マッサたちと、猿と熊と人間
「おっそろしい猿と、おっそろしい熊と、おっそろしい人間……?」
マッサと仲間たちは、顔を見合わせて、ひそひそと言い合った。
「ねえ、その熊って、おじいさんたちが言ってた、あの、熊の化け物のことかな。」
「おそらく、そうでしょうね。」
と、ガーベラ隊長がうなずく。
「これは、ぜひとも、もっと詳しく教えてもらわなくては。」
「うん。……あっ、そうだ。ちょうど、お昼ごはんの時間だし、食事をしながら、おじさんに、いろいろ教えてもらうっていうのは?」
「なるほど、それはいいですね。」
と、いうわけで、マッサたちは、おじさんを、お昼ごはんに招待することにした。
タータさんが、
「さっきは、いきなりナイフを投げつけちゃって、びっくりさせて、すみませんでした。」
と、謝りながら、スープを出した。
おじさんは、最初はびくびくしていたけど、タータさんのスープをひと口飲んだとたんに、ふうっと息をついて、ほっとしたような顔になった。
「食べながらで、申し訳ないのだが、さっそく、いろいろと教えていただきたい。あなたは、熊の化け物を、その目で見たことはあるのか?」
「ああ、ある。」
ガーベラ隊長の質問に、おじさんは、怖そうに肩をすくめながら言った。
「遠くの山の、崖の上に立って、吠えているところを見た。怖かったなあ……」
「じゃあ、やっぱり、熊の化け物は、ほんとにいるんだ!」
『ブルルルルッ! くま、こわい!』
マッサとブルーが、心配そうに言っているあいだに、
「あなたが、その熊の化け物を見たのは、この地図でいうと、どのあたりですか?」
ガーベラ隊長が、荷物の中から地図を取り出して、てきぱきと広げる。
「えっ……えーっ……? 何だ、この、わけのわからない、ごちゃごちゃした線は……」
「ここが、白と黒のしましまの崖ですから、だいたい、今いる場所が、ここ。そして、これが、洞窟。これが、花畑です。」
「あっ……あーっ、なるほど……はい、はい、分かった。それなら、おれが熊を見たのは、たぶん、このへんだ。」
と、おじさんが指さしたのは、なんと、マッサたちが通ることになっている道の、すぐそばの場所だった。
「うおおおっ! やっぱり、熊の化け物、道のそばまで出てきてやがるじゃねえかよっ!」
と、ディールが頭を抱えて、
「これは、どうも、困りましたねえ。」
と、タータさんが、のんびりと言い、
「タータさんには、あの、鋭いナイフ投げの技があるじゃありませんか。ま、私も、炎の魔法がありますから、何が出てきても平気ですけど。」
と、フレイオが言った。
心強いなあ、とマッサは思ったけど、熊だけならともかく、他にも、まだ敵はいるんだ。
「あの、おじさん。それで、猿っていうのは……?」
「ああ……鎧を着た猿だな。」
「それ、もう、猿じゃねえだろ、絶対!」
ディールが叫んだ。
確かに、もっともだ。
「その、鎧を着た猿っていうのも、おじさんは、見たことがあるんですか?」
「ああ……山の、向こう側の斜面を走っているところを、ちらっとだけだがな。熊は、一頭だけだったが、猿は、群れで走ってた。鎧を着てるだけじゃなくて、武器も持ってる。この地図だと……ここが、三本の木だから……このへんかな。」
おじさんが指さした場所は、やっぱり、マッサたちが通る道のすぐそばだった。
『ブルルルルッ! さる、こわい!』
ブルーが叫んで、
「こりゃ、やべえな。」
さすがに深刻な顔になって、ディールが呟く。
「俺たちの行くはずの道は、どうやら、敵がうろうろしていやがる場所の、ど真ん中を通ってるらしい。どうします、隊長?」
「どうする、と言ってもな……他の道は危険だと、おじいさんたちは言っていたし……このまま、突っ切るしかないか? いや、しかし……」
ぶつぶつ言いながら考えこんでしまったガーベラ隊長を、いったん、そっとしておいて、マッサは、
「で、最後の、恐ろしい人間っていうのは、どんなやつらなんですか?」
と、話を進めた。
「ああ……あいつらも、鎧を着て、武器を持ってる。よく、うろうろしているのは、だいたい、このへんだな。」
おじさんは、また、マッサたちが通ろうとしている道の近くを指さした。
「それで、この熊と、猿と、人間たちは、しょっちゅう、お互いに戦ってるよ。」
「えっ?」
マッサは、びっくりした。
「そいつらは、仲間どうしじゃないんですか? どうして、お互いに戦ってるんですか? どうして?」
「えっ……さあ……そんなこと、おれに聞かれても、知らんよ。ただ、戦ってるところを、何度か見たことがあるから。」
「そうですか……」
それ以上くわしいことは、おじさんも知らないようだった。
「どうも、ありがとうございました。」
マッサたちは、いろいろ教えてもらったお礼に、焼き魚を半分と、りんごを一個、おじさんに贈って、手を振って別れた。
さあ……困ったことになってきた。
このまま進めば、敵がうろうろしている、ど真ん中を通過することになりそうだ。
いったい、どうすればいいだろう?