マッサ、あたらしい名前を考える
マッサは、信じられない、と思いながら、念のため、目の前の白い生き物に、声をかけてみた。
「今の声……きみが、言ったの?」
『ぼくだよ!』
鼻と、ひげを、ひくひくさせながら、白い生き物は言った。
「ええーっ!」
しゃべる動物なんて、世界じゅう、どこにもいないはずだ。
でも、今、たしかに、マッサの目の前で、白い生き物がしゃべっている!
「すごいや! ねえ、きみ、なんていう生き物なの?」
『ぼくだよ!』
「……いや、そうじゃ、なくてさ。きみは、なんていう種類の生き物なの?
ぼくは……人間だよ。に・ん・げ・ん! きみは、なんなの?」
『ぼくだよ!』
マッサは、思わず、ずっこけそうになってしまった。
「ぼく、なのは、わかってるよ。そうじゃなくて、種類をきいてるんだけど……
ひょっとして、むずかしくて、わからないのかな。じゃあ、きみの、名前を教えてよ!」
『なまえ?』
「そう、そう! ぼくは、マッサっていうんだ。きみの名前は?」
『ぼくだよ!』
マッサは、頭がくらっとして、ぶっ倒れそうになってしまった。
言葉は、通じるけど、話は、ぜんぜん通じていない。
「そうじゃなくて……名前だよ、な・ま・え! ぼくが、マッサっていうみたいな……
ほら、お父さんとか、お母さんがつけてくれた、名前!」
『おとうさんとか、おかあさん?』
白い生き物は、鼻とひげをぴくぴくさせて、言った。
『おとうさんとかおかあさんって、なに? おいしいの?』
マッサは、今度こそ、本当に、地面にずっこけてしまった。
「ちがうよ! お父さんとか、お母さんは、食べるものじゃないよ。
家族、っていって……まあ、ぼくには、お父さんも、お母さんも、いないけど……」
そこまで言って、マッサは、ふと、気がついた。
もしかすると、この白い生き物は、ひとりぼっちなのかもしれない。
だって、まわりに、仲間や、家族がいる様子がないからだ。
マッサは、生まれたときにはまだいた、お父さんとお母さんに、マッサ、という名前をつけてもらった。
でも、この白い生き物は、もしかしたら、生まれたときからひとりぼっちで、名前も、つけてもらっていないのかもしれない。
「ねえ、きみ……もしかして、名前が、ないの?」
『なまえって、なに? おいしいの?』
「やっぱり!」
マッサは、もう、ずっこけたりせずに、言った。
「きみは、まだ、名前を持ってないんだね。じゃあ、ぼくが、つけてあげるよ!」
『なまえ? つける?』
「そう、そう。ぼくが、きみに、名前をつけてあげるよ。……うーん、どんな名前がいいかな……」
マッサは、白い生き物をじっと見つめて、真剣に考えはじめた。
名前をつけるのは、マッサの、得意なことのひとつだった。
なぜかというと、おはなしを書くときに、いつも、登場人物に名前をつけているから、ひとの名前を考えることには慣れているからだ。
おはなしに出てくる、騎士ブラックは、黒いよろいを着ているから、黒、という意味で、ブラックという名前にした。
最強の魔法使いニャンダースは、ねこをいっぱい飼って、弟子にしているから、ねこの鳴き声をとって、ニャンダースという名前にした。
こんなふうに、名前は、その人のとくちょうを、しっかりあらわしているものがいいと、マッサは思っている。
「そうだなあ。フサフサしてるから、フッサー……うーん……
白いから、シロちゃん……シロッチ……シロベエ……シロスケ……シロタロウ……
ホワイト……ホワホワ……うーん!」
白い生き物は、真剣に考えているマッサを、同じように真剣な顔をして、じっと見上げていた。
その、とてもきれいな青い目が、きらきら光っていた。
「そうだ!」
その目を見て、マッサは、とうとう、ぴったりの名前を思いついた。