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マッサ、寝て、起きる

「はあーっ……疲れたあ!」


 マッサは、荷物をおろして、お腹の底からそう言いながら、ばたんと、あおむけに寝転んだ。

 ここまでの旅で、けっこう歩いてきたけど、こんなに山登りをしたのは初めてだ。

 もう、今、めちゃくちゃ足がだるいし、痛い。

 太腿もぱんぱんだし、ふくらはぎも、自分で軽くぽんぽんと叩いただけで、いたたたた! と言っちゃうくらい、疲れがたまっている。


『ぷっしゅうううううう。』


 と、ブルーも、風船から空気が抜けるみたいな声を出して、マッサのとなりに、お腹を見せて、ぱたんと寝転んでしまった。


「今夜は、ここに泊まることにしよう。」


 ガーベラ隊長がそう言って、みんなは、岩のかげに、かんたんなテントをはった。

 マッサも、疲れた体をなんとか動かして、テントをはるのに協力した。


 寝る場所をできるだけ平らにして、薄い毛布をしいて、壁になる布の幕を、ロープを使って、近くの岩や茂みに結び付けて、ぴーんと張る。

 強い風で、ばさばさばさっ! と吹き飛ばされないように、大きめの石を持ってきて、おさえる。


 みんなが協力してテントをはっているあいだに、タータさんは、あたりをひょいひょいと歩き回って、食べられる木の実を集めたり、かちかちのビスケットと干し肉を並べたりして、晩ごはんの準備をととのえた。


「いただきます!」


 みんな、山登りで疲れていたから、もぐもぐもぐもぐ、黙って晩ごはんを食べた。


「うう……もう、だめだ。これ以上、目を開けていられねえ。」


「むやみに、駆け足で登ったりするからだぞ。」


 もう、半分以上、目を閉じかけているディールに、ガーベラ隊長が、呆れて言った。

 フレイオも、さすがに疲れたみたいで、座った姿勢のまま、こっくり、こっくりと、眠りこみそうになっている。


「じゃあ、私が最初の見張りをしますから、みんな、もう寝ましょう!」


 タータさんが、明るく言った。


「明日も、朝早くから、山登りをしなくちゃならないんですからね。よく寝て、体力を取り戻しましょう!」


「すまねえな……後で交替するから、起こしてくれ。」


 ディールはそう言って、ばたんと後ろ向きに引っくり返って、次の瞬間には、ぐうぐう寝てしまった。

 すると、ほとんど同時に、フレイオも、横向きにばたんと倒れた。

 マッサがびっくりして、近づいて様子をうかがうと、フレイオも、もう、寝息をたてて、ぐっすり眠っていた。


「この二人、どっちが長く起きていられるか、まだ、競争してたんですかねえ。」


 と、タータさんが呆れて言いながら、フレイオのきらきら輝く手や顔を、そっとマントで隠してあげた。

 

「おやすみなさい、タータさん、隊長。」


「はい、おやすみなさい。」


「おやすみなさい。」


 タータさんと隊長にあいさつをして、マッサも、自分のマントにくるまって、荷物をまくらに、横になった。

 そばでは、とっくに丸くなったブルーが、ぷしゅー、ぷしゅー、と寝息をたてている。

 それを、三回か四回、聞くか聞かないかのうちに、マッサも、ぐっすり眠りこんでいた。




 それから、どのくらい眠っていたのか、よく分からない。

 突然、ぎゅうっ! と何者かに強く口を押さえられて、マッサは、むぐっ!? と言いながら目を覚ました。

 両目を開けたのに、辺りは真っ暗で、何も見えない。

 まさか、大魔王の手下が襲ってきたのか!?


 マッサは、すぐ側で寝ているはずのガーベラ隊長たちに気付いてもらおうと、必死に、むーっ! むーっ! とうなった。

 すると、


「しーっ、しーっ、しーっ! マッサ、静かにしてください!」


 と、ひそひそ声で、必死に言う声がきこえた。

 あれ? 何だか、聞いたことがある声だ。


「わたしです……わ、た、し! タータです! しーっ、暴れないで! 静かにしてください!」


「んーんんっ!?」


 タータさん!? と言ったつもりだったけど、口を押さえられているせいで、んーんーとしか言えない。

 マッサが、分かった、というしるしに、何度もうなずくと、タータさんは、ようやく手をどけてくれた。


「ぱぁっ……えっ、何、どうしたの!?」


 起き上がったマッサが、ひそひそ声できくと、


「マッサ、急に、ぎゅーっと押さえてしまって、すみません。」


 と、タータさんがささやき返した。


「でも、今、大きな声を出したら、危ないかもしれないんです。」


「えっ、どういうこと?」


 マッサは、よーく目を凝らしてみた。

 暗闇に、目が慣れてきて、近くのものなら、ぼんやりと見える。

 テントの中では、もう、全員が――いや、ブルー以外の全員が目を覚まして、緊張した様子で、外の気配をうかがっていた。


「何? 外に、何かいるの?」


「そのようです。」


 ガーベラ隊長が、短く答えた。


「ほら、見ろ。向こうの……あっちのほうに、でかい岩がいくつかあって、茂みがあるんだが、その陰だ。何か、いやがるぜ。さっき、目が光った。」


 ディールが、ぎゅっと槍を握りしめながら言って、


「わたしが、みつけたんです。」


 と、なぜか嬉しそうに、タータさんが言った。


「えっ、大変だ……起きて、起きて、ブルー!」


 マッサは、まだ、ぷしゅー、ぷしゅー、と寝息を立てているブルーを、いっしょうけんめい揺さぶった。

 でも、こんなときなのに、ブルーは全然、目を覚まさない。


「ああ、もう……ブルーってば! りんご、ぼくが全部、食べちゃうよ!」


『りんご!』


 ブルーが、ぱちっと目を開けた瞬間、みんなが一斉に「しいーっ!」と言った。


『えっ? マッサ、なに? しいーっ、てなに? りんご、ある?』


「ごめん、ブルー、りんごはないんだ……近くに、何かがいるんだって!」


『なにか! ……なにかって、なに?』


「分からないんだ。だから、みんな、静かにして、様子を見てるんだよ。」


「こちらから、うって出ますか?」


 光がもれないようにフードを深くかぶったフレイオが、ガーベラ隊長に低く言って、


「ううむ。」


 と、隊長が、まだ迷っているような声でうなった。

 みんなの緊張が、どんどん高まっていく――



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