マッサたち、地図を作る
「あら、あら、まあ、まあ! 何てことでしょう。」
「こりゃ、大変じゃ! すぐに、村のみんなにも、知らせてこよう。」
マッサたちが、大魔王を倒すための旅のとちゅうだと聞いて、おばあさんは、腰をぬかしていすにへたり込んでしまうし、おじいさんは、大慌てで、家を飛び出していってしまった。
「おいっ、おまえ! 大事な秘密を、何、さらっと、ばらしちまってんだよっ!?」
「秘密、ですか?」
タータさんは、きょとんとして言った。
「どうして、秘密なんです? おじいさんとおばあさんに、教えてあげるくらい、いいじゃないですか。」
「その、じいさんが、もう、村のみんなに知らせに行っちまっただろうがっ! ここから、うわさが広がって、大魔王が、俺たちの居所をつかんで、何千人もの軍勢をさし向けてきたら、どうするつもりなんだよっ!? 俺たちは今、マッサを入れて、六人しかいねえんだぞ!」
「相手が、何千人で、わたしたちが、六人ということは……えーと、割り算をして……ひとりあたり、千人くらいやっつければ……はっ!? うわあ、それは、大変だ!」
「だから、さっきから、そう言ってるだろうがーっ!」
怒る元気もなくなったか、がっくりと、ディールが床にひざをついた、そのときだ。
「いいや、その心配は、ありませんぞ。」
急に、家の外からそんな声がして、みんなが振り返ると、入口に、おじいさんが立っていた。
その後ろの、家の外には、村のひとたちが、ずらりと勢ぞろいしている。
ほとんどが、おじいさん、おばあさんだ。
「わしらが、ここに戻ってきて、住みはじめてからというもの、あんたたちのように勇気のある人たちに出会ったのは、初めてじゃ。わしらは、あんたたちを応援する! もちろん、このうわさを、よそに広めたりはせんから、安心しなされ。」
「そうじゃ、そうじゃ!」
村の人たちが、声をそろえた。
「あっ、それじゃあ……こんなふうに外で集まってたら、目立っちゃうから、みなさん、一度、家の中に入りませんか?」
マッサが言うと、
「おお、そうじゃ、そうじゃ。みんな、わしの家に入ってくれ。せまいところじゃが。」
おじいさんを先頭に、みんながぞろぞろ家の中に入ってきて、小さな家の中は、ぎゅうぎゅうづめになった。
「いででで! 誰だ! おい、誰か、俺の足を、踏んでるっつうの!」
「ブルー、ぼくの肩に乗ってて! つぶれちゃうよ。」
『ムギュウウウウ。』
押したり、引いたり、体をねじったり、ななめにしたりしながら、何とか、全員が家の中に入った。
「つまり、あんたがたは、北に進んで《惑いの海》に出ようとしとるんじゃな。どの道を通って行くつもりなんじゃ?」
「はい、ええと、ぼくたちは、そこに見えてる《二つ頭のヘビ》山脈を越えていこうと思ってるんですけど……」
「だから、山脈を越えるために、どの道を、通っていこうと考えとるんじゃな?」
マッサたちは、顔を見合わせた。
「いや、そこまでは、考えてなかったです。」
「なに! 道も知らんのに、山越え! とんでもない。」
おじいさんたちは、ぶるぶるっと頭を振って、口々に言い始めた。
「《二つ頭のヘビ》山脈は、いくつもの山が重なりあって、ひどく道が入り組んどる。道も知らずに、素人だけで入り込むなど、無謀すぎるわい!」
「うっかり迷い込んだら、遭難してしまうぞ。」
「そうじゃ、そうじゃ。ちゃんとした、地図がなけりゃ。」
「あっ、そうじゃ。おい、ハンス!」
おじいさんが、急に、村の人たちの中から、ひとりのおじいさんを呼んだ。
「ハンスよ、おまえ、戦争の前には、あの山の上に、小屋たてて住んどったじゃろ。たくさん、山羊を飼ってな。」
「おう、その通りじゃ! あの辺の道なら、今でもしっかり、頭の中に残っとるわい。」
「よし、それなら、この人らのために、地図を描いてやれ!」
「分かった、わしに任せい! ……ぬうっ!? よう考えたら、描くための道具が、何もないぞ!」
「それなら、私が持ってきたペンと、紙を使うといいでしょう。」
と、フレイオが言って、自分のかばんから、紙とペンを出してきてくれた。
「すごいや、フレイオさん! 紙とペンまで、持ってきてたんですね。」
「自分の勉強に使おうと思っていたのですがね。まさか、こんなふうに役立つとは。」
フレイオに紙とペンを借りたハンスじいさんのまわりを、村の人たちが取り囲む。
「おい、ハンス。しっかり、正確に描くんじゃぞ。」
「分かりやすい目印も、描き込んであげるんだよ。変わった形の岩とか、背の高い木とかさ。」
「よーく、思い出しなさいよ。間違えちゃだめだよ!」
「そうじゃ、そうじゃ。正確にな!」
「ええい、うるさいのう! こう、やかましいと、集中できんわい。」
こうして、ハンスというおじいさんが、村のみんなに囲まれながら、いっしょうけんめい、地図を描いてくれた。
「さあ、できたぞ! これを持っていけば、もう大丈夫じゃ。」
「ありがとうございます!」
マッサたちは、渡されたその地図をいっせいにのぞきこんで――
いっせいに、目をぱちくりさせた。
「えっ……これは……えっ? どれが、正しい道ですか?」
「これじゃ!」
紙いっぱいに広がった、ぐねぐねの線の中の一本を、ハンスじいさんは、自信満々に指さした。
「じゃあ、これは?」
「小川じゃ!」
「これは?」
「崖じゃ!」
「全部、同じように見えるぞっ!?」
と、思わず叫ぶディール。
「私が、文字で説明を書き込んでおこう……」
と、ガーベラ隊長が言って、地図の上に「川」とか「崖」とか、書きこんでいった。
マッサは、さらにたずねた。
「この、線が三つに分かれてて、真ん中にだけ、黒い丸がついてるのは、何ですか?」
「そりゃ、分かれ道じゃ。道が、三本に分かれとる。そのうち、真ん中の道を進め、ということじゃな。」
「この、黒いもじゃもじゃは、何ですか?」
「そりゃ、洞窟じゃ。」
『もじゃもじゃじゃない! ブループルルプシュプルー!』
「いや、おまえのことじゃ、ねえって。」
かんちがいして怒るブルーを、珍しく、ディールがなだめている。
「この、ハエがいっぱい、とまってるみたいなのは……?」
「ハエじゃないわい。花畑じゃ!」
「えっ? じゃあ、この、ぼさぼさになった筆が三本、ならんでるみたいなやつは……」
「木じゃ!」
「木が、三本……と。」
ハンスじいさんが描いた絵の横に、ガーベラ隊長が説明を書き込んで、ようやく、地図は完成した。