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マッサたちと《赤いオオカミ》隊

 マッサが名乗ると、一瞬、しーん、とした。

 一瞬だけ。


「な、なん、なん、何だってーっ!?」


 暗闇の向こうから、ものすごい叫び声があがったと思うと、がちゃがちゃがちゃがちゃっ! と足音を立てながら、大勢の人影がマッサのほうに駆け寄ってきた。

《守り石》の光に照らされた、その姿を見れば、鎧を着て、弓矢や剣や槍を持ったおじさんたちだ。

 ディールが、


「おいっ!? てめえら、マッサに手を出すと、容赦しねえぞ!」


 と怒鳴ってマッサの前に飛び出し、槍を構えたけど、


「……あれ?」


 走ってくるおじさんたちは、ディールのことを完全に無視して、その横を、どどどどーっと走り抜けた。

 そして、マッサのすぐ側まで来ると、立ち止まり、黙ったまま、マッサの顔と《守り石》を、じいーっと、穴が開きそうなくらい、真剣に見つめて――


「うおおおおおおっ!」


 次の瞬間、おじさんたちは、全員そろって、爆発のような歓声をあげた。


「《守り石》だ! 間違いない、本物だ!」


「信じられない! 本物の、王子さまだ!」


「亡くなってしまったという噂だったのに! 生きていらっしゃったんですね!?」


「あの頃は、赤ん坊でいらっしゃったのに……こんなに背も伸びて、立派になられて!」


「まさか、王子さまが、ここに来てくださるとはなあ!」


「王子さま、俺たちは、十年前から、ここで、ずっとがんばってたんですよ!」


 おじさんたちは、そう口々に言いながら、マッサの手をとって握手したり、マッサの肩をどんどん叩いたりした。


「……いったい、どういうことです? この者たちは、何者なのですか?」


 近づいてきて、小さな魔法のあかりを灯したフレイオが、わけがわからない、という顔をしながら呟く。


「……んっ!?」


 フレイオが灯したあかりに照らし出された、おじさんたちの姿を見て、ガーベラ隊長が目を見開いた。


「その、鎧かぶとの紋章! まさか……あなたがたは《赤いオオカミ》隊の方々では?」


「その通り!」


 ガーベラ隊長の声を聞いて、マッサの前にいた大柄なおじさんが、胸をはった。

 その鎧の胸元に、大きく口を開けて牙をむき出したオオカミの顔の紋章がついている。


「いかにも、我らは王国を守る《赤いオオカミ》隊の戦士。そして、俺が隊長だ。」


「なんと!」


 ガーベラ隊長が、珍しく、ものすごく驚いた様子で叫んだ。


「《赤いオオカミ》隊は、十年前の戦いで、全滅したと聞いていました。まさか、みなさんが、ここで生きていらっしゃったとは!」


「なに、我らが、全滅しただと? とんでもない。我らは、ちゃんとこうして生きている。我らは、十年前の大魔王との戦争のときから、ずっとこの《二つ頭のヘビ》山脈にいて、猿どもや、熊どもと戦い続けているのだ。」


「ええーっ!?」


 マッサは、驚きすぎて、思わず大声を出してしまった。

 こわい山賊かもしれない、大魔王の手下かもしれない、と思っていた相手が、実は、味方だったなんて!


「おいおいっ!? 何だよ、味方だったのかよ!」


 ディールが、呆れたように叫んだ。


「俺たちは、翼の騎士団《銀のタカ》隊だ。俺は、ディール。で、さっきから、あんたと喋ってるのが、ガーベラ隊長だぜ。」


「おお、女の隊長さんか。なるほど、なかなか強そうだな!」


「そちらこそ。」


 ガーベラ隊長は一瞬、にやりと笑って、でも、次の瞬間には真剣な顔になった。


「しかし、《赤いオオカミ》隊の隊長よ、先ほどは、なぜ、いきなりこちらを攻撃なさったのです? 王子の《守り石》があったから、よかったようなものの、危うく、味方どうしで傷つけあってしまうところでした。」


「本当に、その通りだ。もう少しで、取り返しのつかないことになるところだった。申し訳ない。」


《赤いオオカミ》隊の隊長は、かぶとを脱ぎ、マッサたちに向かって深々と頭を下げた。


「先ほども話した通り、我らは、もう十年のあいだ、ずっと、この山脈に住みついている猿どもや、熊どもと戦い続けている。あちこちの茂みの中に、見張りをひそませて、昼も、夜も、猿どもや熊どもの動きを監視している。今回は、その見張りたちから、この洞窟の中に、何者かが入っていったという報告があったので……」


「そうか! 暗かったから、ぼくたちのことを、猿と見間違えたんですね。」


 マッサの言葉に、《赤いオオカミ》隊の隊長は、面目なさそうにうなずいた。


「王子たちを、猿どもと勘違いするなど、本当に、何とお詫びを申したらよいか。何しろ、この山脈を旅する者など、この十年間、いたことがなかったので、これは猿どもに違いない、と思いこんでしまったのです。取り囲んでおいて、不意打ちを食らわせようと考えていたので、声もかけず、いきなり煙玉をうちこんで、矢を放ってしまいました……」


「やれやれ、気をつけろよ! マッサがいなかったら、どうなってたか分からねえぜ、まったく!」


 ディールが大声で文句を言って、《赤いオオカミ》隊の隊長が、すまなさそうに頭をかいた。


「いや、でも、まあ、誰もけがをしなかったんだから、もう気にしないでください。」


 マッサがそう言うと、《赤いオオカミ》隊の隊長は、ほっとした顔になった。


「そう言っていただけると、救われます。……そうだ、お詫びと言ってはなんですが、よろしければ、我らの基地においでください。ここからなら、歩いていけます。そこなら、守りのための防壁もありますし、我らの仲間が、交替で、とぎれることなく見張りをしています。そこでなら、こんな洞窟よりも、安心して休んでいただけるでしょう。」


「ああ、それは、本当にありがたいですねえ! みんなで、安心してぐっすり寝られるなんて、こんな素晴らしいことはないですよ。」


 タータさんが、嬉しそうに言った。

 そんなタータさんを、《赤いオオカミ》隊の隊長は、少し怪しむような目で、じろじろと見た。


「ところで、王子……こちらの方々は? 何やら、手が多かったり、体が光っていたり、喋るもじゃもじゃだったりと、ずいぶん、変わった様子をしていらっしゃるようですが。」


「ああ、はい、私、腕が四本あるんです。見ます?」


 と、タータさんは、にこにこしていたけど、フレイオは、


「は? 私の体が光っていることについて、何か、文句でも?」


 と、むっとした顔になり、ブルーは、


『ぼく、しゃべる! もじゃもじゃじゃない!』


 と、怒り出した。


「ここにいる人たちは、みんな、ぼくの大事な仲間です。」


 マッサは、はっきりと言った。


「ガーベラ隊長とディールさんの名前は、もう聞きましたよね。……腕が四本あるのは、タータさん。ひょろっとしてるけど、ものすごい力持ちです。……こっちの、体が光ってる人は、フレイオさん。《炎食い》の一族で、優秀な魔法使いです。」


ものすごく(・・・・・)優秀な、です。疑う人がいるなら、いつでも証拠をお見せしますよ。」


 横から、つんとして、フレイオが付け足した。


「そして、こっちが、ブルー。イヌネコネズミウサギリスっていう、珍しい生き物です。すごく優しいけど、怒ると、かみつきます。」


『ぼく、やさしい! でも、おこると、かむ!』


 ブルーは、カーッと口を開けて、鋭い歯を見せた。


「いやはや、これは、どうも失礼。」


《赤いオオカミ》隊の隊長は、きまり悪そうに、頭をかいた。


「では、マッサファール王子と、仲間の方々よ。今から、我らの基地へご案内します。どうぞ、ついてきてください!」


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