぜっ!」


 と、ディールが言って、


「いや、すまん、すまん。」


 と、《赤いオオカミ》隊の隊長が謝った。


「しかし、本当に、それだけの人数でやつらと互角以上に戦うというのは、すごいことだ。何しろ、あの猿どもは、普通の猿とは違って、あやしい魔法で生み出された、大魔王の手下なのだからな。普通の猿よりも、はるかに体が大きく、腕力も強いし、ずる賢いのだ。」


「やっぱり、あいつらは、大魔王の手下だったんだ!」


 マッサたちは、顔を見合わせた。


「えっ……それじゃあ、熊っていうのも、やっぱり大魔王の手下なんですか?」


「その通りです、王子。そして、熊は、猿よりも、もっと恐ろしいですぞ。」


《赤いオオカミ》隊の隊長が、重々しく言った。


「何しろ、体の大きさが、この基地の入口に詰まりそうなくらい巨大ですから。」


「ええっ!?」


 マッサたちは、ぎょっとした。

 秘密基地の入口は、背の高いタータさんでも、頭をぶつけずにすむし、四本の腕をぜんぶ広げても壁にさわらないくらい広かった。

 そこに、詰まっちゃうくらいだなんて……いったい、どれほど巨大な熊なんだ!?


「奴らは、あまりにも巨大で、凶暴なので、姿を見たら、すぐに逃げるしかありません。何しろ、子供の熊の、爪一本の長さだけで、王子の腕の、肘から先くらいはあります。大人の熊は、もっとでかい。腕の一振りで、ばーんとやられたら、盾なんか、持っていても関係ない。吹っ飛んで、岩に叩きつけられて、ぐちゃぐちゃになってしまいますよ。」


「うわあ……」


「十年前に、我らがこの山にやってきたときには、たびたび、熊との戦いが起こって、被害が出たものでしたが……最近では、熊どもは、山脈のもっと西のほうに引っ込んでいて、あまり姿を見ることもなくなりました。」


「そうなんですか? じゃあ、ぼくたちが旅を続けるときは、山脈の西のほうには、絶対、行かないほうがいいってことですね。」


「その通りです。猿どもに勝てる強さの持ち主であっても、熊相手では、とても、そうはいかない。熊は、猿よりは遥かに数が少ないですが、たとえ一頭でも、出くわしてしまったら大変なことになります。」


 マッサたちは、また、顔を見合わせた。

《赤いオオカミ》隊の隊長が、ここまで言うくらいだから、その熊たちというのは、相当、恐ろしい相手に違いない。


「……あれ? でも、前に聞いた話では、熊と猿は、お互いに戦ってるってことだったけど……どっちも、同じ大魔王の手下なのに、どうして、お互いに戦ってるんだろう?」


 マッサが言うと、《赤いオオカミ》隊の隊長は、さあ? という顔をした。


「奴らのあいだの事情は、我らには、よく分かりませんな。きっと、どちらも凶暴な連中ですから、仲間どうしでけんかをして、戦いになることも、よくあるのでしょう。」


「どうせなら、お互いにけんかをして、両方とも、勝手に全滅してくれりゃ、こっちは助かるのになあ。」


 と、ディールが言うと、《赤いオオカミ》隊の隊長も、うんうんと頷いた。


「まさに、その通りだ。我らの役目は、この山脈を安全にすること。その役目が終わるまでは、山をおりることができないのだ。猿どもと、熊どもの問題が片付きさえすれば、我らも、ここを出て、それぞれの家に帰れるのだが。」


「ああ、家に帰って、熱い風呂にゆっくり入りたい!」


「ばあちゃんの手作りシチューが食べたいなあ。ばあちゃん、元気にしてるかなあ……」


「親父やおふくろは、今頃、どうしてるんだろう……俺の手伝いがなくて、畑の仕事は、大丈夫かなあ。」


「恋人のリーナちゃんは、元気かなあ……俺がもう死んだと思って、他の男と結婚してたりしたら、どうしよう……」


《赤いオオカミ》隊の戦士たちは、口々にそう言うと、はあーっ……と暗い顔でため息をついて、黙りこんでしまった。

 みんな、髭をぼうぼう生やしているから、おじさんばっかりだと思っていたけど、こうして、よく見ると、意外と若い人も多い。

 戦争さえなければ、いろんな他の仕事をしたり、やりたいことをしたり、デートして結婚したりできたはずなのに、十年ものあいだ、この山脈で戦い続けないといけなくなっちゃったなんて、考えてみると、本当に気の毒だ。


「みなさん、安心してください!」


 落ち込んでしまった《赤いオオカミ》隊の戦士たちを元気づけようと、マッサは、できるだけ力強い声で言った。


「ぼくたちが、大魔王をやっつけますから! 大魔王を倒せば、きっと、大魔王の手下たちもばらばらになるから、そうしたら、みなさんも家に帰れますよ!」


「おお……!」


 マッサの言葉を聞いた《赤いオオカミ》隊の戦士たちは、笑顔になった。


「これは、頼もしい!」


「これまでは、いつ帰れるのか分からなかったが、王子が勝つまでの辛抱だと思えば、がんばれそうだ。」


「フサフサ……じゃないや、マッサファール王子、よろしくお願いします!」


「ええ、もちろん。任せてください!」


 うわあ、これはますます責任重大だぞ、と思いながら、マッサは、できるだけ自信ありげに頷いた。

 こうなったら、何が何でも、無事に北の島にたどり着いて、大魔王と対決して、やっつけなくちゃならない!


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