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マッサたち、ばれる

「御親切に感謝します。」


 と言いながら、まず、ガーベラ隊長が家に入って、


「邪魔するぜ。」


 と言いながら、ディールも入った。

 それから、マッサが、


「おじゃましまーす!」


 と大きな声であいさつをしながら入って、


『こんにちは! おいしいもの、ある?』


 と、ブルーが後に続いた。


「うわ! 大きなねずみが、しゃべりよった!」


 と、おじいさんが、びっくりして、


「あら、あら、まあ、まあ! 見たこともないくらい、かわいいねずみねえ。白くて、大きくて、ふさふさ!」


 部屋の奥にいたおばあさんが、手を叩いて喜んだ。


『ぼく、ねずみじゃない! ブループルルプシュプルー!』


 と、ブルーが怒っているあいだに、


「どうも。」


 とフレイオが入って、


「こんにちあ痛ぁっ!?」


 と、背の高いタータさんが、入口の上のところに頭をぶつけながら、何とか入った。


 小さな家だから、みんなが入ると、部屋の中は、もう、ぎゅうぎゅうだ。

 みんな、ちょっとずつ体をずらして、奥につめたり、かついでいた荷物を降ろして、足元に置いたりして、何とかかんとか、うまくおさまるように調節した。


「ちょうど、お湯をわかして、お茶をいれようとしていたところなんですよ。」


 と、おばあさんが、みんなのあいだをすり抜けて、やかんを持ってきてくれた。


「いち、にい、さん、しい、ごお……お客さんは、五人ね。さあ、どうぞ。」


『ぼくも、ぼくも! ぼくも、いる!』


「あら、あら、まあ、まあ、ねずみさんも? はい、じゃあ、六人分。」


『ぼく、ねずみじゃない! ブループルルプシュプルー!』


「おいしいお茶ですね。」


 まっさきに、カップに口をつけたガーベラ隊長が、にっこり笑いながら言った。


「しかし……見たところ、お二人暮らしのようなのに、このうちには、ずいぶん、大勢のぶんのカップがあるんですね。」


 隊長の言葉を聞いて、あっ、そういえば! と、マッサは思った。

 マッサは、無事に家に入れてもらえて、すっかりくつろいだ気持ちになっていたけど、ガーベラ隊長は、まだ、全然、油断していなかった。


 この、優しそうなおじいさんとおばあさんが、実は、親切そうなふりをして、マッサたちを罠にかけようとしている、大魔王の手下だった……という可能性も、ないとは言い切れない。

 カップがたくさんあるということは、この家は、二人暮らしと見せかけて、ふだん、もっと大勢が集まることがある、ということだろうか?


「ああ、これはね、昔から、うちにあるカップですよ。十年前の戦争のとき、お茶のセットだけは、何とか、焼けのこってね。わたしのお母さんが、大切に、箱に入れて、しまっていましたからね。」


 と、おばあさんが、なつかしそうに言った。


「今じゃ、こんな、さびしいところですけどね。わたしたちが、子供のころには、このあたりにも、大勢の旅人の行き来があったんですよ。そういう人たちを、昔は、しょっちゅう、うちに泊めてあげて、おもてなししたものです。」


「今では、こんな小さな家じゃが、昔は、もっと大きな、立派な家だったんじゃ。それに、まわりの家だって、もっとたくさん建っていたんじゃよ。ここは、もともとは、もっと大きな村でな。……じゃが、大魔王がせめてきた戦争のせいで、村が、めちゃくちゃになってしもうて。」


「そう、そう。怖かったわ。家族みんなで、ここを離れて、はなれた土地まで、逃げました。でも、やっぱり、わたしたちは、生まれ育ったこの土地が、なつかしくてねえ。戦争が終わってから、戻ってきて、小さな家を建て直して、住んでいるんですよ。」


「今、このまわりに建っている家は、みんな、そうやって戻ってきた者が、建て直して住んどる家ばかりじゃ。まあ、若い者たちは、なかなか、戻りたがらんかったから、今、ここらへんにおるのは、わしらのような、じじいや、ばばあばかりじゃがのう。」


「なるほど……そういうことでしたか。」


 ガーベラ隊長は、ちょっと申し訳なさそうな顔で、そう呟いた。


「ああ、また、昔のようになったらいいのにねえ!」


 おばあさんは、大きな溜息をついて、そう言った。


「たくさんのお客さんをお迎えして、おもてなしして、いろいろな遠いところの話を聞いて。……でも、そんなこと、今さら言ったって、しかたがないわねえ。」


「いいえ! そんなこと、ないですよー!」


 急に、後ろのほうにいたタータさんが、ものすごく大きな声を出したので、みんなは、もうちょっとで、荷物の上にお茶をこぼすところだった。

 タータさんは、床に置いてあるみんなの荷物を、ひょいっとひとまたぎにして、おばあさんの前に来ると、二本の手で、おばあさんの手を握りしめて、ぶんぶんと振った。


「おばあさん。あなたの気持ち、わたしにも、よくわかります! 昔は、たくさんの旅人たちが遊びに来てくれたのに、今は、全然来てくれない。わたしの村も、同じなんです!」


「あら、あら、まあ、まあ! あなた、手が、四本もあるの!」


 おばあさんは、タータさんの腕の数にびっくりしているようだったけど、タータさんは、そんなこと、耳にも入っていない様子で、いっしょうけんめい言った。


「お客さんが来てくれないのは、本当に、さびしいですことです。また、昔みたいに、たくさんの人が、安心して行ったり来たりできるようになったら、すばらしいですよね!」


「ええ、ええ、それは、もちろんですよ。でも、そんなの、もう、今さら、無理でしょう。」


「無理じゃ、ないですよ!」


 タータさんは、驚いているおばあさんの手をしっかり握りしめたまま、力強く言った。


「だって、わたしたちが、これから、大魔王を、やっつけに行くんですから!」


「おいっ!?」


 一番近くにいたディールが、慌てて、タータさんの背中をばしばし叩いた。


「ばかやろう! そんなこと、でけえ声で、言うなっつうの!」


「何ですと!?」


 そばで話を聞いていたおじいさんが、目を丸くして、言った。


「あなたがたが、これから、大魔王を、やっつけに行くんですと!?」


「だああっ! じいさん! だから、でけえ声を、出すなって!」


「そうですよ! わたしたちが、これから、大魔王を――」


「うおおおおっ! もう、いい加減にしやがれ!」


 にこにこしているタータさんの口を、ディールが必死にふさごうとするけど、どう考えても、もう手遅れだ。


「……実は、そういうことなのです。」


 マッサと顔を見合わせて、深いため息をついてから、ガーベラ隊長が、重々しく言った。


「我々は、大魔王を倒すため、北の《惑いの海》を目指して、旅をしている途中なのです。」



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