マッサたちと、鎧を着た猿
そのときだ!
「ウキャキャキャキャキャーッ!」
みんなが見ていた方向から、ものすごい叫び声が聞こえてきて、マッサは腰が抜けそうになった。
あれは――
猿の声だ!
ガチャガチャガチャガチャ!
「ウキャキャキャキャキャーッ!」
金属がぶつかり合う音と、叫び声が、あっという間に近づいてくる。
鎧を着た猿が、マッサたちに襲いかかってきたんだ!
でも、あたりは真っ暗だし、猿たちがどれくらいいるのかも、よく分からない。
このままでは、やられてしまう!
「うわあああ!」
マッサは、何をどうしたらいいか分からなくて、その場に座りこんでしまった。
でも、他のみんなは、違った。
「炎よ!」
ごおっ! と、オレンジ色の光があたりを照らし出した。
フレイオが突き出した片手から、魔法の炎が噴き出している。
炎に照らし出されたのは、岩みたいにごつい体に、とげとげのついた鎧かぶとで武装した、巨大な猿たちだ。
なんと、数え切れないくらいいる!
「ギャッ!?」
「ギャギャ、ギャーッ!」
猿たちは、急にまぶしい光に照らされて、混乱しているらしい。
そこへ、
「うおおおおおお!」
「こんのやろおおおおお! 夜中にうるせえ! 俺が、寝られねえだろうがああああ!」
ガーベラ隊長とディールが、槍を振り回し、雄叫びをあげながら突っ込んでいった!
「たぁーっ!」
「ギャッ!?」
「うおりゃあ!」
「ギャギャーッ!」
隊長とディールのものすごい勢いに、猿たちは慌てて後ずさった。
でも、数が違いすぎる。
猿たちは、槍が届かないところまで素早く下がって、じりじりと、こっちを取り囲むように回り込みはじめた。
「ふん!」
それを見たフレイオが、大きく手を振って、まるで小さな太陽みたいな炎のボールを、ぽーんと上に投げ上げた。
炎のボールは、空中にぴたりと止まって、あたりを明るく照らし出す。
みんなが戦えるように明かりを確保したフレイオは、
「炎よっ!」
あっという間に、戦いのど真ん中に飛び出して、魔法を使った。
ゴゴゴーッ!
「ウキャキャキャキャキャーッ!?」
猿たちは、お尻に火がついて、慌ててとびはねながら逃げ回った。
「すごい、フレイオさん!」
マッサが思わず叫んだ、そのときだ。
「ウキャアーッ!」
と叫びながら、巨大な剣を持った猿が、ドドドドド! と、マッサに向かって走ってきた!
「わあっ……!?」
これまでの旅のあいだに、もしも、戦いが起こったら、自分も、魔法で空を飛んで、剣で戦って、みんなを守ろう! と、マッサは思っていた。
でも、実際は、それどころじゃなかった。
魔法を使ったり、剣を抜いたりするどころか、手も、足も、かたまったみたいになってしまって、その場から一歩も動けない。
(だめだ!)
と、マッサが思わず目をつぶった、そのとき!
カァーン! と、ものすごい音がした。
えっ!? と思って、マッサが思わず目をあけると、目の前にあったのは、背の高い、ひょろっとした背中――
タータさんだ!
タータさんは、なんと、フライパンで、猿の攻撃を受け止めていた!
「ギャギャッ!?」
「いけません!」
何だと!? という顔をしている猿に、タータさんは、真剣に言った。
「人が寝ているときに、いきなり襲いかかるなんて、とんでもないことですよ! そんな、迷惑なことを、してはいけません!」
「ギャギャ! ギャギャ、ギャーッ!」
うるせえ! おまえら、やっちまえ! ……と、多分、その猿は言ったんだろう。
それを合図に、大勢の猿たちが、タータさんめがけて、一気に飛びかかってきた!
「タータさん!」
マッサが、思わず叫んで、飛び出そうとしたとき――
「あなたたち! いいかげんに、しなさああああああああぁい!」
とうとう怒ったタータさんが、目にも止まらぬ速さで、百連続パンチをくりだした!
ババババババババ!
「ギャギャギャギャギャーッ!」
とびかかってきた猿たちは、みんな、ばったり倒れて、のびてしまった。
そして、他にも、戦っている者がいた。
『えいっ!』
ガジ!
「ギャーッ!?」
『えい、えいっ!』
ガジガジッ!
「ギャギャーッ!?」
ブルーが、すごい速さで、猿たちの足元をちょろちょろちょろっ! と駆け回っては、猿たちの足の、鎧を着けていないところを、力いっぱい噛んでいる。
猿たちが怒って、ブルーを捕まえようとしても、ブルーはものすごく素早いから、全然、捕まらない。
逆に、怒ってブルーを追いかけた猿どうしが、前をよく見ていなくて、ごーん! と正面衝突して、ばったり、気絶してしまうこともあった。
「たあーっ!」
「おりゃああああっ!」
ブルーに混乱させられた猿たちを、ガーベラ隊長とディールが、槍で追い払う。
カンカンカーン! と、タータさんが、フライパンをおたまでカンカン叩いておどかしながら、猿たちを追いかけ回す。
ゴゴゴゴーッ! と、フレイオが、魔法の炎で猿たちのお尻を攻撃する。
「ギャギャギャ、ギャギャギャ、ギャーッ!」
これは、とてもかなわないと思ったんだろう。
鎧を着た猿たちは、のびてしまった仲間を抱え、全員、一目散に逃げていった。