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マッサたち、お願いする

 みんなが丘の上の茂みに伏せて、どきどきしながら見守っているあいだに、タータさんは、草の多いところを選びながら、肘と膝を使って、びっくりするくらいの速さでするすると地面を這い、煙突から煙が出ている家に近づいていった。


「あいつ、なんで、あんなに速えんだ……」


「やはり、腕が四本あると、茂みを這って移動するにも便利なのだな。」


 ディールとガーベラ隊長が、そんなことを言い合っているあいだに、タータさんはあっという間に目的の家のそばまでたどり着き、扉に耳を当てて中の音を聞いたり、小さな窓から、家の中をのぞいたりした。

 偵察が終わると、タータさんは、また茂みの中をするする這いながら、マッサたちのところまで、すばやく戻ってきた。


「タータさん、どうだった!?」


 勢い込んで、マッサがきくと、タータさんは、


「家の中に、おじいさんと、おばあさんがいました。優しそうな人たちでしたよ。」


 と教えてくれた。

 ふむ、と、ガーベラ隊長がうなずいた。


「では、大魔王の手下でありそうな感じは、しなかったのだな。」


「ええ、全然!」


「どこかに、大魔王の手下が隠れていそうな様子は?」


「それも、なかったですねえ。」


「……では、みんなで行ってみましょうか。」


 隊長が言って、マッサたちは、みんなで丘を下り、その家に近づいていった。


 扉の前まで来ると、みんなは、立ち止まって、互いに顔を見合わせた。

 どうやら、みんな、だいたい同じことを考えているみたいだ。


 ふつうに暮らしているおじいさんやおばあさんが、急に、コンコン! と家の扉をノックされて、ギーッと開けてみたら、いきなり、剣や槍を持った集団が立っていた――

 ということになったら、おじいさんやおばあさんは、腰をぬかしちゃうかもしれないし、心臓がドキーン! となって、倒れちゃうかもしれない。

 ノックをして、扉を開けてもらう役を、誰がするのが、一番いいだろう?


 ディール……は、槍を持ってるし、体がごついし、顔も怖いし。

 ガーベラ隊長……も、槍を持ってるけど、女の人だから、ディールよりは、いいかもしれない。でも、顔つきや目つきがきりっとしていて、知らない人からしたら、やっぱり、ちょっと怖いかもしれない。

 タータさん……は、にこにこしてるし、優しそうだけど、腕が四本あるから、何も知らない人がいきなり見たら、それだけで、びっくりしちゃうだろうし。

 フレイオ……は、体も顔も、目もきらきら光っているから、やっぱり、相手がびっくりしちゃうだろうし、それを隠すために黒いフードをかぶったら、今度は、完全に、怪しいやつみたいになってしまって、余計に怖い。

 と、なると――?


「ぼく、行こうか?」


 マッサがそう言うと、


「いや、しかし、王子が先頭というのは……」


 警戒を忘れない隊長が、難しい顔をした。

 すると、


『ぼく、いく!』


 そう言って、マッサのリュックサックの上から、ぴょーんと飛び降りたのは、もちろんブルーだ。


「えっ……大丈夫?」


『うん!』


 ブルーは言って、ぶわっ! と全身の毛をふくらませ、むんっ! と力こぶのポーズをして、シャーッ! と歯をむき出した。


『だいまおう、でてきたら、ぼく、やっつける!』


「さすがに、大魔王は出てこねえと思うけどな……」


 ブルーの様子を見ていたディールが、呆れて呟いた。


「ちがう、ちがう!」


 マッサは、ブルーの前にしゃがみ込んで、教えてあげた。


「ブルー、やっつけるんじゃなくて、こんにちは! って言うんだよ。とんとん、って扉を叩いてから、こんにちは! って言うんだ。できる?」


『できる!』


 ブルーは、自信満々にそう言うと、ふくらませていた毛を、しゅん! と元に戻して、たったったっと、扉に近づいていった。

 そして、ちっちゃな手で、とんとんとん! と扉を叩いて、


『こんにちは、こんにちは!』


 と言った。


『こんにちは、こんにちは! おいしいもの、ある?』


「……何を、きいてんだよ。」


 少し緊張しながら身構えていたディールが、がくっと、こけそうになった。

 マッサたちも、同じ気持ちだ。

 と、そこへ、


「どなたですか。」


 と、家の中から、ものすごく警戒している感じの、おじいさんの声がした。


『どなた? なに? ぼく? ブループルルプシュプルー!』


「いや、いきなり名前だけ言っても、分からねえだろ!」


 さっきより、もっとずっこけそうになりながら、ディールが言った。


「我々は、旅の者です。」


 けっきょく、少し離れたところから、みんなを代表して、ガーベラ隊長が言った。


「突然おしかけて、図々しいお願いかとは思いますが……もし、よろしければ、こちらで、少し休ませてはいただけないでしょうか? なにぶん、こちらには、小さい子供や、小さい生き物もおりまして。」


『ちいさいいきもの? ちいさいいきものって、だれ?』


「そりゃ、おまえだろっ!」


 ブルーとディールが、ひそひそ、言い合っている。

 マッサは、ガーベラ隊長にいきなり「小さい子供」扱いされて、ちょっとびっくりしたけど、すぐに、


(これは、ぼくが王子だということが、ばれないためのお芝居だな。)


 と気が付いたので、何も言わず、黙っていた。


「小さい子……?」


 と、扉の内側から、ちょっと悩むような、ひとりごとのような声が聞こえて、しばらく経ってから、ギイッ……と、ほんの少しだけ、扉が開いた。

 その、細いすきまから、おじいさんの顔が、用心深そうに、こっちをのぞいた。


「こんにちは!」


 マッサは、いそいで、自分が一番にあいさつをした。

 小さい生き物のブルーが、いきなり喋りだしたら、おじいさんがびっくりすると思ったからだ。


「ぼくたち、旅の途中なんです。ぼくは、マッサ。この生き物が、ブルー。それで、こっちが、ガーベラ隊長、ディールさん、タータさん、フレイオさんです。」


「隊長じゃと……?」


「ああ、ええと、ガーベラ隊長とディールさんは、ここからずっと遠い、ロックウォール砦っていうところの騎士団の人で……だから、こんなふうに、槍を持ってるんです。でも、怖くないですよ。絶対、暴れたりしませんから、大丈夫です!」


「当たり前だろうがっ!?」


 ディールが、思わずそう叫んでから、すぐに、あっと思ったのか、できるだけまじめそうな顔をして、できるだけまじめそうに、まっすぐ立った。

 おじいさんは、しばらくのあいだ、扉のすきまから、じろじろとマッサたちを観察していたけど、やがて、


「……いいじゃろう。入りなされ。」


 と言って、扉を開けてくれたのだった。


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